季節性アレルギー性鼻炎の診療実態と経済的影響等の解明のための研究

文献情報

文献番号
202512004A
報告書区分
総括
研究課題名
季節性アレルギー性鼻炎の診療実態と経済的影響等の解明のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24FE1002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 美孝(国立大学法人千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井 大樹(山梨大学 大学院総合研究部医学域 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)
  • 岡野 光博(国際医療福祉大学大学院医学研究科)
  • 野田 龍也(学校法人関西医科大学 医学部 メディカルデータサイエンス講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
5,481,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民病と言われる程患者の増加が続いているスギ花粉症を中心に、季節性アレルギー性鼻炎の診療実態、経済的影響を明らかにするため、今年度は、匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)を用いて初診料、再診料も含めた花粉症関連医療費、スギ舌下免疫療法が対症治療薬処方量や喘息発症への影響、舌下免疫療法の診療の実態を明らかにする。また、花粉症が労働生産性に与える影響についても昨年度に引き続き検討を進める。
研究方法
・作成した解析計画書を基に、初診料、再診料の検討と、薬剤費、処置費用を含む花粉症関連医療費について、全国での2018年、2019年のレセプトデータの解析を行った。
・入手可能であった2013年から2020年のNDBを使用して、スギSLIT受療者とそれに年齢、性、地域などの背景因子をそろえた対照患者である非免疫療法受療者を1対1で抽出して対症療法薬の処方量の変化を比較検討した。
・NDBから患者抽出のために喘息の定義を設定し、喘息の定義に該当しない患者が、翌シーズン以降に喘息傷病名を有し、かつ低用量以上の吸入ステロイド薬の処方を9カ月以上有した際の初日を喘息発症日と定義し、対照群と比較評価した。
・本年度のスギ花粉飛散ピーク時にWFun及びWPAI-AS調査票を用いて一般事業所の従業員を対象にプレゼンティーズムを調査した。また、スマートフォン利用者を対象にMASK-airアプリを活用して労働に及ぼす影響について調査を行った。
結果と考察
・2018年、2019年の2シーズンに連続して14日以上の処方を受けた医療機関受療者の初診料、再診料、医薬品、処置料を含む(但し検査費用は含まない)花粉症関連医療費は、春期1,537.9億円、夏期616.9億円、秋期705.5億円であった。
・SLIT群と非SLIT群それぞれ3,398人の組み入れ患者での解析となったが、SLIT群の鼻噴霧ステロイド薬処方量は1年目で約7割、2年目で約6割、3年目ではSLIT継続1年以上の群でさらに低下していた。第4・5シーズンではSLIT継続期間が2〜3年の群で最も処方率が低くなり、舌下の使用期間が長くなると処方割合が減少していた。3種類以上の対症薬を処方された患者の割合は、3年目で対症療法群の約7割に減少した。第4・5シーズンでも継続期間2〜3年の群で最も低い結果であった。すなわち、花粉症治療で中等症以上の患者での対症療法薬の中心となる噴霧ステロイド薬の処方量あるいは、対症療法薬の併用処方量はSLIT開始後、翌シーズンから明らかに減少し、治療継続と共に減少量は増えていた。全身ステロイド薬、鼻血管収縮薬の処方も舌下免疫療法開始翌シーズンから減少していた。
・SLITでの舌下錠の処方日数は、60日を越える処方の割合は少なく、90日以上の処方はほとんど見られなかった。適切な処方日数が守られていることが確認された。
・スギSLITの喘息発症への影響は明らかではなかった。喘息病名の正確な抽出が難しいことも背景にあると考えられた。
・労働生産性への影響:企業事務事業所勤務者2,013人から有効回答を得たが、作業能率が5点以上低下が36%にみられ、花粉症の症状の重症度と相関があり、プレゼンティーズムの深刻化に影響していた。MASK-airアプリでの解析では治療者に比較し無治療者の翌日の労働への影響が大きいことが示され、治療の有効性とともに情報周知の必要性が示された。
・スギ花粉症患者へのアンケート調査から、スギ以外の花粉による花粉症の存在についての認識、知識が低いことが明らかになり周知を図る必要性がある。
結論
全国的にスギ花粉飛散が多く見られた2018年、2019年の全国でのNDB解析から、初診料、再診料、薬剤費、処置費用を含む医療機関でのスギ花粉症関連医療費は年間1,538億円であった。他の時期も含めると季節性アレルギー性鼻炎全体の関連医療費は年間2,861億円と推定された。
スギ花粉症に対する舌下免疫療法により、中等症以上の患者では治療開始後翌シーズンから対症療法薬の処方量の減少がみられ、治療継続により減少量は増加した。副作用発現の危惧から慎重な使用が求められている全身ステロイド薬、鼻血管収縮薬についても処方量は減少していた。
舌下免疫療法が喘息発症に及ぼす影響については3シーズンでの検討では明らかではなかったが、重症喘息の発症はみられず、また、舌下免疫療法の処方はほぼ適切に行われていることが確認された。
花粉症が労働生産性に及ぼす影響は、特に重症例ではプレゼンティーズムへの影響は大きく、一方軽症例においても無治療者の生産性へ影響する可能性が認められ、広く花粉症に関する知識や治療について教育・周知の必要性が認められた。

