食中毒菌の検出方法、食品汚染の実態とその制御に関する研究

文献情報

文献番号
199700787A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒菌の検出方法、食品汚染の実態とその制御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
熊谷 進(感染研)
研究分担者(所属機関)
  • 協力研究者:地方衛生研究所等
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年我が国において、腸管出血性大腸菌やサルモネラ等による食中毒が急増し、その防御策の構築が急がれている。これら食品を媒介とする感染症の発生を防止するためには、原因食品の究明、当該細菌の汚染源と汚染経路の究明、生産流通における食品中の汚染細菌の挙動の究明等が必須である。本研究の目的は、以上を遂行するために不可欠な食品からの腸管出血性大腸菌O157の検出のための妥当な方法を見いだすこと、媒介動物としてのハエ類のO157伝播への寄与を明らかにすること、食品の衛生管理における洗浄・殺菌方法を求めることにある。またサルモネラ鶏卵汚染とその制御方法やエルシニア・エンテロコレチカ汚染実態を究明することも目的とする。以上により、食中毒疫学調査と食品サーベイランスの遂行に必須な食品からのO157の検出方法に改良・追加が行なわれると共に、O157汚染ハエ類の発生源対策と駆除対策および食中毒菌を念頭においた洗浄殺菌方法の構築が可能となる。また食品へのサルモネラやエルシニア・エンテロコレチカ等の病原細菌の汚染防除策のための基礎的知見が得られる。
研究方法
1)腸管出血性大腸菌O157の加熱または凍結による損傷条件を、TSA上とCTSMAC上のコロニー数を指標として検討し、最も著しい損傷を与える方法を探求した。損傷菌を接種したかいわれ大根、いちご、塩キャベツについて、TSBで2時間培養後胆汁酸とノボビオシンを加え20時間42Cで培養した後に、または胆汁酸を除いたmECで2時間培養後胆汁酸とノボビオシンを加え20時間42Cで培養した後に、培養物を直接またはイムノビーズで集菌した後に、クロモアガーおよびCTSMAC上に塗抹する方法を比較検討した。また、各種食品にO157接種した後にそれらを冷凍または冷蔵保存し、冷凍中における食品中の損傷菌の割合を、TSA上のコロニーをCTSMAC上にコロニハイブリダイゼーションをすることによって求めた。
2)全国規模(15都道府県)でハエ類を採集し、mEC+nで42C18ー24時間培養したものからイムノビーズで集菌し、CTAMACでO157を分離した。DNAはパルスフィールド電気泳動でパターンを調べた。患者発生地点におけるハエ類発生環境を調査した。O157菌液をイエバエに摂食させた後に、歩行させたアガー上のO157および排泄物中のO157を検索するとともに、イエバエを電子顕微鏡で観察した。
3)手洗い方法について実験を行なった。被験者12名の大腸菌汚染牛挽肉を取り扱った手指を、各種市販石鹸で洗浄後、手指上の一般生菌数と大腸菌数を標準寒天培地またはMUG加X-GALを用いて測定した。35名の被験者について、鶏挽肉取り扱い後に、石鹸洗浄やアルコール噴霧を行なった後、手指上の一般生菌数、グラム陰性菌数、大腸菌数を標準寒天培地、0.1%SDS添加普通寒天培地またはMUG加X-GALを用いて測定した。
4)殻付き卵内容物中の温度と外界温度との関係を明らかにするために、自動記録温度計のセンサーを卵白部に挿入し、人工的に設定した外界温度とともにモニターした。殻付き卵の卵黄表面におけるサルモネラ増殖条件を推定するために、ビーカー内に分け入れた無傷の卵黄にサルモネラ菌液(蒸留水)を添加してから18~20C下で24または48時間保存し、その間の菌増殖をMGLB培地を用いて調べた。卵内容物からの高感度のサルモネラ検出方法を見いだすために、各種増菌方法、イムノビーズ、各種平板培地を組み合わせた方法についてサルモネラ接種試料からの検出率を指標として比較検討した。
結果と考察
