下痢症ウイルスの検出法、予防法、汚染指標および疫学に関する研究

文献情報

文献番号
199700788A
報告書区分
総括
研究課題名
下痢症ウイルスの検出法、予防法、汚染指標および疫学に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
宮村 達男(国立感染症研究所ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小型球形ウイルス(SRSV)の標準検査法として用いられている電子顕微鏡に代わる方法として、組換え蛋白によるELISA法の開発、およびこれと並行して、現在急速に進展しつつあるPCR法による遺伝子検出を更に確実に実施するための共通プライマーの検討を行い、原因食品からSRSVを迅速かつ感度良く検出する方法を確立する。SRSVによる食中毒の原因食品の多くはカキによるものであると考えられていることから、養殖海域におけるSRSV汚染実態調査、SRSV汚染指標の開発、およびSRSVの消毒方法の検討を行い、予防対策に必須の基礎データを集積する。
研究方法
データベースの構築:GenBank release 105.0(2/98)、EMBL release 53.0(12/97)、PIR-Protein release 55.0(12/97)、SWISS-PROT release 35.0(11/97)を参照した。遺伝子解析ソフトウエアパッケージGCG version 9.1によって上記データベースに登録されているSRSV遺伝子を検索し、RNA依存性RNAポリメラーゼ領域および構造蛋白領域の塩基配列を抽出してデータベースとした。
プライマーの設計:ORF1の3'末端ーORF2構造蛋白全領域のアラインメントを行い、構造蛋白の5'末端の約300塩基を増幅するプライマーをGenogroup I、Genogroup II毎に設計した。このプライマーを用いて増幅した領域の塩基配列を解読し、新規の配列が得られた場合、抽出したRNAをSRSV遺伝子として収集・保存した。
組換えバキュロウイルスの作製と構造蛋白の発現:SRSV構造蛋白領域を発現する組換えバキュロウイルスを作製した。感染昆虫細胞の培養上清に産生された大量の中空ウイルス様粒子をCsClならびに蔗糖密度勾配遠心で精製した。
カキおよび海水の採取:広島湾内の16地点について,1997年10月から1998年3月の間にカキおよび海水を採取した。
結果と考察
[SRSVの疫学] 
ポリメラーゼ領域の解析からSRSVはGenogroup I、Genogroup II、Classical human calicivirusの3種の遺伝子型に分類されている。 食中毒に関与するのはGenogroup IとGenogroup IIである。1997-1998年冬季期間に食中毒9事例で検出された約50株のSRSVのRNA依存性RNAポリメラーゼ遺伝子の塩基配列を解読した結果、1997-1998年冬季は全てGenogroup IIの遺伝子型であることが明らかになった。しかし1995-1997年の約30検体について構造蛋白領域の増幅を行い、増幅断片の塩基配列を解読した結果からは、これまで確認されているGenogroup Iの4種類と新規の1種類、Genogroup IIの7種類全ての遺伝子型を検出しており、実際に1997-1998年がGenogroup II だけであったのか結論はだせない。 RNA依存性RNAポリメラーゼ領域を増幅するプライマーで選択されてきた可能性がある。カキ関連の食中毒からはGenogroup IとGenogroup IIが同時に検出されることはさほど珍しいことではないことも明らかになった。
[診断、検査法]
従来の方法ではnested PCRを行わなければSRSVの検出は困難であったが、1)DNase?処理により疑似バンドの原因となるDNAを除去する、2)PCRの反応時にpre-amplification stepを加えてプライマーのミスマッチに対する許容度を大きくする、ことによって検出感度をあげることができた。特にDNase?処理の効果は非常に高くカキ中腸腺のように大量のDNAが混入してくる検体に対しても有効と考えられた。また増幅断片をSSCP解析を行った結果、カキが原因の食中毒から検出されたSRSVは同じ集団でも患者によって異なることがわかった。一方、カキが原因でない施設内発生例では、同じ施設の患者は同じSSCPパターンを示しており明らかに流行形態が異なること、従って、一般の飲食店における食中毒であっても、調理人に原因がある場合は同じSSCPパターンを示すものと予想された。
