ハンセン病における宿主防御機構の解明とその治療・予防応用

文献情報

文献番号
199700782A
報告書区分
総括
研究課題名
ハンセン病における宿主防御機構の解明とその治療・予防応用
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小林 和夫(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 福富康夫(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 與儀ヤス子(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 儀同政一(国立感染症研究所ハンセン病研究センター)
  • 山本三郎(国立感染症研究所村山分室)
  • 矢島幹久(国立療養所多磨全生園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ハンセン病制圧の世界戦略(WHO)は活動性患者の早期発見と化学療法薬による多剤併用療法が中心であるが、今日においても多くの活動性患者(約57万人/年、1996年)が発生している。らい菌感染に対する宿主防御や病変形成は、菌側および宿主側の両因子が複雑に関与する宿主・寄生体関係を介して成立し、らい菌と宿主の生存戦争を反映している。ハンセン病は皮膚および末梢神経を主病変部位とする慢性らい菌感染症であるが、ハンセン病発症はらい菌感染者の約0.2%である。その発症制御機構を解明することは、ハンセン病の治療や予防に貢献することが期待される。
本研究ではハンセン病の発症予防、治療法および制圧について、宿主感染抵抗性/感受性の発現機構を宿主遺伝子、細胞や生理活性物質動態などの解析から明らかにする。さらに、ハンセン病の新治療戦略として、新規抗菌化学療法薬やサイトカインによる免疫強化療法およびそれらの併用療法を開発し、難治性ハンセン病の制圧を試みる。また、ハンセン病に有効なワクチンはないが、安全で有効なワクチン開発の基礎として、成分(DNA)ワクチンの作用機序を検討する。
研究方法
実験的らい菌感染マウスモデルを用いて、抵抗性Nramp1遺伝子、感染部位における細胞集積反応(病理形態学)、病変制御性や感染防御性サイトカイン応答(酵素抗体法や遺伝子増幅法)、マクロファ-ジ殺菌能(Shepard法やBuddemeyer法)などを解析した。らい菌感染感受性および抵抗性マウスにおけるサイトカイン発現型を比較解析することにより、病変制御性ならびに感染防御性サイトカインを同定し、加えて、防御性サイトカイン生体内投与(サイトカイン免疫療法)を施行し、抗菌効果を評価した。さらに、サイトカイン免疫療法と抗菌化学療法を併用し、新規抗らい菌療法の開発を試みた。また、遺伝子工学の手法を用いて、細胞性免疫発現を助長する安全かつ有効な成分(DNA)ワクチン開発の可能性に着手した。
結果と考察
本研究結果から、マウスの宿主遺伝子がらい菌増殖や病変形成の制御に関与していること、さらに、宿主のらい菌感染部位にはマクロファ-ジを中心とした細胞浸潤が病理形態学的に認められ、内因性感染防御機序としてマクロ-ファ-ジ-サイトカイン-T細胞連関(細胞性免疫)やマクロファ-ジ由来効果分子が重要な役割を演じていることが判明した。
病変制御性サイトカインとして、炎症性サイトカイン(インタ-ロイキン 1:IL-1や腫瘍壊死因子-aなど)や細胞走化性サイトカイン(単球走化性ケモカイン)が関与していた。また、感染防御性サイトカインかつ細胞性免疫の起動物質であるIL-12やIL-18発現がらい菌感染感受性マウスで低下していた。その結果、感受性マウスは細胞性免疫不全を呈していることが明らかとなった。感受性マウスにおける宿主防御を増強する目的で、実験的マウスらい菌感染モデルを用いて、サイトカイン(IL-12)補充療法を開発した。サイトカイン補充療法は宿主防御機構を活性化させ、抗菌効果を発現することが判明した。
また、抗菌化学療法薬として、新規ニュ-キノロン薬(AM-1155やDU-6859a)やマクロライド薬(クラリスロマイシン)の抗らい菌効果を検索したところ、これらの薬剤はいずれも優れた抗らい菌活性を示し、臨床応用の可能性を提示した。さらに、サイトカイン免疫療法と抗菌化学療法を併用し、相乗的で強力な抗らい菌療法を開発した。らい菌感染防御が細胞性免疫発現に依存していることから、細胞性免疫発現で鍵となるインタ-フェロン-gを示標として新規抗ハンセン病ワクチン候補を検索したところ、繰り返し塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが細胞性免疫を特異的に誘導することが判明した。宿主の抗酸菌感染防御は細胞性免疫発現に依存していることから、成分ワクチン投与により誘導された細胞性免疫は抗酸菌感染防御に貢献することが期待される。
従来の抗菌化学療法は抗酸菌自身を標的にしていたが、この方法では薬剤耐性抗酸菌の出現や疾病の伝播が不可避であった。他方、宿主防御/抵抗性を増強させる戦略(免疫強化法)は抗酸菌感染症の治療や予防に新思考を提供している。免疫強化療法への戦略転換は抗酸菌のみならず、種々の微生物感染症にも貢献するであろうし、また、免疫強化療法と抗菌化学療法の併用療法も感染症制圧における新たな武器となるであろう。新規抗ハンセン病ワクチン開発を指向し、成分ワクチン開発にも着手した。繰り返し塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが細胞性免疫を特異的に誘導し、生菌や複雑な菌成分とは異なり、安全かつ有効な抗酸菌感染症のワクチン開発に重要な糸口を提供することができた。
宿主防御機構の理解は免疫強化療法や併用療法(免疫強化療法および化学療法)などの新規抗ハンセン病療法の開発のみならず、感染抵抗性を効率的に発現するシステム(ワクチンなど)の開発も促進する。従って、これらの研究成果は難治性抗酸菌感染症の制圧に貢献することが期待される。
結論
マウスにおけるらい菌感染防御機序において遺伝子、マクロ-ファ-ジ-サイトカイン-T細胞連関系(細胞性免疫)やマクロファ-ジ由来効果分子が重要な役割を演じていることが判明した。宿主防御機構を増強させる戦略(免疫強化法)は抗酸菌感染症の治療や予防に新思考を提供している。また、免疫強化療法と抗菌化学療法の併用療法も感染症制圧における新たな武器となるであろう。新規抗ハンセン病ワクチン開発において、安全な成分ワクチン開発に重要な糸口を提供することができた。

公開日・更新日

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