糖尿病多発神経障害の臨床病期分類の確立と病期に基づいた治療ガイドラインの作成

文献情報

文献番号
201021055A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病多発神経障害の臨床病期分類の確立と病期に基づいた治療ガイドラインの作成
課題番号
H20-糖尿病等・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
八木橋 操六(弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 安田 斎(滋賀医科大学看護学科)
  • 佐々木 秀行(和歌山県立医科大学大学院医学研究科)
  • 佐藤 譲(岩手医科大学医学部)
  • 出口 尚寿(鹿児島大学医学部・歯学部附属病院)
  • 中村 二郎(名古屋大学大学院医学研究科)
  • 麻生 好正(独協医科大学越谷病院)
  • 杉本 一博(弘前大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
8,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、糖尿病患者の末梢神経障害徴候を経時的に観察し、それがいかに推移するかをまとめることにより多発神経障害の臨床病期分類を確立することを目的としている。また、神経障害の重症度を客観的に評価する必要があることから、神経伝導検査や皮膚生検による神経病理評価を加えて病期分類との関連を試みる。3年目の研究では、主に皮膚生検による評価を主体とし病期分類との関連を検討した。
研究方法
全国多施設から収集した糖尿病患者を1146名を神経障害の病期分類にあてはめ、登録症例がどの病期に属するかを決定した。同時に背景となる年齢、血糖コントロール状態、高血圧、血中脂質、臨床症状、治療状態などの病期進展に対するインパクトを統計学的に検討した。神経伝導検査は登録症例の中で無作為に実施可能であった100例についてまとめ、病期との比較検定を行った。自律神経障害についてはCVRRを検討した。なお、2年目の経時的観察の可能であった362症例については、神経障害の進展、あるいは可逆性について検討を加え、その影響因子をみた。皮膚病理評価は、同意の得られた糖尿病患者86例、健常対照者37名について皮膚生検を実施した。

結果と考察
糖尿病患者における多発神経障害の頻度が36%であり、その約47%が無症状の早期神経障害であった。病期分類では、I期(神経障害なし)63%、Ⅱ期(無症状期神経障害)17%、Ⅲ期(症状期前期神経障害)9%、Ⅳ期(症状期中期神経障害)3%、Ⅴ期(症状期後期神経障害)1%であった。神経生理学的検査結果では、病期と各伝導検査が並行してみられた。進展期に対する危険因子として、①糖尿病罹病期間、②血糖コントロール(HbA1c)、③高血圧、④インスリン治療が有意となった。表皮神経線維分布では、非糖尿病に比し糖尿病例ではⅠ期(神経障害なし)でも、正常対照の50%以下に減少しているものが半数以上を占めた。また、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期例ではいずれも高度減少例が多く、病期と神経線維消失率とは相関をみなかった。経過観察できた362例での病期進行例は47名(13%)であり、一方好転例は36例(10%)であった。この変化には血糖コントロール、高血圧等の因子の関与がみられた。
結論
 糖尿病多発神経障害の臨床病期分類を提示し、疫学調査、神経生理学的検査、皮膚神経評価の結果から、その分類が概ね妥当であることが示された。また、多発神経障害は糖尿病発症早期、あるいは耐糖能異常の段階から起こっている可能性が高く、進展因子である血糖コントロール、高血圧の是正、積極的な成因に基づく治療が必要とされる。

公開日・更新日

公開日
2011-06-15
更新日
-

文献情報

文献番号
201021055B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病多発神経障害の臨床病期分類の確立と病期に基づいた治療ガイドラインの作成
課題番号
H20-糖尿病等・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
八木橋 操六(弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 安田 斎(滋賀医科大学 看護学科)
  • 佐々木 秀行(和歌山県立医科大学 大学院医学研究科)
  • 佐藤 譲(岩手医科大学 医学部)
  • 出口 尚寿(鹿児島大学医学部・歯学部 附属病院)
  • 中村 二郎(名古屋大学 大学院医学研究科)
  • 麻生 好正(独協医科大学 越谷病院)
  • 杉本 一博(弘前大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病多発神経障害の臨床病期分類の確立とそれに応じた治療・管理のガイドラインの策定は喫緊の課題である。本研究では、全国多施設において神経障害を専門とする糖尿病専門医を中心に多数の糖尿病患者の多発神経障害がいかに推移するかを検討し、それをまとめ適切な臨床病期分類を確立することにある。さらに終局的には、病期別の管理・治療ガイドラインを作成することを目標としている。

