接触及び血液由来感染症の防御対策に関する研究

文献情報

文献番号
199700791A
報告書区分
総括
研究課題名
接触及び血液由来感染症の防御対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小室 勝利(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 宮村達男(国立感染症研究所部長)
  • 田代眞人(国立感染症研究所部長)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所部長)
  • 荒川宣親(国立感染症研究所部長)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所室長)
  • 水沢左衛子(国立感染症研究所主任研究官)
  • 岩崎琢也(国立感染症研究所室長)
  • 阿部賢治(国立感染症研究所主任研究官)
  • 関口定美(北海道赤十字血液センター所長)
  • 佐藤博行(福岡赤十字血液センター副所長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
接触及び輸血後感染症として重要なウイルス、細菌感染の防御対策に役立てることを目的に、現在、臨床上問題の多い、又、治療の進歩に伴い将来問題となるウイルス、細菌に対する診断法(特にPCR法)の開発、改良、そのための標準品の整備、管理、交付体制の確立と、ウイルス、細菌の除去不活化を実施していない血液成分製剤のウイルス、細菌除去不活化法の開発を実施する。診断技術の向上と、安全性向上の両面からの検討を行う。
研究方法
研究方法と結果=1. HCVの複製機構に関する研究
HCVの複製機構の解明に役立てるため、コアタンパク質とゲノムRNAとの結合性に関する検討を行った。ヒト肝由来の細胞に、組み換えバキュウロウイルスを感染させることにより、HCVコアタンパク質を発現させておき、その細胞に、HCV遺伝子の種々の領域のゲノムRNAをトランスフェクトし、両者の結合性を測定した。  その結果、
?コアタンパク質は、HCVのRNAのポジティブ鎖と特異的に結合することを初めて明らか にした。
?コアタンパク質との結合に必須なRNA領域は、5'末端から数えて、329~710nt(381nt), 708~1357nt (650nt), 1125~2322nt(1198nt)であることを証明した。
これらの結果は、HCVの複製機構、HCVによる発癌機構を考える上で、重要な知見であると考えられた。
2. HGV-PCR法の開発と分子疫学的研究
HGV感染症の安定したPCR診断法の開発と、日本における血清疫学調査を実施した。PCR用プライマーは、HGVゲノムのNC領域から作製し、cDNA合成と最初のPCR法を連続に行う、one-step法によるnested RT-PCR法を用いた。  その結果、
?開発したPCR法では、数コピーのHGV-RNA が検出できた。
?日本に於いて、HGV陽性率は健常人で1.4%, 肝疾患患者では6.8%であり、HCVとの重感 染者が多かった。これらHGVの80%は3型 のゲノタイプに属していた。
?非A‐非G型肝炎患者でのHGV感染率は5.9%であり、未だ、未知の肝炎ウイルスの存在が示唆された。
遺伝子組み替え操作によるHGVタンパクの発現と、これを用いた関連抗体測定系の開発につき検討を加えている。
3.ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)に関する研究
HHV-6検出用のPCR法の開発及び輸血による感染の可能性につき検討を行った。HHV-6Bの塩基配列上、保存性が高いと考えられる前初期遺伝子IE領域及び主要カプシド蛋白 (MCP)領域をタ-ゲットとしてプライマー設計を行った。  その結果、
?MCP領域をターゲットとするPCRが最も感度が高く、10コピーをsingle PCRで検出できた。
?突発性発疹患者の未梢血中の単核細胞に、高頻度にウイルスゲノムを検出できた。血液細胞を含む、血液成分製剤輸血では、本ウイルスが感染するものと考えられた。
HHV-6の病原性には不明な点が多いが、リンパ球の破壊、免疫抑制作用及び骨髄抑制を示すことなども報告されており、臨床的意義について検討を加えている。
4. ヒトパルボウイルスに関する研究
ヒトパルボウイルス検出のための供血者スクリーニング法(RHA法)及びPCR法の開発、改良を行った。  その結果、
?RHA(Receptor-mediated hemagglutination)法は、現在輸血に用いているHBs抗原用の受身血球凝集反応のほぼ10倍の感度を持ち、供血者スクリーニングに応用可能と考えられた。
