デングウイルス及び日本脳炎ウイルスに対する新型ワクチンの開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700793A
報告書区分
総括
研究課題名
デングウイルス及び日本脳炎ウイルスに対する新型ワクチンの開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(近畿大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小西英二(神戸大学医学部)
  • 山田章雄(国立感染症研究所)
  • 山田堅一郎(国立感染症研究所)
  • 中山幹男(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
デングウイルス感染症の患者は全世界で年間約一億人と推定されている。近年、患者数特にデング出血熱の増加と地域の拡大が大きな問題である。日本においては海外旅行者におけるデングウイルス感染症が大きな問題である。日本脳炎は致死率の高さから日本においても大きな問題となり得る疾患である。現在デングウイルスに対して用いられるワクチンはない。当研究の目的はデングウイルスや日本脳炎ウイルスに対する新しいタイプのワクチンの開発であり具体的には以下の3つの目的を持つ。(1)デングウイルス、日本脳炎ウイルスに対する防御免疫を解明する。(2)遺伝子組み換えによる新型ワクチン、特にDNAワクチンを開発する。(3)日本脳炎ウイルスワクチンやデングワクチンのデング出血熱病態形成への影響を解明する。当研究によりデング熱/出血熱や日本脳炎に対する防御免疫誘導能の高い、副作用のない安全で安価なワクチンの開発を可能にする。
研究方法
ベクターとして、サイトメガロウイルスの強力プロモーター及びウシ成長ホルモン由来のポリA配列付加シグナルを含む市販のpcDNA3を用いた。作製したプラスミドは、コンピーテント細胞に大腸菌DH5を用いてトランスフォームさせた後、コロニーを2回単離し、2xYT培地で増殖させた。マウスにおける免疫誘導能を調べるため4週令の雌ICRマウスをグループあたり5匹用いた。免疫原として0.1μgから100μgのpcDNA3JEME、100μg のpcDNA3あるいはPBSを、マウスに筋賑内あるいは皮内に1回または2週間隔で2回接種し、2から3週後に眼静脈叢より採血し、血清を分離した。これらのマウスは採血後、10,000LD50のJEV北京P3株の腹腔内接種により攻撃し、21日間生死を観察した。
免疫原性の持続性を調べる実験においては、6週令の雄Balb/cマウスをグループあたり2匹用いて、100μg のpcDNA3JEMEを1回接種した後、1、2、4及び6ケ月後に採血及び攻撃して、中和抗体及び防御免疫の持続性を調べた。キラーT細胞試験は、P815細胞を日本脳炎ウイルスPrE及びE遺伝子組み込んだワクシニアウイルス(VP829)、及び日本脳炎ウイルス蛋白を発現していないワクシニアウイルス(VP410)に感染させターゲットとして用いた。キラーT細胞活性は細胞を51Crラベルしエフェクターと5時間培養後、上清中の51Crの量を測定した。ヒト末梢血単核球は数十年前に日本脳炎ワクチンを接種され、他のフラビウイルスが存在する地域への旅行や居住経験のない2人の健常成人に、市販の不活化日本脳炎ワクチン(北京株)を接種して得た。免疫後6ヶ月-18ヶ月後に末梢血を採取し、末梢血単核球(PBMC)を分離した。7日間JEV抗原と培養したT細胞を96wellプレートを用いlimiting dilution法(1-10cell/well)でクローニングした。2週後、増殖している細胞を48wellプレートに移し、さらに培養を続けクローンとした。クローンは10-14日に一度自己のPBMCとJEV抗原で刺激実験に用いた。
結果と考察