研究方法
「糖尿病多発神経障害の臨床病期分類案」を作成し、それに基づき患者登録プロトコールを作成した。病期の進展度を客観的に評価するため、神経伝導検査、皮膚生検による神経病理評価を加えた。まず、1015例横断調査による本邦糖尿病患者多発神経障害の実態調査を行った。病期分類で分けられた各群における年齢、性、糖尿病罹病期間、血糖コントロール、体重、高血圧、血清脂質、糖尿病治療状況などの因子をあげ、病期進展の危険因子を多変量解析にて検討した。なお、2年目の経時的観察の可能であった362症例については、神経障害の進展、あるいは可逆性について検討を加え、その影響因子をみた。一部では、神経伝導検査を行った。また、皮膚生検による表皮内神経線維密度の評価を同意の得られた85例にて実施した。
結果と考察
糖尿病者における多発神経障害の頻度は36%であり、その約49%が無症状の早期神経障害であった。病期分類ではI期(神経障害なし)63%、Ⅱ期(無症状期神経障害)17%、Ⅲ期(症状期前期神経障害)9%、Ⅳ期(症状期中期神経障害)3%、Ⅴ期(症状期後期神経障害)1%であった。進展期に対する危険因子として、糖尿病罹病期間、血糖コントロール、高血圧、インスリン治療があげられた。多発神経障害の各病期進展は糖尿病腎症、網膜症の病期と強い相関を示した。神経伝導検査では、その機能が病期に応じ段階的に減少した。表皮神経線維分布の検討では、非糖尿病に比し糖尿病例ではとくにⅠ期(神経障害なし)の段階において神経線維が減少している例が40%を超え、Ⅱ期以降はすべて線維脱失を高度に認め、各病期間に差を認めなかった。今回の研究結果から、神経障害が早期から出現することが明らかとなり、神経障害をを積極的に診断し、それに対処することは、糖尿病患者のQOL低下を防ぎ平均寿命の延長を可能とするものである。
結論
糖尿病多発神経障害の臨床病期分類を提示し、疫学調査、神経生理学的検査、皮膚神経評価の結果から、その分類が概ね妥当であることが示された。また、多発神経障害は糖尿病発症早期、あるいは耐糖能異常の段階から起こっている可能性が高く、より感受性の高い診断法の開発が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2011-06-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201021055C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖尿病多発神経障害の本邦での頻度、およびその病期別頻度が明らかとなり、その病期進展に関与する因子となる高血糖持続、高血圧、罹病期間などが明らかとされた。また、進展の客観的指標として神経伝導検査、および皮膚生検による表皮内神経線維密度分布が有用であることが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
糖尿病患者の管理・治療の目標である合併症進展の抑制には、その病期の判定が不可欠となる。今回の多発神経障害の臨床病期分類案の妥当性が示され、今後それを指標として合併症進展抑制の評価が可能となる。また、合併症の治療評価のエンドポイントも明確となった。
ガイドライン等の開発
神経障害は糖尿病合併症の中で最も早期に出現し、頻度の高いものである。従って、糖尿病患者の管理・治療は神経障害を指標としてその進展抑制を目標とすることになる。今回の臨床病期分類から、それに応じた管理・治療のガイドラインを提唱する予定である。
その他行政的観点からの成果
糖尿病合併症への対策の中で神経障害の診断、管理・治療の指針は必ずしも十分ではなかった。とくに神経障害をもつ患者では無症状のものが多く、放置されていることが少なくなかった。神経障害の早期出現、神経線維の早期脱失が明確となり、今後の対策指針が得られた。
その他のインパクト
市民公開講座において、糖尿病合併症の啓蒙を企画した。また、糖尿病学の進歩、糖尿病学会総会等において、研究成果を紹介し、糖尿病専門医、内科医等への知識啓発を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-10-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201021055Z