?RHA法の検出限界は、ウイルスコピー数として、104-5コピー-/mlであった。
?RHA法を用いたスクリーニングの結果、1万人に約1人の頻度で、ウイルス陽性者のいる ことがわかった。
?single PCR法とnested PCR法の感度の比較を行った。nested PCR法を用いると数コピー/ml のパルボウイルスを検出できた。
ヒトパルボウイルスは、現在、供血者のスクリーニングは実施されていない。除去、不活化が極めて困難なウイルスであるので、将来的に使用されるであろう測定法の標準化作業を進めている。
5.エルシニア菌に関する研究
Y.enterocolitica を迅速に検出するPCR法に検討を加えた。4つの異なった遺伝子、遺伝子領域をプライマーとして選択し、Y.enterocolitica に特異的なPCR法の開発を行った。 その結果、
?Yersinia enterocolitica, Y.pestis, Y.pseudotuberculosisの3種を検出できるプライマーを作製した。
?高温処理した死菌をテンプレートとしたPCR法で、Yersinia属及びその類縁菌から、Y.enterocoliticaを特異的に検出することに成功した。
Y.enterocolitica感染による輸血後敗血症例が多く報告されている。同菌を特異的に検出できる迅速に行えるPCR法の開発に成功した。輸血領域で広範に利用できると考えられ、他施設でも利用可能な方策を確立したい。
6.血液製剤による細菌感染の疫学的検討
学術雑誌、各国の公的保健機関の発行する報告書などから、血液製剤の細菌汚染状況、輸血後敗血症の状況等を分析した。
Staphylococcus(S.)epidermidis, S.marcescens, Yersinia enterocolitica, Pseudomonas Fluorescens等多くの感染例が報告されている。
今後、臓器移植などの高度医療の推進や、高齢の患者の増加に伴い、感染防御能の低下した患者の増加が見込まれると考えられるので、我が国に於いても、細菌汚染の実態を把握する対策が必要と考えられた。
7.血液成分製剤のウイルス、細菌除去不活化に関する研究
パルボウイルスを血液成分製剤より除去する方法の検討を行った。人工酸素運搬体の原料となるヒト赤血球へモグロビン溶液(SFH)にパルボウイルスを添加しウイルス除去膜(旭化成BMM膜)にて濾過、ウイルスの除去率を測定した。  その結果、
?孔径15nmのBMMを使用すると、約7log10 の除去が可能であった。
?ヘモグロビンの回収率は約90%であった。
BMMフィルターは、サイズの小さなパルボウイルスも除去可能で、血漿成分のウイルス除去には有用な方法であると考えられた。
結果と考察
考察=粘膜接触感染症(STD)と輸血後感染症はレトロウイルス、肝炎ウイルス等、共通した点を多く有している。HIV, HTLV, HBVについては、多くの防御対策がとられ、それなりの成果をあげているが、それ以外のウイルスに対しての対策は必ずしも充分ではない。さらに、高度医療の推進や、高齢患者の増加等、宿主の抵抗性の減弱に伴う再興感染症の問題も生じている。
これらに対応するためには、危険の原因を正しく診断することと、やむを得ず輸血をする場合、その危険因子をできるだけ除去することが必要である。
本研究は、この2点に役立てることを目的に、現在問題となっている、又、近々問題となり得る感染症として、HCV,HGV, 非A~G型肝炎、パルボウイルス、ヘルペスウイルス群、エルシニア菌をとり上げ、診断法の開発、改良、標準化と血液成分製剤の安全性向上技術の開発を行うこととして行われた。ウイルス、細菌に対するPCR法の開発、改良と応用については、徐々に成果は上がっている。将来的に、日本全国でこれら方法が、共通に利用し得るよう、標準化作業を進めていきたい。EUの国々では、1999年4月から、血漿分画製剤の原料血漿のプールに対し、全ロットHCV-PCR法による混入状況を検査し、陽性血は原料として、使用してはならない政策を実行すると聞く。当然のことながら、日本も同様の対応を迫られることになると考えられるが、本研究班の成果が応用できることを望む。一方、血液成分製剤の安全性向上のため、光不活化法や、ウイルス除去膜を使用した研究も進んでいる。アメリカでは、遠くない時期に、血小板、赤血球製剤で、ウイルス不活化した製剤が承認申請されようとしている。この面でも、早急に、臨床応用できる様努めていきたい。
STDと輸血後感染症は、benefit and risk の視点から考慮しなければならないが、benefitの部分をより多くすることが必要と考える。
結論

公開日・更新日

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