間葉系幹細胞を利用した新しい造血幹細胞移植技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201023019A
報告書区分
総括
研究課題名
間葉系幹細胞を利用した新しい造血幹細胞移植技術の開発に関する研究
課題番号
H20-免疫・一般-020
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 勝俊(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
5,884,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間葉系幹細胞(MSC: mesenchymal stem cell)には免疫抑制作用があり、その臨床応用(MSCを用いた細胞治療)として、同種造血幹細胞移植後のステロイド不応性の重症急性移植片対宿主病(GVHD)に対する治療効果が期待されている。本研究ではMSCの免疫抑制能に関する基礎研究を行い、造血幹細胞移植へのMSCの臨床応用を推進する。
研究方法
1)マウスMSCのT細胞分化、特にTh17分化と制御性T細胞分化に及ぼす影響を調べた。2)ヒトMSCバンク:様々な患者からMSCを樹立した。3)重症急性GVHDに対するMSC治療の臨床研究:本年度は第3例目が登録された。66歳のマントル細胞リンパ腫の症例でステロイドパルス抵抗性の消化管GVHDを合併し、MSC投与を行った。
結果と考察
1)マウスMSCは共培養で制御性T細胞分化には大きな変化をもたらさなかったが、Th17分化を強力に抑制した。MSCはT細胞の増殖自体を抑制するため、分化に及ぼす影響には慎重な評価が必要であるが、そういった点を鑑みてもTh17分化を抑制していることが明らかとなった。PGE2の産生阻害剤やIDO (indoleamine-2,3-dioxygenase)阻害剤の添加により、Th17分化抑制の部分的解除が認められ、MSCのTh17分化抑制にはPGE2やトリプトファン枯渇が寄与していると推察された。2)ヒトMSCバンクの構築を本年度も続け、総数は52症例となった。その内訳は正常骨髄23例、造血不全8例、急性白血病9例、骨髄増殖性疾患6例、その他6例となっている。3)本年度の症例は、重症難治性の消化管GVHDでレミケード2回投与後であったため、MSC治療の評価は困難であった。
結論
1)MSCの免疫抑制能に関して、炎症性のTh17分化を強力に抑制し、炎症抑制性の制御性T細胞の分化は抑制しないという結果が得られた。2)ヒトMSCバンクについて、総計52症例から樹立を行った。3)難治性急性 GVHD患者に対して第3例目のMSC投与を行った。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201023019B
報告書区分
総合
研究課題名
間葉系幹細胞を利用した新しい造血幹細胞移植技術の開発に関する研究
課題番号
H20-免疫・一般-020
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 勝俊(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間葉系幹細胞(MSC: mesenchymal stem cell)には免疫抑制作用があり、その臨床応用(MSCを用いた細胞治療)として、同種造血幹細胞移植後のステロイド不応性の重症急性移植片対宿主病(GVHD)に対する治療効果が期待されている。本研究ではMSCの免疫抑制能に関する基礎研究を行い、造血幹細胞移植へのMSCの臨床応用を推進する。
研究方法
1)ヒトMSCの免疫抑制機序:T細胞増殖の抑制活性の測定と、NO (nitric oxide)やPGE2の産生を調べた。2) IL-21のデコイ受容体を作成し、アデノウイルスベクターでMSCに発現させ、さらにマウスGVHDモデルに投与した。3)マウスMSCのTh17分化と制御性T細胞分化に及ぼす影響を調べた。4)ヒトMSCバンク:様々な患者からMSCを樹立した。5)重症急性GVHDに対するMSC治療の臨床研究を行った。
結果と考察
1)ヒトMSCの免疫抑制機序:マウスMSCの場合のようなNOの関与は否定的であり、PGE2が重要と考えられた。2)IL-21がGVHDを増強することが明らかになったため、IL-21のデコイ受容体を強制発現したMSCを作製し、GVHDモデルマウスに投与する実験を行ったが、生存期間の延長は得られなかった。3)マウスMSCは共培養で制御性T細胞分化には大きな変化をもたらさなかったが、Th17分化を強力に抑制した。PGE2の産生阻害剤やIDO (indoleamine-2,3-dioxygenase)阻害剤の添加により、Th17分化抑制の部分的解除が認められ、MSCのTh17分化抑制にはPGE2やトリプトファン枯渇が寄与していると推察された。4)ヒトMSCバンクの構築では、合計52症例となった。5)重症急性GVHDに対するMSC治療の臨床研究では、計10名でMSCを準備し、計3例にMSC投与を実施した。安全性の確認ができた。
結論
1)MSCの免疫抑制能に関して、炎症性のTh17分化を強力に抑制し、炎症抑制性の制御性T細胞の分化は抑制しないという結果が得られた。2)ヒトMSCバンクの構築を行った。3)難治性急性 GVHD患者3例においてMSC投与を行った。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201023019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
間葉系幹細胞(MSC)がTh17分化を強力に抑制し、制御性T細胞分化にはあまり影響を与えないことを明らかにした。炎症性のTh17を抑制し、炎症抑制性の制御性T細胞を抑制しないMSCの性質は、免疫反応が亢進した状態にある移植後急性GVHDをMSCで治療する場合の作用メカニズムに関連するものと考えられた。
臨床的観点からの成果
これまで海外では間葉系幹細胞(MSC)投与の臨床的な安全性は報告されているものの、日本国内で安全性を担保するデータはなかった。臨床研究として地道に症例を集積し、少数例ながら安全性を担保するデータを示せたと考えられる。また、疾患別のMSCを収集し52例分を凍結保存した。これは研究用MSCバンクとして今後の研究に役立てることができる。
ガイドライン等の開発
我々が用いた間葉系幹細胞の処理並びに培養手順は、今後の臨床応用のベースとして活用できる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
現在進行中の我が国の製薬企業による「重症急性GVHD治療に対する間葉系幹細胞を用いた臨床治験」は登録基準の縛りが厳しく、必要な患者に対してMSC治療を実施できないことも多く経験する。そのような症例で本研究によるMSC治療を行うことにより、MSC治療を実施する上で考慮すべき様々な点を明らかにすることができた。
その他のインパクト
日本造血細胞移植学会のシンポジウム等で発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
24件
下記参照
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
日本血液学会など
学会発表(国際学会等)
3件
American Society of Hematology Annual Meeting など
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Meguro A.,Ozaki K.,Hatanaka K.,et al.
