文献情報
文献番号
202516004A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症医療の進展に伴う社会的課題への対応のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24GB1001
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
新井 哲明(筑波大学 医学医療系臨床医学域精神医学)
研究分担者(所属機関)
- 五十嵐 中(東京大学 大学院薬学系研究科)
- 岩田 淳(東京都健康長寿医療センター)
- 春日 健作(国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター 診断イノベーション研究部)
- 新美 芳樹(東京大学大学院医学系研究科 医療経済政策学)
- 東 晋二(東京医科大学 医学部)
- 山中 克夫(筑波大学人間系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
7,473,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
概要版(繰越課題)
本研究班は、抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬の導入に伴って顕在化する医療的・社会的課題に対応し、持続可能で公平な認知症医療提供体制を構築することを目的としている。今年度は、抗Aβ抗体薬の地域実装、医療経済評価、血液バイオマーカーの導入、適応拡大をめぐる課題、意思決定支援を含めた当事者支援、非薬物療法の実装可能性について、多角的な検討を行った。
地域実装に関しては、茨城県をモデル地域として、認知症疾患医療センターを基盤とした「ネットワーク連携の会」を継続的に開催し、初回導入施設と継続投与施設の役割分担、施設間連携、診療・検査・投与体制の課題を整理した。その結果、診断精度の向上、MCI段階での紹介不足、MRI・点滴・診察枠や人員の不足、ARIA対応、18か月以降の治療継続判断、同意取得や保険請求等の事務負担、患者・家族への説明内容の標準化などが重要課題として抽出された。一方で、施設リストの可視化、管理シートや記載テンプレートの共有、多職種による役割分担、説明資材の活用、レジストリ研究への参画など、実臨床に即した対応策も蓄積された。
実臨床データの検討では、東京都健康長寿医療センターにおける抗Aβ抗体薬導入過程を分析し、専門外来受診者のうち治療開始に至った者は一定割合にとどまり、進行例、アミロイド陰性例、MRI禁忌例などが非適応となる主要因であることが示された。ARIAは適切なモニタリングにより管理可能であったが、治療適応判断、本人と家族の意思決定の乖離、専門医療機関とかかりつけ医の役割分担など、非財務的障壁が明らかとなった。
医療経済学的検討では、Value Based Pricingの観点から、認知症治療の価値を医療費や患者QOLのみで評価することの限界が示された。文献レビューにより、家族介助者によるインフォーマルケア、家族への健康影響、いわゆるfamily spilloverが重要な価値要素であることが確認された。一方で、評価手法によって推計値が大きく異なり、専門職介護者の負担評価も十分でないことから、患者・家族・社会への波及効果を含む多面的・多層的な価値評価枠組みの必要性が示された。
血液バイオマーカーについては、国際的に臨床実装が進展し、本邦でも測定体制の整備が進みつつある一方、検査結果の解釈、患者・家族への告知、臨床医教育、地域・施設間格差が課題となることが明らかとなった。低侵襲な検査であるがゆえに、前臨床段階の病態や将来リスクをどのように伝え、フォローするかについて、倫理的配慮を含む標準化された説明体制と意思決定支援ツールの整備が求められる。
また、プレクリニカル期ADや複合病理例への将来的な適応拡大について、既存アンケートの解析、治験動向、文献調査を踏まえて検討した。適応拡大は早期介入の可能性を広げる一方で、無症候段階での診断・治療に伴う心理的影響、医療資源配分、社会的合意形成などの課題を伴うため、次年度に向けたフォローアップ調査の準備を進めた。
当事者支援に関する質的研究では、抗Aβ抗体薬導入者および非対象者への半構造化面接を行い、治療が単なる薬剤投与ではなく、診断受容、家族関係、生活再設計、セルフマネジメント、社会参加に影響する複合的経験であることが示された。したがって、共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)は同意取得の手続きにとどまらず、本人が治療の意味を自分の生活に即して理解し、継続・中止・代替的支援を含めて主体的に選択できるプロセスとして設計されるべきであり、本人の生活や価値観に即した支援が重要である。また、非対象者に対しても、診断後に孤立させず、既存治療、生活習慣介入、社会参加支援を含む代替的なケアパスを提示することが重要である。
