気道炎症モニタリングの一般臨床応用化:新しい喘息管理目標の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201023012A
報告書区分
総括
研究課題名
気道炎症モニタリングの一般臨床応用化:新しい喘息管理目標の確立に関する研究
課題番号
H20-免疫・一般-012
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
一ノ瀬 正和(和歌山県立医科大学 医学部内科学第三講座)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤 久道(久留米大学 医学部内科学講座)
  • 秋山 一男(独立行政法人国立病院機構相模原臨床研究センター)
  • 大田 健(帝京大学 医学部内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気道炎症評価による新しい喘息管理目標を確立し、気道炎症モニタリングを用いた喘息管理の臨床応用することを目的とする。具体的には呼気凝縮液や呼気ガスを用いた気道炎症評価の妥当性を検証するとともに、これまで有用性が明らかな閉塞性障害や気道過敏性などの生理学的指標との関連を明らかにする。さらに一般臨床応用に向けて気道炎症評価の具体的な管理目標を明確にする。
研究方法
全体研究では、通常治療を行っていても呼気NO濃度が高値である喘息症例の臨床的特徴について検討した。さらに個別研究として、喘息補助診断における呼気NOのカットオフ値(一ノ瀬班)、気道炎症が遷延している喘息患者に対するステロイド治療強化の意義(一ノ瀬班)、閉塞性肺疾患の鑑別における呼気NOの有用性(大田班)、呼気凝縮液indoleamine-2,3-dioxygenase(IDO)活性(秋山班)、誘発喀痰および末梢血を用いた喘息における気道炎症抑制機序(相澤班)、について検討を行なった。
結果と考察
呼気NO濃度は喫煙と鼻炎合併の影響を受けるが、これらの背景因子を加味しても喘息診断に有用であった。呼気NOは治療中の喘息患者においてコントロール不良例を検知する方法としても有用であり、通常の喘息治療を行っていても呼気NOが高値(>40ppb)である症例は症状がより強く、閉塞性障害とPEF変動性が大きいことが示された。さらに喫煙の既往と副鼻腔炎合併は、気道炎症が遷延する症例の危険因子となることが明らかにされた。呼気NO高値が持続する症例に対するステロイド治療の強化は気道炎症の抑制と呼吸機能の改善につながり、呼気NOは喘息の治療標的として重要と考えられた。しかし経口ステロイド薬によっても制御できない気道炎症を有する症例も存在することが示唆された。喘息の気道炎症抑制機序について、呼気凝縮液IDO活性や制御性T細胞と生理学的指標との関連を検討したが、これらの気道炎症指標が喘息病態に果たす役割はさらに検討を要すると考えられた。
結論
呼気NO濃度測定が喘息の補助診断および管理効率の向上に有用な気道炎症マーカーであることを明らかにし、一般臨床医向けの「呼気一酸化窒素(NO)測定ハンドブック」を作成した。呼気ガスを用いた気道炎症評価を喘息管理における新しい手段として確立し、喘息の病態をより詳細に評価しうる気道炎症の生化学的指標が一般臨床に応用可能であることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201023012B
報告書区分
総合
研究課題名
気道炎症モニタリングの一般臨床応用化:新しい喘息管理目標の確立に関する研究
課題番号
H20-免疫・一般-012
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
一ノ瀬 正和(和歌山県立医科大学 医学部内科学第三講座)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤 久道(久留米大学 医学部内科学講座)
  • 秋山 一男(独立行政法人国立機構相模原臨床研究センター)
  • 大田 健(帝京大学 医学部内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気道炎症と気道過敏性は気管支喘息の重要な病態で主たる治療標的であるが、これまで臨床上有用な指標がなかった。本研究は気道炎症評価による新しい管理目標を確立し、気道炎症モニタリングを用いた喘息管理を一般臨床応用化することを目的とした。
研究方法
呼気NO測定の一般臨床応用に向けて、測定機器の妥当性と日本人の成人健常者の正常値算出試験を行った。呼気NOの喘息管理における有用性の検討として、喘息の補助診断および喘息コントロール不良症例の検出におけるカットオフ値を算出した。またガイドラインに準じた標準治療を行っていても呼気NOが高値で遷延する症例の臨床的特徴を検討した。呼気凝縮液および誘発喀痰を用いて、ステロイド反応性の予測に有用な炎症物質および細胞成分の同定を試みた。
結果と考察
化学発光法と電子化学法で測定した呼気NO濃度の測定値には強い相関があり、両機器とも実地臨床での使用においては十分信頼性があると考えられた。呼気NO濃度の日本人の正常値は15ppbで、正常上限値は37ppbであった。喘息補助診断における呼気NO濃度のカットオフ値は22ppbで、感度は91%、特異度は84%であった。さらに標準的な治療を行いながら喘息コントロールが不良な症例を検出するカットオフ値は40ppbで、感度は77%、特異度は80%であった。これらの成果を取り纏め、一般臨床医向けの「呼気NO(一酸化窒素)測定ハンドブック」を作成した。一方、標準治療を行っていても呼気NO濃度が低下しない症例では、より強度な気流閉塞とピークフロー変動性の増大があり、コントロールが不良であることを明らかにした。さらに呼気NOが高値に遷延する症例に有意に認められる背景因子として過去の喫煙歴と鼻副鼻腔炎の合併が同定された。喘息モニタリングに呼気NO濃度測定を用いる場合には、これらの因子の影響を加味する必要がある。さらに呼気凝縮液中のIL-4, RANTES, IP-10および喀痰好酸球はステロイド反応性の予測に臨床応用できる可能性が示された。
結論
呼気NO濃度測定は喘息の補助診断および管理効率の向上に有用であり、一般臨床応用が可能な気道炎症マーカーであることが明らかにされた。従来の症状や呼吸機能の評価に、気道炎症評価を加えていくことにより、喘息の管理効率がさらに向上することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201023012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
呼気NOによる気道炎症評価を、症状スコアや肺機能検査に加えた喘息管理における新しい方法として確立した。本研究で示した喘息の診断やコントロール評価におけるカットオフ値は国際スタンダードの確立に有用と考えられる。呼気凝縮液測定における炎症物質がステロイド反応性の予測に応用できることを示した点も、初めての知見である。喘息患者における気道径の変動の予測因子となりうることも新たに解明した。治療中にもかかわらず、呼気NO高値の症例については、喫煙歴、血中好酸球数、慢性副鼻腔炎が関連することも明らかにした。
臨床的観点からの成果
喘息の病態をより詳細に評価しうる気道炎症の生化学的指標が一般臨床に応用可能であることを示した。日本人の呼気NO濃度正常値が明らかにされ、喘息の診断やモニタリングにおける具体的な管理目標を示しただけではなく、呼気NO濃度に影響する背景因子を加味したカットオフ値を算出した。これにより、喘息の早期診断や管理向上に貢献でき、実地臨床の進展に果たす意義は極めて大きい。 また、吸入ステロイドを用いても、尚、呼気NOが高値の症例に対する吸入ステロイドの使用法の指標になり得ることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
本研究の目的は、喘息における気道炎症評価の一般臨床応用化であるため「呼気NO(一酸化窒素)測定ハンドブック」を開発した。①呼気NOと喘息の関連、②呼気NO濃度の測定方法、③日本人の呼気NO濃度正常値、④喘息補助診断における呼気NOカットオフ値、⑤喘息における治療・管理目標、を盛り込み、一般臨床医が実地臨床で呼気NO測定を行う際の指針となるように努めて作成した。2012年および2015年の「喘息予防・管理ガイドライン」において呼気NO測定の意義が明記された。
その他行政的観点からの成果
気道炎症モニタリングシステムが確立され、喘息管理において有用性の高い到達目標を医師と患者で共有することが可能となった。喘息は非専門医でも管理に当たることが多いので、専門性のレベルに応じた管理目標を提示した。気道炎症評価に基づいた喘息管理の一般臨床応用は、喘息管理の向上に加えて医療費の減少にも大きく寄与すると確信する。 呼気NO濃度測定の基礎的・臨床的研究の意義は高く評価され、2013年11月に呼気NO濃度測定が保険収載された。
その他のインパクト
呼気NO濃度測定は非侵襲的かつ簡便に喘息の気道炎症評価が可能である為国民やマスコミの注目度は高く、NHKのTV番組で紹介、喘息補助診断に用いる呼気NO濃度カットオフ値は2010年発行のMedical Tribuneで紹介、WEB上でも公開された。 また、2013年11月の保険収載以降、学会や研究会でも数多くの呼気NO関連演題が取り上げられている。また、呼気NO濃度測定機に対する医療従事者の関心は極めて高く、全国で約700台以上の呼気NO濃度測定器が使用されている。

