脊髄障害防止の観点からみた胸部下行・胸腹部大動脈瘤外科治療ないしはステントグラフト治療体系の確立

文献情報

文献番号
201021014A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄障害防止の観点からみた胸部下行・胸腹部大動脈瘤外科治療ないしはステントグラフト治療体系の確立
課題番号
H20-循環器等(生習)・一般-017
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
荻野 均(独立行政法人 国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
研究分担者(所属機関)
  • 松居 喜郎(北海道大学 循環器外科)
  • 久保田 卓(北海道大学 循環器外科)
  • 樋上 哲哉(札幌医科大学 胸部心臓外科)
  • 川原田 修義(札幌医科大学 胸部心臓外科)
  • 岡林 均(岩手医科大学 心臓血管外科)
  • 湊谷 謙司(岩手医科大学 心臓血管外科)
  • 田林 晄一(東北大学 胸部外科)
  • 青見茂之(東京女子医科大学 心臓血管外科)
  • 椎谷 紀彦(浜松医科大学 心臓血管外科)
  • 澤 芳樹(大阪大学 心臓血管外科)
  • 倉谷 徹(大阪大学 心臓血管外科)
  • 大北 裕(神戸大学 呼吸循環器外科)
  • 勝間田 敬弘(大阪医科大学 胸部外科)
  • 末田 泰二郎(広島大学 胸部心臓血管外科)
  • 青柳 成明(久留米大学 心臓血管外科)
  • 明石 英俊(久留米大学 心臓血管外科)
  • 國吉 幸男(琉球大学 心臓血管外科)
  • 山田 直明(独立行政法人 国立循環器病研究センター 放射線科)
  • 吉岡 邦浩(岩手医科大学 放射線科)
  • 兵頭 秀樹(札幌医科大学 放射線科)
  • 大西 佳彦(独立行政法人 国立循環器病研究センター 麻酔科)
  • 松田 均(独立行政法人 国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
  • 佐々木 啓明(独立行政法人 国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
  • 田中 裕史(独立行政法人 国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
  • 伊庭 裕(独立行政法人 国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
13,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胸部下行・胸腹部大動脈手術における脊髄障害はQOLに大きく影響し重要な検討課題である。脊髄の栄養血管として第8胸椎から第1腰椎の範囲の大動脈から分岐し肋間(腰)動脈を経由して脊髄に至るAdamkiewicz動脈(AKA)が存在するが、手術時にその血行再建が必要となる。したがって、術前にMRIやCT により非侵襲的にAKAを同定し脊髄への血流パターンを把握することは、確実なAKAの血行再建を含め手術全体の戦略を立てる上で極めて有用である。本研究の目的は、胸部下行・胸腹部大動脈手術およびステントグラフト治療における脊髄障害の防止対策として、術前のAKA同定実施が有効であるか、同時に脊髄障害や院内死亡に影響を与える因子などを検討することにある。
研究方法
1.対象患者:2000年1月から2010年12月までに胸部下行・胸腹部大動脈手術もしくはステントグラフ ト治療を必要とした患者
2.主要評価項目:退院までの脊髄障害発生割合
3.副次評価項目:AKAの同定方法(MRI/CT)、AKAの部位、AKAの同定可能割合、手術による院内死亡割合、合併症の発生割合、など
4.研究デザイン:多施設共同コホート研究
5.予定症例数:下行大動脈瘤1,100—1,320 例、胸腹部大動脈瘤550—770 例
結果と考察
13施設より予定以上の2,551症例の登録から以下の統計解析結果を得た。
1.51.5%にAKA同定が施行され、うち87.2%でAKA同定が可能であった。
2.97%でAKAは第8胸椎から第1腰椎の間が分岐し、残りは他部位から分岐していた。