日本脳炎DNAワクチン候補として、pcDNA3ベクターに、日本脳炎ウイルス(JEV)の前駆膜(prM)及び外被膜(E)遺伝子約2000bpを組み込むことによりpcDNA3JEMEを作製した。ワクチンとしての効力を高めるために、開始コドン上流にACC配列を置き、またprM上流のシグナルとなるアミノ酸の数を20にするなど、発現量を高める工夫をした。pcDNA3JEMの日本脳炎ウイルス遺伝子カセットが正しく組み込まれていることはシークエンシングにより確認し、発現はトランスフェクトしたCOS7およびVero細胞をEタンパクに対するモノクローナル抗体で免疫染色することにより確認した。日本脳炎ウイルス( JEV )前駆膜(prM)及び外被膜(E)遺伝子を組み込んだプラスミド(pcDNA3JEME)のマウスにおける免疫原性及び防御免疫能を調べた。10μgまたは100μgのpcDNA3JEMEを筋賑内または皮内に接種することにより2回免疫したICRマウスには、抗体価が1:10から1:20の中和抗体(90%プラーク減少法)が誘導され、すべてのマウスが10,000CD50の JEV北京P3株による攻撃に対して生残した。100μgのpcDNA3JEMEによる一回免疫では中和抗体が誘導されなかったが、防御免疫は誘導された。100μgのpcDNA3JEMEにより一回免疫したBalb/cマウスは記憶B細胞及び防御免疫能を少なくとも6ヶ月保持した。これらの結果により、 pcDNA3JEMEがマウスにおいて中和抗体及び防御免疫誘導能を有することが証明された。次にマウスにおけるキラーT細胞の誘導能を調べた。10μgまたは100μgのpcDNA3JEMEを1回筋賑内に接種することによりBalb/cマウスに日本脳炎ウイルスキラーT細胞が誘導された。キラーT細胞はCD8陽性、CD4陰性であった。 JEVのprMとEを発現する組み換えワクシニアウイルスを用いた実験から、キラーT細胞がE蛋白を優位に認識することが確認された。記憶キラーT細胞は免疫後6ヶ月後においても存在した。以上の結果よりpcDNA3JEMEがマウスにおいてJEV特異的キラーT細胞誘導能を有することが証明された。
次にマウスを用いて日本脳炎ウイルス特異的キラー T細胞が認識するエピトープの決定を行った。まず、日本脳炎ウイルス免疫マウスがPrM-E蛋白をH-2Kd拘束性に認識することを明らかにした。さらに、 PrM-E蛋白のアミノ酸配列から、 H-2Kd 、H-2Ld、H-2Dd拘束性エピトープのモチーフを有するペプチドをアミノ酸配列に従い合成し、これらのペプチドの認識をしらべた。その結果、日本脳炎ウイルス特異的マウスCD8陽性キラー T細胞の認識するエピトープはE蛋白上にありアミノ酸番号282-290のCYHASVTDIであることが明らかとなった。
日本脳炎ウイルス( JEV )蛋白に対するヒトT細胞免疫応答を、日本脳炎ワクチンにより免疫された健常人の末梢血リンパ球を用いて解析した。日本脳炎ワクチン免疫によりJEVに対するT細胞に加え西ナイルウイルス(WNV)やデングウイルス(DV)にも反応するフラビウイルス交叉性T細胞が出現した。CD4陽性T細胞クローンを授立し解析すると、クローンにはJEV特異的なものとフラビウイルス交叉性のものがあり、これらはエンベロープ(E)蛋白を認識した。半数以上は日本脳炎E蛋白を発現する自己の細胞を溶解するキラー T細胞活性を有していた。 T細胞レセプターには共通するモチーフはみられなかった。以上の結果より日本脳炎ワクチンの免疫によりE蛋白を認識する多様なT細胞が出現することが明らかとなった。
結論
pcDNA3をベクターとし、発現量を高める工夫を加えて JEVのPrM/E遺伝子約2000bpを組み込むことに成公した。In vitroで哺乳類細胞を用いて発現実験を行い、E抗原の産生を確認した。 JEVのPrM及び/E遺伝子をpcDNA3ベクターに挿入して作製したプラスミドpcDNA3JEMEは、マウスに中和抗体及び防御免疫を誘導することが明らかにされた。またマウスにウイルス特異的キラー T細胞を誘導することが明らかにされた。この点でpcDNA3JEMEは有力な日本脳炎DNAワクチン候補と考えられる。ウイルス感染やDNAワクチンによってマウスにウイルス特異的キラーT細胞が誘導されるが、このキラーT細胞が認識するエピトープはアミノ酸番号282-290でCYHASVTDIのアミノ酸配列を有している。このエピトープはH-2Kd拘束性に認識される。ヒトにおいてはJEVワクチン免疫により、 JEVのE蛋白を認識する特異的CD4陽性T細胞が誘導された。しかし、これらのT細胞はウイルス交叉性、その機能、HLA拘束性、などの点で一様ではなくheterogeneousであった。以上の結果より、上記の方法でヒトT細胞が認識するエピトープを決定し、このエピトープを有するDNAワクチンを作製し、霊長類における免疫原性を確かめることが可能であると考えられる。

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