Lack of IL-21 signal attenuates graft-versus leukemia effect in the absence of CD8 T-cells.
Bone Marrow Transplant.  (2011)
原著論文2
Tatara R., Ozaki K.,Kikuchi Y.,et al.
Mesenchymal stromal cells inhibit Th17 but not regulatory T-cell differentiation
Cytotherapy  (2011)
原著論文3
Oh I., Ozaki K.,Meguro A.,et al.
Altered effector CD4+T cell function in IL-21R-/- CD4+ T cell-mediated graft-versus-host disease.
J. Immunol. , 185 (3) , 1920-1926  (2010)
原著論文4
Yagi H.,Ogura T.,Mizukami H., et al.
Complete restoration of phenylalanine oxidation in phenylketonuria mouse by a self-complementary adeno-associated virus vector.
J. Gene Med. , 12 (2) , 114-122  (2011)
原著論文5
Sato K., Ozaki K., Mori M., et al.
Mesenchymal stromal cells for graft-versus- host disease: besic aspects and clinical outcomes.
J. Clin.Exp. Hematol. , 50 (2) , 79-89  (2010)
原著論文6
Kikuchi J.,Wada T., shimizu R., et al.
Histone deacetylase are critical targets of bortezomib-induced cytotoxicity in multiple myeloma
Blood , 116 (3) , 406-417  (2010)
原著論文7
Sakoe Y.,Sakoe K.,Kirito K.,et al.
FOXO3A as a key molecule for all-trans retinoic acid-induced granulocyte differentiation and apoptosis in acute promyelocytic leukemia
Blood , 115 (18) , 3787-3795  (2010)
原著論文8
Meguro A.,Ozaki K.,Oh I., et al.
IL-21 is critical for GVHD in a mouse model.
Bone Marrow Transplant. , 45 (4) , 723-729  (2010)
原著論文9
Masuda S.,Ageyama N., Shibata H.,et al.
COtransplantation with MSCs improves engraftment of HSCs after autologous intra-bone marrow transplantation in nonhuman primates.
Exp.Hematol. , 37 (10) , 1250-1257  (2009)
原著論文10
Sanada M.,Suzuki T.,Shih L.Y., et al.
Gain-of-function of mutated c-CBL tumor suppressor in myeloid neoplasm
Nature , 460 (7257) , 904-908  (2009)
原著論文11
Oka S.,Nagatsuka Y.,Kikuchi J.,et al.
Preferential expression of phosphatidylglucoside along neutrophil differentiation pathway.
Leuk.Lymphoma , 50 (7) , 1190-1197  (2009)
原著論文12
Ishikawa A.,Mimuro J.,Mizukami H.,et al.
Liver-restricted expression of the canine factor VIII gene faciliates prevention of inhibitor formation in factor VIII-deficient mice.
J. Gene Med. , 16 (3) , 383-391  (2009)
原著論文13
Liu Y.,Okada T.,Shimazaki K.,et al.
Protection against aminoglycoside-induced otoxicity by regulated AAV vector-mediated GDNF gene transfer into the cochlea.
Mol.Ther. , 16 , 474-480  (2008)
原著論文14
Oka S. Muroi K.,Matsuyama T.,et al.
Correlation between flow cytometric identification of CD33-positive cells and morphological evaluation of myeloblasts in bone marrow of patient with acute myeloblastic leukemia.
Hematology , 14 (3) , 133-138  (2009)
原著論文15
Nonaka-Sarukawa M.,Okada T., Ito T.,et al.
Adeno-associated virus vector-ediated systemic interlrukin-10 expression ameliorates hypertensive organ damage in Dahl salt-sensitive rats.
J. Gene Med. , 10 , 368-374  (2008)
原著論文16
Oka S., Muroi K.,Mori M.,et al.
Prediction of response to imatinib in patients with chronic myelogenous leukemia by flow cytometric analysis of bone marrow blastic cell phenotype.
Leuk.Lymphoma , 50 (2) , 290-293  (2009)
原著論文17
Noborio-Hatano K., Kikuchi J.,Takatoku M.,et al.
Bortezomib overcomes cell adhesion-mediated drug resistance through downregulation of VLA-4 expression in multiple myeloma.
Oncogene , 28 (2) , 231-242  (2009)
原著論文18
Ozawa K.,Sato K., Ozaki K.,et al.
Cell and gene therapy using mesenchyal stem cells.
J. Autoimmun. , 30 (3) , 121-127  (2008)
原著論文19
Muramatsu S., Fujimoto K.I., Kato S.,et al.
A phase I study of aromatic l-amino acid decarboxylase gene therapy for Parkinson's disease.
Mol. Ther. , 18 (9) , 1731-1735  (2010)
原著論文20
Kobayashi M.,Murakami T., Uchibori R.,et al.
Establishment and characterization of transplantable, luminessence labeled rat renal cell carcinoma cell lines.
J. Urol. , 183 (5) , 2029-2035  (2010)

公開日・更新日

公開日
2014-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201023019Z