3.下行大動脈手術4.9%、胸腹部大動脈手術11.1%、ステントグラフト治療2.9%に脊髄障害を認めた。
4.下行大動脈手術13.1%、胸腹部大動脈手術17.3%、ステントグラフト治療15.4%に入院死亡を認めた。
5.AKA同定実施は胸腹部大動脈手術において脊髄障害の発生を減少させていた。
6.年齢、緊急、術前腎不全、長時間手術、大量出血、術後呼吸不全、術後腎不全が入院死亡の危険因子であった。
7.緊急、広範囲胸腹部瘤、術前腎不全、長時間手術、大量出血、術後呼吸不全、術後腎不全が脊髄障害の危険因子であった。
結論
現段階の解析で、胸腹部大動脈手術においてのみ、AK同定実施が脊髄障害の発生防止に有用であることが判明したが、更に詳細なサブ解析を予定している。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201021014B
報告書区分
総合
研究課題名
脊髄障害防止の観点からみた胸部下行・胸腹部大動脈瘤外科治療ないしはステントグラフト治療体系の確立
課題番号
H20-循環器等(生習)・一般-017
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
荻野 均(独立行政法人 国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
研究分担者(所属機関)
  • 松居 喜郎(北海道大学 循環器外科)
  • 久保田 卓(北海道大学 循環器外科)
  • 樋上 哲哉(札幌医科大学 胸部心臓外科)
  • 川原田 修義(札幌医科大学 胸部心臓外科)
  • 岡林 均(岩手医科大学 心臓血管外科)
  • 湊谷 謙司(岩手医科大学 心臓血管外科)
  • 田林 晄一  (東北大学胸部外科)
  • 青見茂之(東京女子医科大学心臓血管外科)
  • 椎谷紀彦(浜松医科大学 心臓血管外科)
  • 澤 芳樹(大阪大学 心臓血管外科)
  • 倉谷 徹(大阪大学 心臓血管外科)
  • 大北 裕(神戸大学 呼吸循環器外科)
  • 勝間田 敬弘(大阪医科大学 胸部外科)
  • 末田 泰二郎(広島大学 胸部心臓血管外科)
  • 青柳 成明(久留米大学病院 心臓血管外科)
  • 明石 英俊(久留米大学病院 心臓血管外科)
  • 國吉 幸男(琉球大学心臓血管外科)
  • 山田 直明(独立行政法人 国立循環器病研究センター 放射線科)
  • 吉岡 邦浩(岩手医科大学 放射線科)
  • 兵頭 秀樹(札幌医科大学 放射線科)
  • 大西 佳彦(独立行政法人 国立循環器病研究センター麻酔科)
  • 松田 均(独立行政法人 国立循環器病研究センター心臓血管外科)
  • 佐々木 啓明(独立行政法人 国立循環器病研究センター心臓血管外科)
  • 田中 裕史(独立行政法人 国立循環器病研究センター心臓血管外科)
  • 伊庭 裕(独立行政法人 国立循環器病研究センター心臓血管外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胸部下行・胸腹部大動脈手術における脊髄障害は、治療成績やQOLに大きく影響し解決すべき重要な検討課題である。脊髄の栄養血管として第8胸椎から第1腰椎の範囲の大動脈から分岐し肋間(腰)動脈を経由して脊髄に至るAdamkiewicz動脈(AKA)が存在し、手術時の血行再建の必要性が指摘されている。術前にMRIやCT により非侵襲的にAKAを同定し脊髄への血流パターンを把握することは、確実なAKAの血行再建を含め手術全体の戦略を立てる上で極めて有用である。本研究の目的は、胸部下行・胸腹部大動脈手術およびステントグラフト治療における脊髄障害の防止対策として、術前のAKA同定実施が有効であるか、同時に脊髄障害および院内死亡の発生に影響を与える要因、などを検討することにある。
研究方法
1.対象患者:2000年1月から2010年12月までに胸部下行・胸腹部大動脈手術もしくはステントグラフト治療を必要とした患者
2.主要評価項目:退院までの脊髄障害発生割合
3.副次評価項目:AKAの同定方法(MR/CT)、AKAの部位、同定可能割合、手術による入院死亡割合、他の合併症の発生割合、など
