循環器リスクと耐糖能障害の効率的な健診マーカーの探索

文献情報

文献番号
201021006A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器リスクと耐糖能障害の効率的な健診マーカーの探索
課題番号
H20-循環器等(生習)・一般-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
武田 純(岐阜大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 永田知里(岐阜大学 大学院医学系研究科 )
  • 山本眞由美(岐阜大学 保健管理センター)
  • 堀川幸男(岐阜大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
10,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦の耐糖能異常は60% が非肥満であり、肥満の有無を問わず、インスリン初期分泌障害が主病変であった。また境界型の段階から軽度のインスリン抵抗性が加わって疾病が発症する図式が確認された。一方、脂質異常に関しては、高LDLはインスリン分泌不全と抵抗性のいずれにも関連しないが、高TGはインスリン抵抗性とのみ有意に関連した。従って、インスリン抵抗性に関する生活改善は脂質の改善にも繋がるので、生活指導は糖尿病と心血管イベント予防の双方に重要であり、その効率性の評価マーカーの探索が必要である。
研究方法
耐糖能異常の初期対象者に対して生活習慣に関する自記式質問票調査を行い、発症に関する生活要因、生活指導の効率性、疾病への認識、QOLへの影響について、代謝異常との関連解析を定量的に実施した。当該年度は、糖尿病に対するイメージ形成に影響する素因、病態が及ぼすQOLへの影響、嗜好品や特定保健食品への依存などと病型との関連解析や関連マーカー探索を行った。生理活性マーカーについては、膵島トランスクリプトームから得られた新規液性因子も候補として検討した。
結果と考察
QOLスコアは、耐糖能異常の指摘群はそうでない群に比して有意に低く、男女別でみると、女性のみに有意差が見られた。項目別では、糖尿病群、肥満群、高血圧群では身体的領域と全体項目でスコアが有意に低く、高血圧群では社会的領域でも有意差を認めたが、心理的領域、環境領域ではどの群でも有意差を認めなかった。喫煙習慣については、糖尿病進行やインスリン分泌低下に有意に関連した一方で、コーヒーには非カフェイン機序の予防的効果が認められた。また、特定保健食品は各々の表現型に依存する傾向がみられ、これらの情報は指導時の留意点となる。また、新規の32kDa分子の血中レベルは耐糖能変化に有意に関連したので、新しい健診マーカーの可能性が示唆された。
結論
生活習慣の定量的把握は、生活習慣病の各病型や検査所見との関連解析を可能とする。従って、本アプローチは疾病の発症リスクマーカーや指導効果の評価マーカーの開発に繋がり、その結果、個々の病態や生活環境を考慮したテイラーメイド指導が可能となる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201021006B
報告書区分
総合
研究課題名
循環器リスクと耐糖能障害の効率的な健診マーカーの探索
課題番号
H20-循環器等(生習)・一般-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
武田 純(岐阜大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 堀川 幸男(岐阜大学 医学部附属病院)
  • 山本 眞由美(岐阜大学 保健管理センター)
  • 永田 知里(岐阜大学 大学院医学系研究科)
  • 鈴木 英司(岐阜県総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2型糖尿病は軽症や予備軍であっても、心血管イベントの重要リスクである。しかし、効率的な予防を行なうには、病態とリンクした健診項目の設定と個々の体質や生活習慣に配慮した保健指導が望まれる。本研究では、糖尿病調査によって糖尿病型、境界型、正常型の3群を設定し、種々の生化学検査を実施してフォローアップ解析を行なう。同時に、生活習慣が評価できるアンケート調査を行い、病態や検査所見との関連を解析することによって、健診感度を上昇させる効率的マーカーや病態に則した療養指導マーカーの開発を目指す。
研究方法
