本邦における性感染症に関するセンチナル・サーベイランス施行の基礎的検討

文献情報

文献番号
199700790A
報告書区分
総括
研究課題名
本邦における性感染症に関するセンチナル・サーベイランス施行の基礎的検討
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
熊本 悦明(札幌医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 塚本泰司(札幌医科大学)
  • 西谷巌(岩手医科大学)
  • 赤座英之(筑波大学)
  • 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 野口昌良(愛知医科大学)
  • 守殿貞夫(神戸大学)
  • 碓井亞(広島大学)
  • 柏木征三郎(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在HIV感染が世界的に性感染症として流行しており、しかもそれが他の性感染症の流行と連動して拡散していることは、多くの疫学研究が明らかにされているところである。そのため、性感染症の予防対策こそHIV感染流行阻止の鍵を握るものとされている。ところが本邦では、現在性器ラクミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスなどの性感染症が明らかに増数傾向を示しており、その一般人口内への浸透度の著しさはまさに一般生活環境汚染と言っても過言ではないほどに猖獗を極めている。HIV感染を含め、性感染症に対する国民の危機感がきわめて低いと言って過言ではない。しかも、現在“新感染症予防法"の作成作業が進められている中、その新法の理念のもと、最近注目されている新興・再興感染症を始めとする各種感染症に対する危機管理体系確立が強く求められるようになってきている。ことに、上述の様な社会的状況の中、性感染症全般に対する積極的な対応が急務になりつつあると言ってよい。その上、長年論議を重ねて来た低用量避妊薬(Pill)の解禁も近く行われる様な流れの中、性感染症に対する危機管理の徹底が強く求められる様になりつつある。ところが、その様な事態にも拘わらず、本邦においては性感染症の実態調査の正確な資料がなく、現在は厚生省の定点調査による単なる動向分析資料のみしかない状況である。以上のような性感染症を巡る問題に対応するため、性感染症の動向を、全数把握に近い形のセンチナル・サーベイランスで詳細な実態把握を行い、適切な対応を打ち出していく必要性が高まって来ている。とはいえ、現在直ちに全国的なその様な調査を行うことは不可能であるため、取り敢えず全国的なレベルでモデル県を選び、センチナル・サーベイランスを施行し、その実態に関する基礎的検討を行うべく我々の班研究が計画された訳である。
研究方法
厚生省結核感染症課及び日本医師会感染症危機管理対策室の指導の下、各地方の代表としての北海道・岩手県・茨城県・愛知県・兵庫県・広島県・福岡県の7モデル県を選び、泌尿器科・産婦人科・皮膚科・性病科に受診した症例を定期的に調査し、性感染症(梅毒・淋菌感染症・非淋菌性尿道炎・子宮頸管炎・性器クラミジア感染症・性器ヘルペス・軟性下疳など)の実数把握を関連医師会の協力のもとで行う。3年計画で、毎年6月及び11月中に各モデル県内関連診療施設を受診した新患の報告を受け、疫学的分析を国立公衆衛生院疫学部において詳細に行うことにしている。
結果と考察
現在1998年6月に受診した性感染症症例数、11月期の症例数調査を行う準備をしている(なお、11月よりの調査には、モデル県で抜けていた四国地方の代表としての徳島県(代表 徳島大学泌尿器科学教室 香川征教授)も参加すべく調整を進めている)。ただ、その全国レベルでの調査実施の準備期間の1997年、本調査に必要な情報を得るために、北海道日本産婦人科医会の協力のもと、北海道内における全産婦人科診療施設254施設に1997年8月中に妊娠の帰結をみた妊婦の性感染症調査を施行した。そして、一般臨床施設から今回行うような、アンケート調査への協力度の検討と共に調査報告書き込みにおいて、誤りを犯し易い調査用紙作成上の問題点の分析を行った。その結果、単なる調査用紙の送付のみでの回収率が初めは極めて低く、繰り返しの調査依頼書の送付と各報告書書入担当医師の調査への理解面上の努力が、当然なことながらかなり回収率に影響することが明らかになった。
最終的には回収率92.1%に達したが、今回全国的に広範に施行する調査実施における繰り返しの依頼の必要性と継続的調査実施とその早急な報告による調査への理解の必要性が明らかになり、本調査施行の重要な参考資料となった。さらに調査記入上、誤解され易い表現や調査説明の問題点も諸々明らかになり、重要な調査法の参考dataを得た。次に基本的な問題点として、性感染症診断のための検査が一般臨床において必ずしも診療経費の関係から十分に行われておらず、梅毒血清検査で87.0%、クラミジア・トラコマーティス抗原検査率61.2%と、予想に反して検査施行率が低いことが明らかになった。これは性感染症調査成績をまとめる段階での調査内容の学問的質を落とすことになり、国際的に発表する場の問題点となると考えられる。その上、無自覚性の性感染症施行への対応、ことにPill解禁後の性感染症対策など公衆衛生学的立場からの行政的施策上、極めて重要な問題点が示唆されていると考えられる。Pill解禁後の性感染症流行の動向調査には無自覚感染の性器クラミジア感染症の動向が最も重視されていることから、第一線医師のクラミジア検査の重要性の認識が必須である訳である。これらの点を考える時、如何に今後性感染症に対する危機管理感向上のための第一線医師の啓蒙が、一般国民への啓蒙以前の問題として浮かび上がったと言ってよい。いづれにせよ、北海道産婦人科会での調査資料とその調査経験を基に、本研究班としての本調査を準備し、すでに調査施行に入っており、その第一回調査成績を待っている。その成績と調査施行上浮かび上がった問題点を参考としつつ、今後の調査をより質の高い、よりよい正確度のものとし、本邦における性感染症のセンチナル・サーベイランスの基本方針作成のための研究班のまとめを作るべく研究を進めている。
結論
北海道産婦人科医会での調査により、参考になる性感染症サーベイランス調査施行上の問題点が明らかになった。

公開日・更新日

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