医療者および患者の視点から見た災害に備えた透析患者の情報管理と体制整備に関する研究

文献情報

文献番号
202511002A
報告書区分
総括
研究課題名
医療者および患者の視点から見た災害に備えた透析患者の情報管理と体制整備に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FD1002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
中山 雅晴(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 腎疾患政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
3,643,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、災害時に他施設へ透析を依頼する際に、平時から共有しておくべき患者情報の項目と、その共有方法を明らかにすることを目的とする。対象は、透析医療に従事する医師、看護師、臨床工学技士、事務職などの多職種スタッフに加え、透析患者も含めた。医療者側が必要と考える情報だけでなく、患者側が「知っておいてほしい情報」や「自分自身でも知っておきたい情報」を把握することで、災害時にも安全に透析医療を継続できる情報共有体制のあり方を検討する。また、地域医療連携システムや透析情報ネットワークを有する地域と有しない地域の状況を比較し、感染パンデミックを含む災害時に必要な透析患者管理情報と、それを支えるインフラの課題を整理する。さらに、今後活用が期待されるPersonal Health Record(PHR)による患者と透析施設間の情報共有改善効果についても検討し、実現可能な提言につなげることを目指す。
研究方法
令和7年度は、宮城県、奈良県、三重県で得られた調査結果を比較し、特に三重県の結果について解析を行った。また、令和6年能登半島地震時の対応について、実際に病院や透析施設を訪問し、当日対応した方々から聞き取りを行った。これらを通じて、低コストで実効性のある対策、情報共有システムの課題、今後整備が進む全国的な医療情報基盤における透析情報共有の論点を整理した。
結果と考察
アンケート調査では、宮城県や奈良県同様、通常時の患者情報共有手段として、電子カルテ、透析記録、患者カード、地域連携システム、透析機器データなどが用いられていた。しかし、その内容を患者本人と共有している割合は約3割にとどまり、患者が自身の医療情報を十分に把握・携行できていない現状が示された。一方で、お薬手帳の所有率は約9割と高く、調剤情報は患者が携行する医療情報として定着していた。災害時に他院へ透析を依頼する場合、共有すべき情報と共有手段の双方が決まっているとの回答は40%であり、情報は決まっているが手段が定まっていない施設は27%、手段はあるが情報項目が定まっていない施設は4%であった。自施設で透析が不可能となった際の依頼先施設が決まっているとの回答は17%にとどまり、災害時に決定するとの回答が35%を占めた。想定訓練を実施している施設は43%であり、平時からの準備にはなお課題が残ることが明らかとなった。医療者側が重視する患者情報は、透析条件に加え、感染症、アレルギー、禁忌薬などであり、さらに直近3回分の透析記録と採血検査結果が必要であるとの意見には92%が賛同した。全国医療情報プラットフォームやマイナポータルを介した透析情報共有については、医療者・患者双方から期待が寄せられ、PHRの活用を希望する人も半数以上であった。
能登半島地震に関する聞き取りでは、停電、通信途絶、交通制限、受け入れ先調整の遅れなどにより、通常時と同じ運用では透析医療の継続が困難となることが確認された。現場では、紹介状、FAX、看護サマリ、LINE、MCA無線、地域連携システムなど複数の手段が併用されていた。特に、直近の入院歴、ブラッドアクセスの状態、透析中のトラブル、ADLなどを含む看護サマリは、受け入れ判断に有用であった。一方で、電子カルテや通信環境に依存しすぎると、停電や通信障害時に情報参照が困難となるため、電子媒体だけでなく紙媒体による備えも不可欠である。患者の振り分けでは、透析可能枠だけでなく、病状、移動手段、介護状況、避難先などを総合的に判断する必要があり、支援システムによる情報集約や候補提示は有効であるものの、最終判断は医療者や調整担当者が担う体制が望ましいと考えられた。
結論
災害時の透析医療継続には患者情報を迅速かつ確実に共有できる体制整備が不可欠である。特に、アレルギー情報、感染症情報、禁忌薬、直近3回分の透析記録、直近3回分の採血検査結果を「AID-3-3」として標準化し、平時から更新・共有することが重要であると考える。AID-3-3は、受け入れ施設が短時間で患者のリスクと直近の状態を把握し、安全に透析を開始するための最小限かつ重要な情報群である。今後は、電子カルテ、地域医療連携システム、全国医療情報プラットフォーム、PHRなどを活用しつつ、患者カードや透析手帳などの紙媒体にも同内容を反映させる必要がある。紙と電子の双方で情報を保持し、平時から更新、訓練、普及啓発を進めることで、患者、かかりつけ施設、受け入れ施設が災害時に必要情報を確実に参照できる体制を構築することが求められる。