さらに、非薬物療法として認知刺激療法(Cognitive Stimulation Therapy:CST)に着目し、英国・香港の実施体制や文献を調査した。海外ではCSTが診断後支援として地域資源を活用し提供されている例があり、日本でも、抗Aβ抗体薬非適応者を含む初期認知症患者への基本的支援として、医療・介護・福祉・地域資源を統合した実装モデルの構築が必要である。
以上より、抗Aβ抗体薬時代の認知症医療では、診断、治療導入、継続、安全管理、説明支援、非適応者への支援、価値評価を一体として捉える地域包括的な実装モデルが不可欠である。今後は、リアルワールドデータの蓄積、多職種・多施設連携、教育資材や意思決定支援ツールの標準化、非薬物療法を含むケアパスの整備等を通じて、当事者が尊厳を保ち、自らの生活を継続できる社会的支援体制の構築を目指す。
地域実装に関しては、茨城県をモデル地域として、認知症疾患医療センターを基盤とした「ネットワーク連携の会」を継続的に開催し、初回導入施設と継続投与施設の役割分担、施設間連携、診療・検査・投与体制の課題を整理した。その結果、診断精度の向上、MCI段階での紹介不足、MRI・点滴・診察枠や人員の不足、ARIA対応、18か月以降の治療継続判断、同意取得や保険請求等の事務負担、患者・家族への説明内容の標準化などが重要課題として抽出された。一方で、施設リストの可視化、管理シートや記載テンプレートの共有、多職種による役割分担、説明資材の活用、レジストリ研究への参画など、実臨床に即した対応策も蓄積された。
実臨床データの検討では、東京都健康長寿医療センターにおける抗Aβ抗体薬導入過程を分析し、専門外来受診者のうち治療開始に至った者は一定割合にとどまり、進行例、アミロイド陰性例、MRI禁忌例などが非適応となる主要因であることが示された。ARIAは適切なモニタリングにより管理可能であったが、治療適応判断、本人と家族の意思決定の乖離、専門医療機関とかかりつけ医の役割分担など、非財務的障壁が明らかとなった。
医療経済学的検討では、Value Based Pricingの観点から、認知症治療の価値を医療費や患者QOLのみで評価することの限界が示された。文献レビューにより、家族介助者によるインフォーマルケア、家族への健康影響、いわゆるfamily spilloverが重要な価値要素であることが確認された。一方で、評価手法によって推計値が大きく異なり、専門職介護者の負担評価も十分でないことから、患者・家族・社会への波及効果を含む多面的・多層的な価値評価枠組みの必要性が示された。
血液バイオマーカーについては、国際的に臨床実装が進展し、本邦でも測定体制の整備が進みつつある一方、検査結果の解釈、患者・家族への告知、臨床医教育、地域・施設間格差が課題となることが明らかとなった。低侵襲な検査であるがゆえに、前臨床段階の病態や将来リスクをどのように伝え、フォローするかについて、倫理的配慮を含む標準化された説明体制と意思決定支援ツールの整備が求められる。
また、プレクリニカル期ADや複合病理例への将来的な適応拡大について、既存アンケートの解析、治験動向、文献調査を踏まえて検討した。適応拡大は早期介入の可能性を広げる一方で、無症候段階での診断・治療に伴う心理的影響、医療資源配分、社会的合意形成などの課題を伴うため、次年度に向けたフォローアップ調査の準備を進めた。
当事者支援に関する質的研究では、抗Aβ抗体薬導入者および非対象者への半構造化面接を行い、治療が単なる薬剤投与ではなく、診断受容、家族関係、生活再設計、セルフマネジメント、社会参加に影響する複合的経験であることが示された。したがって、共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)は同意取得の手続きにとどまらず、本人が治療の意味を自分の生活に即して理解し、継続・中止・代替的支援を含めて主体的に選択できるプロセスとして設計されるべきであり、本人の生活や価値観に即した支援が重要である。また、非対象者に対しても、診断後に孤立させず、既存治療、生活習慣介入、社会参加支援を含む代替的なケアパスを提示することが重要である。
さらに、非薬物療法として認知刺激療法(Cognitive Stimulation Therapy:CST)に着目し、英国・香港の実施体制や文献を調査した。海外ではCSTが診断後支援として地域資源を活用し提供されている例があり、日本でも、抗Aβ抗体薬非適応者を含む初期認知症患者への基本的支援として、医療・介護・福祉・地域資源を統合した実装モデルの構築が必要である。
以上より、抗Aβ抗体薬時代の認知症医療では、診断、治療導入、継続、安全管理、説明支援、非適応者への支援、価値評価を一体として捉える地域包括的な実装モデルが不可欠である。今後は、リアルワールドデータの蓄積、多職種・多施設連携、教育資材や意思決定支援ツールの標準化、非薬物療法を含むケアパスの整備等を通じて、当事者が尊厳を保ち、自らの生活を継続できる社会的支援体制の構築を目指す。
公開日・更新日
公開日
2026-06-10
更新日
-