文献情報
文献番号
202516008A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症観の変遷と現状課題把握のための学際的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
25GB1002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
笠貫 浩史(聖マリアンナ医科大学 神経精神科)
研究分担者(所属機関)
- 杉山 智子(順天堂大学 医療看護学部)
- 涌井 智子(東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム)
- 郷堀 ヨゼフ(淑徳大学 大学院総合福祉研究科)
- 岡村 毅(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
- 宮前 史子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 自立促進と精神保健研究チーム)
- 宇良 千秋(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
- 井藤 佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム)
- 成本 迅(京都府立医科大学 大学院医学研究科精神機能病態学)
- 角谷 快彦(広島大学 経済学部/大学院人間社会科学研究科経済学プログラム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和7(2025)年度
研究終了予定年度
令和9(2027)年度
研究費
10,216,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1.「新しい認知症観」の学術的基盤構築を目的とし、認知症観の概念整理、尺度形成、当事者・家族・医療者・地域社会における認知症観の実態把握、およびその形成に影響する社会的・文化的・経済的要因を学際的に検討する。
2.認知症施策推進基本計画が掲げる「新しい認知症観」の具体化に向け、認知症観の可視化と構造化を行い、共生社会実現に資する啓発資材作成、および社会提言への基礎的知見を得る。
2.認知症施策推進基本計画が掲げる「新しい認知症観」の具体化に向け、認知症観の可視化と構造化を行い、共生社会実現に資する啓発資材作成、および社会提言への基礎的知見を得る。
研究方法
医療、看護、心理、社会学、医療人類学、医療経済学等の専門家による学際的研究チームを組織し、認知症観に関する7領域の研究を実施した。まず、既存文献の整理と多職種討議を通じて認知症観の概念化を行い、認知症観尺度(Scale of Perceptions/Perspectives on Dementia, SoPOD)の試案を作成したうえで、全国一般市民を対象としたWeb調査を実施した。さらに、認知症本人が参加する就労支援の場、本人ミーティング、ケアファームにおいて参与観察やインタビューを行い、認知症観が形成・変容する過程を質的に分析した。家族調査では、認知症やMCIの診断を受けた高齢者の家族を対象に、認知症神経精神症状に対する理解や情報支援との関連を検討した。医療・看護現場では、認知症支援に関わる専門職へのヒアリングおよび看護師を対象としたWeb調査を実施し、認知症観やスティグマとの関連要因を解析した。また、認知症観の社会経済的要因に関する全国調査の基盤整備を行うとともに、「痴呆」から「認知症」への呼称変更に関する文献レビュー、および認知症観・認知症スティグマの国際比較研究を実施した。
結果と考察
認知症観は単なる疾患知識ではなく、知識、態度・感情、認知枠組み・病期認識、スティグマ、行動意図などを含む多面的概念であることが明らかとなった。尺度開発研究では、「理解・受容・社会的包摂」と「不安・喪失感・スティグマ」の二側面が抽出され、認知症観の構造化が可能であることが示唆された。
認知症本人が参加する就労支援の場や本人ミーティング、ケアファームの調査では、認知症の人と継続的かつ対等に関わる経験を通じて、認知症を「特別な存在」ではなく地域社会の一員として捉える認識変化が生じている確かな可能性を確認した。認知症観は知識提供のみで形成されるのではなく、役割の共有や共同活動などの実践的経験を通じて変容することが示唆された。
家族調査では、認知症やMCIの診断そのものは「疾患理解」を促進する一方、本人の行動を「性格」の問題として捉えてしまう「性格理解」の傾向を十分には改善しなかった。これに対し、専門職による継続的な情報支援は、疾患理解を深めるとともに、性格・意図帰属を低減させることと関連していた。特にMCI段階からの支援の重要性が示された。
医療・看護現場では、認知症看護認定看護師資格や認知症の人との継続的接触経験が、認知症の人に対する回避や診断への恐怖を低下させ、尊重的態度を高めることと関連していた。また、医療現場ではSDMやACPの重要性が認識されている一方、本人・家族間の意向不一致や制度的制約など、多くの実践上の課題も明らかとなった。
さらに、呼称変更に関するレビューでは、「認知症」への名称変更はスティグマ軽減を目的とした重要な社会的介入であったことが確認されたが、依然として偏見や恐怖感は残存していた。国際比較研究からは、認知症スティグマが文化や制度、社会的文脈によって形成されることが示され、「新しい認知症観」の実現には医療のみならず社会全体の取り組みが必要であると考えられた。
認知症本人が参加する就労支援の場や本人ミーティング、ケアファームの調査では、認知症の人と継続的かつ対等に関わる経験を通じて、認知症を「特別な存在」ではなく地域社会の一員として捉える認識変化が生じている確かな可能性を確認した。認知症観は知識提供のみで形成されるのではなく、役割の共有や共同活動などの実践的経験を通じて変容することが示唆された。
家族調査では、認知症やMCIの診断そのものは「疾患理解」を促進する一方、本人の行動を「性格」の問題として捉えてしまう「性格理解」の傾向を十分には改善しなかった。これに対し、専門職による継続的な情報支援は、疾患理解を深めるとともに、性格・意図帰属を低減させることと関連していた。特にMCI段階からの支援の重要性が示された。
医療・看護現場では、認知症看護認定看護師資格や認知症の人との継続的接触経験が、認知症の人に対する回避や診断への恐怖を低下させ、尊重的態度を高めることと関連していた。また、医療現場ではSDMやACPの重要性が認識されている一方、本人・家族間の意向不一致や制度的制約など、多くの実践上の課題も明らかとなった。
さらに、呼称変更に関するレビューでは、「認知症」への名称変更はスティグマ軽減を目的とした重要な社会的介入であったことが確認されたが、依然として偏見や恐怖感は残存していた。国際比較研究からは、認知症スティグマが文化や制度、社会的文脈によって形成されることが示され、「新しい認知症観」の実現には医療のみならず社会全体の取り組みが必要であると考えられた。
結論
初年度の検討から、認知症観は疾患知識のみでは説明できない多面的概念であり、社会参加、役割保持、対人関係、スティグマなどの要素を含むことが明らかとなった。また、その形成・変容には認知症の人との継続的かつ対等な接触経験、専門職による診断後支援、地域における参加機会の創出が重要であることが示された。本研究班では「自分がもし認知症になったら」というアイクエスチョン形式による「認知症観尺度」を暫定的に作成した。ここにはふたつの意図が込められている。ひとつには「認知症観」が第三者的な立場からの認識に留まらず、質問票への回答そのものが国民各人にとって「自分事として認知症について主体的に考える」契機となることを願う意図である。もう一点は、「認知症観」が時代に合わせて変化してきた歴史的経緯を鑑み、今後は抽象的理念に終わることなく、可視化・測定可能な「対象」として認知症観を再定義する意図である。表層的な知識啓発に終始することなく、「認知症観」を診断後支援、認知症共生社会施策効果の経時的変化評価における重要なアウトカム指標として活用できる可能性等も念頭に置き、次年度は尺度の妥当性の検討を進め、7領域の各研究を引き続き進捗させる予定である。
公開日・更新日
公開日
2026-07-02
更新日
2026-07-09