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

文献情報

文献番号
202511002B
報告書区分
総合
研究課題名
医療者および患者の視点から見た災害に備えた透析患者の情報管理と体制整備に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FD1002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
中山 雅晴(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 腎疾患政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、災害時に自施設で透析が実施できず他施設へ依頼する際、平時から共有すべき患者情報とその共有方法を明らかにすることを目的とする。透析医療に従事する多職種スタッフに加え、透析患者にも調査を行い、医療者が必要と考える情報と、患者が「知っておいてほしい」「自分でも把握しておきたい」と考える情報を比較する。また、地域医療連携システムや透析情報ネットワークの有無による差異を検討し、感染パンデミックを含む災害時の透析患者管理に必要な情報項目と、それを支えるインフラの課題を整理する。さらに、Personal Health Record(PHR)を活用した患者―透析施設間の情報共有の可能性も検討する。
研究方法
令和5年度の宮城県調査に続き、令和6年度は奈良県、三重県内の透析施設を対象に調査を行い、医療者および患者から回答を得て比較した。患者管理に重要な情報項目について、医療機関側と患者側の認識の違いを明らかにし、患者目線を踏まえた診療体制や災害対策のあり方を検討した。あわせて、災害時に透析時間を短縮した場合の患者予後への影響について文献検索を行った。最終年度には、令和6年能登半島地震に関係した医療者等へインタビューを実施し、透析ネットワーク、EMIS、全国医療情報プラットフォーム、地域医療連携システム、PHRなどの活用と課題を整理した。電子的手段だけでなく紙媒体も含め、多重フェイルセーフの観点から検討を行い、学会等で提言を発信した。
結果と考察
宮城県、奈良県、三重県では、被災経験や医療情報ネットワークの整備状況に違いがあるものの、災害時透析に関する意識や課題は概ね共通していた。通常時の患者情報は、電子カルテ、透析記録、患者カード、地域連携システム、透析機器データなどで共有されていたが、患者本人と共有されている割合は3〜4割程度にとどまった。一方、お薬手帳の所有率は9割近く、患者が携行する情報媒体として定着していた。災害時に他院へ透析を依頼する際、必要情報と共有手段がともに決まっている施設は3〜4割程度であり、改善の余地が示された。医療者は透析条件に加え、感染症、アレルギー、禁忌薬を重視しており、直近3回分の透析記録と採血検査結果も重要な目安として概ね支持された。一方、患者側では、自分の情報が災害時に適切に伝達されるか不安を感じる声が約6割あり、情報伝達の内容や状況を可視化する必要性が示された。全国医療情報プラットフォーム、マイナポータル、PHRを介した情報共有には、医療者・患者双方から高い期待が寄せられた。
能登半島地震に関する聞き取りでは、本研究で整理してきた情報共有の重要性が現場経験からも確認された。東日本大震災の知見が参考にされたとの声も多く、過去の災害経験を自地域の課題として捉え、実践に結びつける必要がある。災害時の透析時間短縮については、患者不安に配慮しつつ、限られた医療資源の下で多くの患者を受け入れるために生じうる対応である。ただし、予後への影響に関するエビデンスは十分ではなく、災害時と平時を比較したデータ収集、透析間隔・時間の最適化、ガイドライン整備、患者教育、法的・倫理的議論が今後の課題である。
以上を踏まえ、本研究では、災害時に平時から準備すべき情報として、アレルギー情報(Allergy)、感染症情報(Infection)、禁忌薬(Drug)に、直近3回分の透析記録および直近3回分の採血検査結果を加えた「AID-3-3」を提言する。AID-3-3は、電子カルテ、地域医療連携システム、全国医療情報プラットフォーム、PHRで共有可能であり、透析情報についてもFHIRフォーマットの標準化やMMWINでの実装例から横展開が期待できる。一方、災害時には停電や通信障害が想定されるため、患者カードや透析手帳など紙媒体にも同内容を反映させることが重要である。
結論
本研究により、災害時透析患者対応において、地域の被災経験や医療情報ネットワークの有無にかかわらず、医療者と患者の間で概ね共通した課題認識が得られた。スタッフ側と患者側では優先する情報に差があり、患者自身が情報を保持・提示できる仕組みの整備が求められる。AID-3-3を共通基盤として、電子媒体と紙媒体を併用し、平時から更新・訓練・普及を進めることが重要である。また、全国医療情報プラットフォームやPHRなど医療DXへの期待は大きく、現場の実情を踏まえた政策推進の根拠を示した点に本研究の意義がある。