4.研究デザイン:多施設共同コホート研究(電子媒体使用)
5.予定症例数:下行大動脈瘤1,100—1,320 例、胸腹部大動脈瘤550—770 例
結果と考察
最終的に13施設より2,551例のデータが得られた。現段階の解析では、CT、MRIなどの非侵襲的検査において、87.2%の症例においてAKA同定が可能であった。AKAは97%の症例において第8胸椎—第1腰椎レベルから分岐していた。脊髄障害を下行置換4.9%、胸腹部置換11.1%、ステントグラフト治療2.9%程度に認め、危険因子は緊急、広範囲胸腹部瘤、術前腎不全、長時間手術、大量出血、術後呼吸不全、術後腎不全であった。入院死亡を下行置換13.1%、胸腹部置換17.3%、ステントグラフト治療全体15.4%に認め、危険因子は年齢、緊急、術前腎不全、長時間手術、大量出血、術後呼吸不全、術後腎不全であった。AKA同定実施の効果に関しては、胸腹部大動脈手術において脊髄障害の発生を減少させており、本検査の有用性が示唆された。
結論
非侵襲的画像検査において9割の症例でAKAが同定でき、脊髄障害を防止する上で有用かつ信頼性の高い術前検査と考える。ただ現段階の解析では、胸腹部大動脈手術においてのみ、AKA同定実施が脊髄障害の発生防止に有用であることが判明しており、今後更に詳細なサブ解析を行い、その効果を検証する予定である。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201021014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
胸部下行・胸腹部大動脈手術および同ステントグラフト治療において、術前のMRIやCTによる脊髄栄養動脈(Adamkiewicz動脈、AKA)の同定、およびその同定実施の脊髄障害に対する防止効果を検討するため、全国主要13施設により共同研究を行った。まず、多施設から詳細なデータを収集するため、初めての試みでメールを介した登録システムを構築した。一部で不具合に発生し登録に障害を来すこともあったが、研究期間の後半は円滑な症例登録が可能であった。最終的に、予定を超える2,551例の詳細なデータが得られた。
臨床的観点からの成果
87.2%の症例において径1mm以下のAKAの同定が可能であり、MRIやCTなど最近の非侵襲的画像診断の有用性が証明された。術中脊髄障害を2.9%〜11.1%の範囲に認め、その危険因子は緊急、広範囲胸腹部瘤、術前腎不全、長時間手術、大量出血、術後呼吸不全、術後腎不全であった。また、術前のAKA同定実施の有無により、胸腹部大動脈置換術において、脊髄障害の発生頻度に差を認めており、術前検査としての有用性が示唆された。
ガイドライン等の開発
非侵襲的画像診断によりほぼ9割の症例でAKAの同定が可能であり、胸部下行・胸腹部大動脈手術および同ステントグラフト治療において、重要な脊髄障害防止のため術前AKA同定がルーチン検査に組み込まれる必要がある。ただ、本研究の現段階での解析結果においては、胸腹部大動脈手術以外、この同定実施が実際の脊髄障害の発生防止に有意につながっておらず、ガイドラインへの提言をめざし更なる詳細な統計解析を予定している。
その他行政的観点からの成果
無し。
その他のインパクト
現段階での解析結果では、胸腹部大動脈手術以外で、AKA同定実施が実際の脊髄障害の減少に直接結びついていないが、①Historical controlによる比較である、②主要施設においてはAKA同定施行前より脊髄障害の発生が少ない、③経験の蓄積と共によりハイリスク症例の治療を施行している、なども影響したと考える。今後、副次的項目を詳細に解析し、本AKA同定実施の有用性を明らかにしたい。

発表件数

原著論文(和文)
20件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
31件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
62件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-10-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201021014Z