構造蛋白領域に設計したG1F1/G1R1、G2F1/G2R1による検出率は、すべての事例において極めて高い検出率を示した。特に1st PCRであるにも関わらずSRSV 遺伝子検出感度を高めることができた。また、nested PCR を行う事により、従来は検出することができなかったカキ以外からの食品からSRSV遺伝子を検出することに成功した。また、G1F1/G1R1、G2F1/G2R1プライマーにより検出された配列はプライマーの名称通りそれぞれGenogroup I、Genogroup IIであったことから、極めてGenotype特異性が高いことが示された。塩基配列の系統解析から今回検出したウイルスには、日本独自の株が多数存在していることが示された。
マイクロプレーイトハイブリダイゼーショーンによるSRSVのPCR産物の確認試験法を確立した。米国のNorwalk 群およびSnow Mountain 群プローブとは全く反応しないSRSVが多数検出され、プライマー、プローブの選定にはウイルスの変化に対応し、わが国独自のものを設計していく事が必須と思われた。カキではハイブリダイゼーショーンでGenogroup IとGenogroup IIの両方に反応するものが見られ、カキが複数のSRSVに汚染されていることが推察された。
組換えバキュロウイルスによってGenogroup I の2株、 Genogroup II の3株のウイルス用中空粒子を産生することに成功し、これを抗原したELISA法を確立した。
[汚染指標]
広島県のカキ養殖海域におけるカキおよび海水中のSRSVの分布を調査した結果、SRSV遺伝子はカキの9.6%,海水の20.8%から検出された。カキについてはfecal coliform MPNが230を超える場合はそれ以下と比較して検出率に大きな差が認められた。また、海水においてもcoliform MPNが70を超える場合とそれ以下の場合とでは,検出率に大きな差が認められた。カキに比べ海水からの検出率が高かったが、海水については汚染指標菌数の多い地点を中心に検査したためであると考えられた。検出されたSRSV遺伝子はすべてGenogroup IIであった。PCR条件および使用プライマーにより検出率に差が認められ、効果的な検査法の検討がさらに必要と思われた。現在行っているSRSVの検出はPCRに依っているため、その遺伝子の有無を確認しているにすぎず、感染性粒子の存在が確認できる検査法の開発も望まれる。
結論
SRSV非構造蛋白領域ORF1のRNA依存性RNAポリメラーゼ領域、および構造蛋白領域ORF2のデーターベースを構築した。 わが国で分離されたSRSVのRNA依存性RNAポリメラーゼ領域の塩基配列を解読し流行株の系統解析を行った結果、大部分がGenogroup IIであった。一方、構造蛋白の5'末端を増幅するプライマーで増幅される遺伝子の塩基配列解析からはこれまで確認されているGenogroup Iの4種類と新規の1種類、Genogroup IIの7種類全ての遺伝子型を検出した。これらのSRSV RNA遺伝子を収集・保存した。カキ関連の食中毒からはGenogroup IとGenogroup IIが同時に検出されることはさほど珍しいことではないことが明らかになってきた。
構造遺伝子増幅用プライマーG1F1/G1R1、G2F1/G2R1はnested PCRなしでも効率よく目的の遺伝子を増幅することができるプライマーであること、特異的にウイルス遺伝子が増幅できるためgenogroupのタイピングも可能であること、さらに nested PCRを実施すると食品からもSRSV遺伝子を検出することが明らかになった。SSCP法による流行パターンの解析を試み、カキ由来食中毒とそれ以外の集団事例で異なった解析パターンが認められた。マイクロプレーイトハイブリダイゼーショーンでプローブを混合して用いることにより、従来のサザンハイブリダイゼーショーンよりも短時間かつ簡便な確認試験を確立した。
SRSV遺伝子はカキの9.6%,海水の20.8%から検出された。遺伝子の検出と汚染指標菌との間には相関が認められ、カキにおいてはfecal coliform MPNが230を、海水においてはcoliform MPNが70を超えると検出率が高くなることが認められた。

公開日・更新日

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