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202511002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
災害時の透析患者搬送・受入時に優先すべき医療情報を明らかにするため、医療関係者を対象にアンケート調査を実施した。その結果、災害規模や地域連携ネットワークの有無にかかわらず、透析条件・検査データに加え、アレルギー、感染症、禁忌薬等の共有が重要であることを示した。また、全国医療情報プラットフォーム等のITツールへの期待も高く、成果はProgress in Disaster Science等で公表され、国際的にも発信した。
臨床的観点からの成果
透析患者への調査により、患者自身が災害時に必要な医療情報を十分保持していないこと、受入先へ情報が確実に伝達されるかへの不安が強いことを明らかにした。医療関係者が幅広い情報共有を重視したのに対し、患者は透析情報の確実な共有とITツール活用への期待が高かった。これらは、平時からの情報携行、施設間連携、患者説明、災害時の透析時間短縮に関するエビデンス構築など、実装可能な患者支援策の方向性を示す成果である。
ガイドライン等の開発
正式なガイドライン策定には至っていないが、調査結果を基に、災害時の透析患者受入に必要な最小情報項目として、アレルギー、感染症、禁忌薬等の薬剤情報、透析条件、検査データを整理した。透析記録と検査データは直近3回分を基本とする共通認識が得られたため、Minimum Datasetを「AID 3-3」と命名した。今後、関連学会や自治体への啓発を通じて、ガイドライン等への反映を目指す。
その他行政的観点からの成果
令和6年能登半島地震の対応経験について関係者インタビューを行い、東日本大震災等で蓄積された知見が現場対応に有用であったことを確認した。一方で、災害ごとの経験を個別事例にとどめず、共有・統合・標準化する仕組みの必要性も示された。本研究で整理した最小情報項目と運用上の課題は、自治体、医療機関、透析施設が地域連携、災害医療計画、訓練計画を検討し、行政施策へ反映する際の基礎資料となる。
その他のインパクト
本研究の成果の一部は日本医療情報学会で発表され、2024年学術奨励賞を受賞した。災害時透析医療における情報共有の重要性を医療情報分野へ発信し、学術的評価を得た点で社会的意義がある。今後は、関連学会、研究会、透析施設向けの講演等を通じて「AID 3-3」を周知し、自治体や災害医療関係者も含めた普及・啓発活動につなげる。一般向け資料や、患者・施設双方が活用できるチェックリストの作成も検討する。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakayama M, Ishii T, Miyazaki M.
Preparedness gaps in information continuity for inter-facility hemodialysis transfer during disasters: findings from patients and professionals in a multi-prefecture survey in Japan.
Progress in Disaster Scienc. , 31 , 100619-100619  (2026)
10.1016/j.pdisas.2026.100619.
原著論文2
Nakayama M, Ido K, Miyazaki M, Ishii T.
Questionnaire Survey of Dialysis Patients and Medical Professionals Regarding Information Sharing During Disasters.
Prehospital and Disaster Medicine. , 41 (S1) , s40-s41  (2026)
10.1017/S1049023X2610257X.
原著論文3
中山雅晴, 井戸敬介, 石井正, 宮崎真理子.
医療者および患者からみた災害に備えた透析患者の情報管理と体制整備.
日本透析医学会. , 58 , 1513-1513  (2025)
原著論文4
中山雅晴, 井戸敬介, 石井正, 宮崎真理子.
災害時における透析患者情報の共有に関する意識調査.
医療情報学 , 44 , 1106-1108  (2024)

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202511002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,735,000円
(2)補助金確定額
4,735,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 226,193円
人件費・謝金 2,581,659円
旅費 397,370円
その他 437,778円
間接経費 1,092,000円
合計 4,735,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2026-10-27
更新日
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