1)O157懸濁ミリQ水を52C温浴中で加熱、またはー20C下で保存した場合の損傷菌の存在比を調べた結果、ー20C下24時間凍結により最も高率に損傷菌ができることがわかった。損傷菌含有ミリQ水にTSBを加え15C下で4時間、25C下で1時間放置すると損傷の回復が認められた。損傷菌(6.2~9.4CFU/25g)を接種した塩キャベツからは、TSBで2時間培養後胆汁酸とノボビオシンを加え20時間培養、または胆汁酸を除いたmECで2時間培養後胆汁酸とノボビオシンを加え20時間培養のいずれの培養方法とも、イムノビーズ集菌後CTSMAC培養との組み合わせで、約半数の検体からO157を検出できたが、他の食材からは極めて低率でしか検出できなかった。食品のー20C冷凍保存によってO157損傷菌は、いちご、塩キャベツ、牛挽肉、キャベツ、ゆでじゃがいも、トマトについては35日目までは低率にしか出現しないが、56日目には総O157菌数の90%以上を占めるようになることが認められた。わかめ、大根おろし、キュウリ、野菜ジュース、牛乳については、56日目めまで損傷菌の割合が増加しないことがわかった。わかめ、大根おろし、キュウリ、野菜ジュース、牛乳については、1週間4C下保存によっても損傷菌割合が増加しないことが認められた。以上の成績から、これら食品については、長期冷凍保存の場合のみ損傷菌回復を組み込んだ検出法が必要となるものと考えられた。2)調査ハエ総数5128個体のうちO157保有バエ(イエバエ0.55%、その他ハエ0.31%)は牛舎・と畜場等で確認された。保有バエが確認された15地点での採集ハエ数に対するO157保有バエの割合は平均7.2%であった。イエバエより分離したO157の中には、患者からのO157のDNAパターンと一致するものがあった。患者発生箇所での環境調査により、調査地点周辺にはイエバエの飛来可能な距離内にイエバエ等の発生源となりえる農業生産施設が確認された。O157摂食バエから播種されるO157は、排泄物、吐出物、歩脚末端の複合由来と考えられた。O157摂食バエは短時間で排泄物一滴中に多数のO157を排泄した。摂食後1日目の口唇部、消化管内に菌の分裂増が多数観察された。3)大腸菌汚染牛挽肉を取り扱った手指の洗浄については、液体石鹸2回+オスバン原液30秒洗い(手指表面接種菌数の0.00378%)、液体石鹸+オスバン原液10秒洗い、液体石鹸+風乾+エタノール、液体石鹸2回+オスバン10倍液10秒、ミューズ石鹸、液体石鹸2回、中性洗剤、液体石鹸+風乾せず+エタノール、液体石鹸、オスバンウォッシュ、水洗い(手指表面接種菌数の2.07%)の順に除菌効果が大であったことから、家庭等では状況に応じて薬用液体石鹸での洗浄や、薬用液体石鹸とオスバン原液との組み合わせを使うべきものと考えられた。鶏挽肉取り扱い後手指の洗浄については、一般生菌数、グラム陰性菌および大腸菌群に対しては薬用石鹸による洗浄でも一定の効果があること、一般生菌に対しては薬用石鹸洗浄後オスバン10%15秒もみ洗いまたは薬用石鹸洗浄後オスバン1%30秒つけこみに比較的大きな除菌効果が認められた。4)殻付き卵を、32C6時間→28C12時間→25C6時間を反復する恒温器中に放置した場合の卵内容中の温度は、約1時間遅れで同様の変化を辿るが高温時間帯では外気温よりも約1C低いことが認められ、またダンボール箱中の殻付き卵については、32C8時間→28C8時間→25C8時間を反復する恒温器中に放置した場合の卵内容中の温度は、より一定に保たれる傾向があり、高温時間帯では外気温よりも2C以上低いこと
が認められた。ビーカー内卵黄のサルモネラ増殖能は、殻付き卵を30C下で保存した場合、保存8日目から12日目にかけて急増すること、殻付き卵を4C下で保存した場合には保存14日目と0日目とでは大きな差異はなく、4C下で14日間保存後30C下で8日間保存した後には急増することが認められたことから、殻付き卵は30C下で保存した場合には8日間を越えると菌が増殖しやすい状況ができること、4C下では2週間保存してもそうした状況にはならないものと考えられた。
結論
通常の食品の場合2カ月以上の長期冷凍保存の場合のみ損傷菌回復を組み込んだ検出法が必要となるものと考えられた。O157保有バエが牛舎・と畜場等で確認された。O157摂食バエから播種されるO157は、排泄物、吐出物、歩脚末端の複合由来と考えられた。薬用液体石鹸とオスバン液との組み合わせによる手洗いに大きな効果が認められた。殻付き卵内容中の温度は外気温よりも低いことが認められた。

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