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

文献情報

文献番号
202512004B
報告書区分
総合
研究課題名
季節性アレルギー性鼻炎の診療実態と経済的影響等の解明のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24FE1002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 美孝(国立大学法人千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井 大樹(山梨大学 大学院総合研究部医学域 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)
  • 岡野 光博(国際医療福祉大学大学院医学研究科)
  • 野田 龍也(学校法人関西医科大学 医学部 メディカルデータサイエンス講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の診療実態と経済的影響を明らかにする
研究方法
匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)解析による医療機関受診者数、関連薬剤費、処置料など直接医療費の検討、事務所勤務者を対象に調査票による調査、スマートフォン利用者を対象に電子アプリを用いた診療実態の調査、労働生産性に関する検討から間接医療費の検討を進めた。また、対症療法では得られない、花粉症の自然経過を改善させうる治療として注目される舌下免疫療法(SLIT)の診療実態や対症療法薬処方量に与える影響についてもNDBから解析を行った。
結果と考察
全国的にスギ花粉飛散が多かった2018年と2019年に、連続して1シーズン4か月16週間のうち14日以上の処方を受けた医療機関受療者数は、日本全体で春期受療者は1293万人、夏期は570万人、秋期は612万人であったが、初診料、再診料、医薬品、処置料を含む(但し検査費用、処方箋料は含まない)花粉症関連医療費は、春期1,537.9億円、夏期616.9億円、秋期705.5億円で、年間の季節性アレルギー性鼻炎患者関連医療費は2,860.3億円程度と推定された。
首都圏でスギ花粉が大量に飛散した2018/2019年(平均11,731個/cm2)と少量のスギ花粉飛散であった2016/2017年(平均5,162個/cm2)の1月―4月に医療機関を受療した患者数は、それぞれ平均564万人、463万で、大量飛散年に約100万人の受療者の増加が見られた。花粉症関連総費用は2016/2017年,2018/2019年はそれぞれ平均で627億円と702億円/年であった。
プレゼンティーズムの検討では、一般企業8社から回答を得たスギ花粉症既往者1,070名で、症状による能率が半分以上保たれていると回答した者は64%であったのに対し、残る36%の者は「能率が半分以下に低下している」と回答した。さらにWFunの重症度別に解析すると、プレゼンティーズムは花粉症の症状の重症度と相関がみられた。間接経費を花粉症症状の強い1週間の費用を生産性損失額 = 給与× 生産性低下割合(WPAI-AS)の計算式で算出したところ、スギ花粉症労働者(推定)×1週間損失額を計算すると約2784億円と推定された。
また、MASK-airアプリ利用者のうち708名、延べ8,391日入力分のデータ解析から、63%が治療薬を使用し併用薬が増えるほどVASで評価される鼻症状、眼症状が強くなっていた。一方、軽症者の解析から治療者に比較して無治療者の翌日の労働への影響が大きいことが示され、治療への周知が必要なことが示された。
SLITの対症治療薬処方量への影響については、SLIT群と非SLIT群それぞれ3,398人の組み入れ患者での解析となったが、SLIT群の鼻噴霧ステロイド薬処方量は1年目で約7割、2年目で約6割、3年目ではSLIT継続1年以上の群でさらに低下していた。第4・5シーズンではSLIT継続期間が2〜3年の群で最も処方率が低くなり、SLITの受療期間が長くなると処方割合が減少していた。3種類以上の対症薬を処方された患者の割合は、3年目で対症療法群の約7割に減少した。第4・5シーズンでも継続期間2〜3年の群で最も低い結果であった。全身ステロイド薬、鼻血管収縮薬の処方もSLIT開始翌シーズンから減少していた。
また、SLITでの舌下錠の処方日数は、60日を越える処方の割合は少なく、適切な処方日数が守られていることが確認された。一方、スギSLITの喘息発症への影響は明らかではなかった。喘息病名の正確な抽出が難しいことも背景にあると考えられた。
結論
2018年、2019年の全国でのNDB解析から、医療機関受療者数は春期は1,293万人、夏期は570万人、秋期は612万人で、初診料、再診料、薬剤費、処置費用を含む医療機関での季節性アレルギー性鼻炎関連の年間医療費は2,861億円であった。地域ごとの春期の受診者数は、地域のスギ花粉飛散数と一定の相関がみられたが、地域による受療傾向の違いなどの特徴も見られた。花粉症が労働生産性に及ぼす影響は、重症例ではプレゼンティーズムへの影響は大きく、一方軽症例においても無治療者では生産性へ影響する可能性が認められた。生産性低下割合から算出した間接経費は、スギ花粉症症状の強い1週間の費用は約2,784億円と推定された。
NDBの解析でスギSLITにより、早期から対症療法薬の処方量の減少がみられ、治療継続により減少量は増加した。慎重な使用が求められている全身ステロイド薬、鼻血管収縮薬についても処方量は減少していた。SLITの高い有用性を示す結果であり、今後長期にわたる効果の検討を進めていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202512004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
患者数が依然として増加しているとされる季節性アレルギー性鼻炎について、臨床医と疫学専門家が共同でNDB解析を進め、国内の医療機関への患者の受診とその診療の実態を明らかにすることが出来た。直接費用並びに労働生産性への影響も含め経済的影響についても検討することが出来た。舌下免疫療法については、全身ステロイド薬など投与が一般に推奨されていない薬剤も含めて対症治療薬の処方量の早期の減少につながることなど、実臨床で大きな規模での検討で評価を行えた。

