プリオン病の高感度診断技術の開発

文献情報

文献番号
199700792A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病の高感度診断技術の開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
品川 森一(帯広畜産大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 神山恒夫(国立感染症研究所)
  • 澤田純一(国立衛生試験所)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所)
  • 北本哲之(東北大学)
  • 小野寺節(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
汚染脳硬膜移植等によるクロイツフェルト・ヤコブ病の発生、牛屑肉を介した牛海綿状脳症の人への伝播等、伝達性海綿状脳症の感染による発生が現実のものとなっている。該疾病の感染因子であるプリオンあるいはその構成蛋白(プリオン蛋白)を検出し、伝播を未然に防止する方法の開発が本研究の目的である。プリオン病原体は宿主蛋白の構造異性体であるため、病原体特異な遺伝子が無い。このためプリオンの検出には、感染性を指標としたバイオアッセイとプリオンの構成蛋白を検出する方法しかない。前者は、実験動物であるマウスが異種動物であり、種の壁により潜伏期が長く、かつ確実に伝達発症することが保証されない。後者は判定まで短時間という利点はあるが、感度が低いという欠点がある。本研究では1)種の壁を取り除き、正常なプリオン構成蛋白の前駆体を過剰に産生させて発症を速めることにより、高感度に検出できる実験動物の開発と、2)感染因子を構成するプリオン蛋白(PrP)に対して特異性と反応性の高い免疫血清の作成と、微量に含まれるプリオンを効率よく選択的に濃縮する試料調整法を開発することを目的とした。
研究方法
1)感染因子を高感度で速やかに検出できる実験動物として、種の壁を取り除くと同時にプリオン遺伝子のコピー効果を期待して、プリオン病の自然宿主である人、牛、羊などのプリオン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを開発する。マウスの未同定因子(X蛋白)との反応性を考慮して、マウスプリオン蛋白遺伝子とのキメラ遺伝子を作製しトランスジェニックマウスを作製する。マウスの自然プロモーターを使用する以外、一部ではβ-アクチンプロモーターも使用する。
2)感染因子を構成するプリオン蛋白(PrP)を免疫生化学的に高感度に検出する方法の開発として、特異性が高く反応性のよい抗体の作出のために、人、牛、ラット等のプリオン蛋白の各種領域に相当する合成ペプチドを作製し、これを抗原として抗体作製を行う。免疫用動物にはウサギ以外、モノクロナール抗体作製のためにマウスを、また一部ニワトリも用いる。効率良いプリオンを濃縮できる試料調整法の開発のために、プリオン蛋白がアンカード蛋白であることに着目して、非イオン系界面活性剤抽出等を組み入れた新たな視点での試料調整法を検討する。
結果と考察
特異抗体を用いたPrPの検出と応用:1)特異性の高い抗PrP抗体の作製;人、牛、ラット等のPrPの各種領域のペプチドを合成し、主としてウサギを、またモノクロナール抗体のためにはマウスを用いて免疫を行った。ウサギ免疫血清では、数種の反応性の高い抗体が得られた。モノクロナール抗体に関しては現在進行中である。抗合成ペプチド抗体は、一般にPrPのC末端及びコドン103前後から下流にかけての部分を使用したとき特異性と反応性が高かった。この領域はプリオンの構造からも予想された通りである。
2)微量PrPの検出のための選択的PrP濃縮法(試料調整法)の開発;非イオン系界面活性剤抽出と遠心の組み合わせで検討を開始したが、未だ成果が上がっていない。既に脳及び細網リンパ系組織からの試料調整法が確立されている。しかし、さらに簡便化して効率を上げ、大容量からの組織に対応するために試料調整の開発が必要である。免疫学的手法を組みあわせた方法等の開発が必要である。
3)ELISA法の開発;マウススクレイピーモデルを用いて開発したELISA法を羊の試料用に試料調整法の改良と使用抗体の選択を行い、実験的には羊試料にも使用可能なことを確した。さらにと畜場で収集した羊材料に応用を試みた。その結果、ELISA法の有用性が野外的に応用して確認できたことから、現段階で羊スクレイピーのスクリーニングに用いることが可能な比較的簡便な方法と言える。
高感度検出のための実験動物の開発:マウスのナチュラルプロモーターを使用して、人、牛、羊とマウスのキメラトランスジェニックマウスを作製した。完全なそれぞれのプリオン遺伝子をもったものの作製を計画している。また、β-アクチンプロモーターを用いてオリックス型トランスジェニックマウスも作製された。トランスジェニックマウスで、人型はキメラが良いが牛等では感受性が下がることが報告されている。このため、キメラではない牛型及び羊型も考慮する必要があろう。オリックス型を含めてマウスの供給体制が整い次第感染実験により有用性の検証を行う必要がある。
研究の初年度であるため、分担者の成果は主として、研究目標を達成するための基礎的な段階に留まっている。例えば抗体作製用合性ペプチドの調整と抗体の作製などが主体となっている。従来から本分野で研究を行ってきた分担者からはある程度形となった成果があがっている。
結論
人、牛及び羊型のキメラトランスジェニックマウスおよびβ-アクチンプロモーターによるオリックス型も作製された。免疫学的にPrPを検出するための抗体作出を行い、反応性のたかいものも得られ、次年度以降に使用可能な抗体がある程度用意できた。検出感度を高めるために必須な試料調整法の開発が遅れている。現時点で野外に対応できるELISA法が開発できた。

公開日・更新日

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