マラリアの病態疫学と対策に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
199700784A
報告書区分
総括
研究課題名
マラリアの病態疫学と対策に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 守(群馬大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 片貝良一(群馬大学工学部)
  • 宮本薫(群馬大学生体調節研究所)
  • 姫野國祐(徳島大学医学部)
  • 竹内勤(慶應義塾大学医学部)
  • 相川正道(東海大学総合医学研究所)
  • 秦順一(慶應義塾大学医学部)
  • 穂積信道(東京理科大学生命科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
再興感染症であるマラリアに対する日本の貢献は、無償資金協力、技術協力などODA資金をもとに行われてきたが、日本で生まれた科学的成果を現地の対策に応用することが最も基本的な貢献であることはいうまでもない。日本でうまれた科学的成果をもとに対策の貢献を企画することの必要性は寄生虫対策に関するG8の橋本イニシアテイヴが世界の注目を浴びて以来前にも増して高まっている。本申請は現在のマラリア対策の基礎として最も必要な病態解明と薬剤耐性に対処する研究を進めることを目的に立案された。具体的には生体高分子化学、タンパク化学、分子生物学などの先端的基礎研究と、流行地の疫学調査・研究とを整合性をもたせて一体化させて進める点に特徴がある。当研究の直接的成果は本格的な流行地住民の病態生理的特性をとらえるマラリア原虫の抗原分子を特定し、その分子を合成することにより現場で住民集団の病態疫学解析を可能にすることを目指している。この解析ができれば、現地においてどの集団に対し、マラリアの薬剤をただちに投与したらよいか、どの集団は原虫が検出されても住民に一定の免疫力がついているから、薬剤投与を控えてもよいなど、現在まだどこでも行われていない新しい対策への道が開かれる。薬剤耐性マラリアについての基礎研究は、現在あらゆるアプローチにより進めなければならないことはいうまでもない。なお日本にもっとも近い隣国である韓国に三日熱マラリアが再興感染症として蔓延しつつあるが、本研究班にはこの問題に対しても積極的に取り組む企画がある。
研究方法
マラリアの病態を反映する熱帯熱マラリア原虫の抗原分子を特定するために、さまざまな病態にあるマラリア感染者の血清を用意しウエスタンブロット法により各病態において特異的に反応する抗原分子を特定した。特定された抗原分子をBio Rad Model 491 Prep Cell を使って大量に用意し、さらに高速クロマトグラフ法により純化させた。純化させたポリペプチドをLysine部分で切断し得られた材料につきアミノ酸分析器によりアミノ酸の配列をきめた。2カ所の異なる配列がきまったため既知の物質の検索をおこなった。その結果、感染をうけて臨床的に発症している患者は特異的にマラリア原虫の持つ解糖系酵素エノラーゼに結合する抗体を産生していることが判明した。エノラーゼの活性部分を特定しそこを切り出すため、エノラーゼ分子の立体構造の解析を進め、いくつかの部分を候補とした。(エノラーゼ分子全体を合成することは困難なので、アミノ酸配列として短い活性部分を特定するための方法である)エノラーゼの完成部分を決め、合成する前段階として熱帯熱マラリア原虫スポロゾイト抗原(NANP)3をモデルとして抗原合成の予備実験をすすめた。NOD-SCID-huを使った実験においては人の免疫系をそっくりマウスに移植させ、機能させる実験がすすめられ、一定の成果が得られた。現在感染実験室が完成し次第、熱帯熱マラリア原虫感染実験モデルとして活用する予定である。
結果と考察
(1)マラリア・スポロゾイト抗原(NANP)3 について検討した結果、ポリマー構造の中にとりこませると、NANP単一構造だけで抗原性がでることが判明した。さらにP(proline)を分子の端から分子内部に配置換えさせ、NPNAを合成して新しく出来た分子の左右に簡単な化学構造修飾をあたえると同じ抗原性が保持されることが判明した。この新しい抗原物質は極めて強固であり野外調査に適している。熱帯熱マラリア原虫
エノラーゼについても抗原活性部分が同じ技法で合成できるものと考えている。
(2)エノラーゼの立体構造が想定されたので上記に従ってNANPについて行った化学構造修飾をその抗原活性部分について進めることを検討した。その結果合成可能な配列部分の候補がいくつかクロースアップされた。
(3)流行地において重症マラリアに陥った患者の血清中に病態生理の検討上現在もっとも注目されているNOが有意に上昇していることが見出された。この知見は将来流行地の野外調査で簡単なキットの開発を進める上での基礎的知見のして重要なので、感染ヨザルを使った実験室研究によっても確認することが次に進めるべき実験である。
(4)輸入マラリア症例から三日熱原虫を得て(都立駒込病院と共同する)NOD-SCID-hu マウスに注射し、原虫の増殖がみられるか否かについて観察することを目標に三日熱マラリア原虫を保存した。保存分離株は研究分担者竹内の教室において動物感染実験設備が完成し次第、テストすることになっている。もし、増殖が確認されたなら、現在韓国で問題となっている再興三日熱マラリア原虫をNOD-SCID-hu マウスで増殖させ韓国三日熱マラリアの特性を遺伝分子学の立場から調べる。韓国の三日熱マラリア原虫株はすでに韓国の共同研究者により確保されている。NOD-SCID-hu マウスが三日熱の実験モデルとして使用可能であると、世界に対する貢献は極めて大きい。
(5)piperazineが耐性除去に有用な薬物であることが、予備実験により確認されたのでクロロキン耐性除去薬剤piperazineの実験を行う予定がある。piperazineはかつて駆虫薬として広くつかわれてきたきわめて安全な薬剤である。クロロキン耐性試験の結果耐性の証明された患者に使用し、耐性が除去されるか否かを直接熱帯熱マラリア患者により確認する予定であるが、ヒト造血系移植NOD-SCIDマウスが確立したなら、このモデルを使い、次にヨザルを使用して検討をおこなうべく、25頭のヨザルを用意した。これら全ての検討が済んだ場合には、臨床研究に踏み切る予定である。
結論
本研究班の研究活動は研究目的をめざして着実に実績をあげている。目標達成が近距離にある研究と、なお基礎研究を固めなければならない研究、すなわち、今後の研究の展開をまって結論がでる研究とが本研究班の中には含まれている。目標達成が間近な研究については研究期間内に一定の成果が出るように総力をあげて取り組む必要がある。一方今後の研究の展開によって結果が決定する研究については、最初に計画した目標と異なった結論を得る場合もあるかもしれない。その場合でも、単に学術研究上の成果を残すだけに止めず、何らかの形で本研究課題の目的に関連した貢献ができるよう、代表研究者は指導体制を強化し、研究事業として一定の成果を生むよう工夫する必要がある。

公開日・更新日

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