岐阜市において、40歳以上の約1,000人を対象として75gOGTTを実施して病型分類を行うと共に、肥満度やインスリン分泌能・感受性の評価を行った。更に、半定量的に生活習慣が評価できる36ページの自記式質問票調査を作成したので、同時に、病識、病態、生化学検査、QOL、生活指向との関連を解析した。また、膵島トランスクリプトーム研究から提供された液性因子についても検討し、血中レベルと関連する生活や健診項目の探索を行った。
結果と考察
糖尿病実態調査の結果、耐糖能異常は60% が非肥満であり、肥満の有無を問わず、体質的にインスリン初期分泌が低下していた。早期に検出する有効基準を模索した結果、HbA1c 5.5%以上が妥当な基準であった。一方、心血管イベントリスクである脂質異常に関しては、高LDLはインスリン分泌不全と抵抗性のいずれにも有意の関連を示さなかったが、高TGはインスリン抵抗性と関連したので、生活習慣の改善が予防的に重要と考えられた。生活因子の解析では、喫煙者は自身の糖尿病リスクのみならず、受動喫煙の配偶者においてもIGTリスクを有意に増大させ、背景因子としてインスリン分泌能の低下が考えられた。また、コーヒーには非カフェイン機序により糖尿病の抑制効果があることも判明した。特別保健食品には、病態に依る依存的な嗜好が認められたので、生活指導の際に考慮を要する。疾病に対するイメージや病識、病態がQOLに及ぼす影響に関しても、種々の要因が介在することが示された。
結論
生活習慣調査による半定量的な把握は、検査値などとの関連解析を可能にする。従って、有効な健診や指導の評価マーカーが開発されるので、個々の病態や生活環境に応じたテーラーメイド的な健診や療養指導が可能になる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201021006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本人の耐糖能異常は非肥満が60%であることに加えてインスリン初期分泌が体質的に低下しており、インスリン抵抗性は主たる因子ではなかった。また、肥満群でも代償性の高インスリンはいずれの病型でも見られなかった。ただし、早期から抵抗性は高TGに有意に関連したので、生活指導の重要性が確認された。膵島トランスクリプトームで見出された32kDa分子の血中濃度はインスリン分泌、耐糖能、肥満度と関連したので、新たな健診マーカーとなる可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
インスリン初期分泌の障害は食後高血糖に直結するので、初期の生活指導や薬物選択において重要情報を提供する。また、いわゆる「かくれ糖尿病」の早期検出にはHbA1cの併用が有効であることが示された。さらに、日本人の耐糖能異常に多い高TG血症には早期からの生活指導が重要であることが明らかとなったが、質問表解析から得られたQOLや病識に関する知見や嗜好品などと耐糖能との関連情報は効率的な生活療養指導に繋がると期待される。
ガイドライン等の開発
軽症であっても耐糖能異常は重要な心血管イベントリスクであり、関与するとされる食後血糖の上昇はインスリン初期分泌の障害に大きく起因する。従って、空腹時血糖値ではなく、HbA1cを重視した健診ガイドラインの作成が重要である。また、健診の事後指導において、生活指導の優先事項や留意点を考慮するマニュアル作成によって効率性を向上させることが必要と考えられた。
その他行政的観点からの成果
特定健診では、腹部周囲径を主体としたスクリーニングが実施されているが、本調査では腹部周囲径は耐糖能異常の分類基準にならないと結論され、内蔵脂肪面積100cm2とも一致しなかった。また、インスリン抵抗性も欧米のような比重を占めなかった。空腹時血糖値も重要項目であるが、早期検出には適さないことも判明した。境界型を含めると心血管イベントの3/4に耐糖能異常が見られるので、本調査は非効率な特定健診の基準を見直す時期にあると提言する。
その他のインパクト
調査結果を踏まえて、岐阜県での糖尿病予防対策事業として、肥満の有無を問わず、一次健診で見出されたHbA1c 5.6%以上には75gOGTTによる精査を推奨する体制を確立した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Y. Horikawa, M. Enya, K. Iizuka, et al.
Synergistic effect of α-glucosidase inhibitors and dipeptidyl peptidase 4 inhibitor treatment.
J. Diabetes Invest. , 2 (3) , 200-203  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-10-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201021006Z