臨床的観点からの成果
一定数の季節性アレルギー性鼻炎患者数は、花粉飛散期間中に自己判断で受療し医療機関から継続的な治療を受けていない事、一方で作業効率は症状の増悪に伴い障害され、また、例え軽症であっても無治療は労働生産性に悪影響を与えている可能性が確認された。治療効果・患者満足度の向上の対策が求められる。対症治療薬の処方量減少から舌下免疫療法の効果が確認されたが、さらに全身ステロイド薬や鼻血管収縮薬など副作用の危惧から一般的な投与が推奨されていない薬剤の処方も早期から減少していることを示すことが出来た。

ガイドライン等の開発
これまで、国内外のガイドラインでは、花粉飛散開始により一旦症状が出現した後は炎症反応が持続することから、花粉飛散期間中には継続した治療が推奨されている。今回のNDB解析で、2週間以上の花粉症治療薬を受けている患者は推定患者数の1/3以下, 4週間以上は1/4以下あった。MASK-airアプリ での検討でも患者は症状に応じて自己判断で治療をしていることが示され、実際の患者の受療姿勢はガイドラインでの推奨とは大きく異なっている可能性が示された。ガイドラインの改定時に十分な検討が求められる。
その他行政的観点からの成果
スギ花粉症等季節性アレルギー性鼻炎による医療機関受診者数、医療機関での薬剤費や医療費の算定について初めて信頼性が高い検討が行われた。令和5年内閣府閣僚会議で推進が示されたスギ花粉症治療への舌下免疫療法についても、初めて実臨床での大きな規模での検討から明らかな対症治療薬の使用軽減効果が示され、その有用性と意義が確認された。労働生産性などへの影響も踏まえ、診療側からのみならず、行政、企業サイド の季節性アレルギー性鼻炎への取組の必要性が示された。
その他のインパクト
初めてNDBから季節性アレルギー性鼻炎患者の抽出・解析を行い診療実態を明らかにすることが出来た。結果として花粉飛散期間中に医療機関で治療を継続している季節性アレルギー性鼻炎患者は推定患者数の一部であった。他方で直接医療費のみならずプレゼンティーズムによる労働効率には大きな低下が確認された。小児を含め患者数が増加している季節性アレルギー性鼻炎への喫緊の取組が求められる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
投稿中
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202512004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,125,000円
(2)補助金確定額
7,125,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,519,838円
人件費・謝金 798,182円
旅費 0円
その他 3,162,980円
間接経費 1,644,000円
合計 7,125,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
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