発表件数

原著論文(和文)
31件
原著論文(英文等)
139件
その他論文(和文)
187件
その他論文(英文等)
10件
学会発表(国内学会)
328件
学会発表(国際学会等)
101件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsunaga K,Tsunahiko H,Ichinose M et al
Reference ranges for exhaled nitric oxide fraction in healthy Japanese adult population
Allergol Int , 59 , 363-367  (2011)
原著論文2
Matsunaga K,Tsunahiko H,Ichinose M et al
Exhaled nitric oxide cutoff values for asthma diagnosis according to rhinitis and smoking status in Japanese subjects
Allergol Int , 60 , 331-337  (2011)
原著論文3
粒来崇博、三田晴久、秋山一男 他
気管支喘息患者の呼気凝縮中Cysteinyl Leukotriene 濃度と重症度
アレルギー , 57 (2) , 121-129  (2008)
原著論文4
Matsunaga K, Yanagisawa S, Ichinose M et al.
Associated demographics of persistent exhaled nitric oxide elevation in treated asthmatics.
Clin Exp Allergy , 42 , 775-781  (2012)
原著論文5
Hirano T, Matsunaga K, Ichinose M et al.
Persistent elevation of exhaled nitric oxide and modification of corticosteroid therapy in asthma.
Respir Invest , 51 , 84-91  (2013)
原著論文6
Hayata A, Matsunaga K, Ichinose M et al.
Stratifying a risk for an increased variation of airway caliber among the clinical stable asthma.
Allergol Int , 62 , 343-349  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
2015-06-29

収支報告書

文献番号
201023012Z