水道水を介して感染するクリプトスポリジウム及び類似の原虫性疾患の監視と制御に関する研究

文献情報

文献番号
199700780A
報告書区分
総括
研究課題名
水道水を介して感染するクリプトスポリジウム及び類似の原虫性疾患の監視と制御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
国包 章一(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 眞柄泰基(北海道大学)
  • 荒木国興(国立公衆衛生院)
  • 西尾治(国立公衆衛生院)
  • 山崎省二(国立公衆衛生院)
  • 金子光美(摂南大学)
  • 平田強(麻布大学)
  • 井関基弘(大阪市立大学)
  • 黒木俊郎(神奈川県衛生研究所)
  • 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
クリプトスポリジウム等の原虫による水系汚染が世界的な問題となっている中で、原虫の迅速で的確な検査法が確立されていないため、水道システムにおける検査や制御に困難を来している現状にある。本研究においては、現在用いられている膜ろ過-アセトン法に替わるオーシストの迅速で高い回収率をもった分離・濃縮法の開発、蛍光抗体法に替わる検査法の開発等、クリプトスポリジウム等の原虫検査法の開発・改良を行う。また、水系及び人を含む宿主動物における汚染状況を調査して実態を正確に把握するとともに、水道水の常時管理を可能とするために、クリプトスポリジウム等の代替指標を開発し、モニタリングシステムの構築を目指す。
研究方法
検査法の開発に関して、1)実験動物モデルを開発した。2)連続遠心濃縮用ローターを試作し、クリプトスポリジウムオーシストの回収実験を行った。3)市販のカートリッジフィルターのろ過性能とオーシストの濃縮・回収能力を評価した。4)免疫磁気ビーズ法を用い、オーシスト添加試料水からのオーシスト精製・回収実験を行った。5)各種分離・濃縮方法によるクリプトスポリジウム等の検出数の比較を行った。6)直接蛍光抗体法用試薬を開発し、クリプトスポリジウム各種のオーシストとの反応性、他の原虫類との交差反応の有無、オーシスト添加試料水における検出率について検討した。7)蛍光抗体法によって染色したクリプトスポリジウムのオーシストをフローサイトメーターで検出した。8)PCR法がクリプトスポリジウムの検出に適用できるかどうかを検討した。
汚染状況の調査及びモニタリングシステムの開発に関して、1)各種動物における感染状況の調査を行った。2)クリプトスポリジウム等に関する全国調査データの統計的な解析を行った。3)相模川水系におけるクリプトスポリジウムオーシスト及びジアルジアシストの濃度調査を行うとともに、代替指標に関する検討を行った。
結果と考察
検査法の開発に関して、1)無菌ヌードマウスがクリプトスポリジウムの実験動物モデルとなることを確認した。2)試作した連続遠心濃縮用ローター(内容積80mL、最大半径5.8cm)を10000、13000及び15000rpmの回転数で運転してオーシストの回収実験を行ったところ、回収率は最大で81%となり、概ね良好であった。しかし、回転数を15000rpmに高めた場合に、回収率が低下しており、さらに検討が必要である。3)クリプトスポリジウム濃縮用カートリッジフィルターのろ過能力は高く、水道水レベルの低濁度水であれば500~1000Lをろ過できるものと評価された。しかし、オーシスト添加水道水と相模川河川水(オーシスト添加なし)でのオーシスト回収実験では、回収率が極めて低く、フィルターからのオーシスト剥離を促すために超音波処理を行っても改善効果はなかった。新たな回収方法を模索するか、膜の性状を変えた新たなフィルターの開発が必要である。4)免疫磁気ビーズ法によるオーシスト回収実験では、オーシスト添加精製水の場合、良好な回収率が得られた。一方、オーシスト添加河川水等の場合、試料水中の濁質増加に伴い、オーシスト回収率が低下する傾向が見られ、また、必ずしも回収率が安定しているとはいえない実験例が散見されたが、濃縮試料を超音波処理することで、オーシストの回収率は著しく改善された。各検査機関において免疫磁気ビーズ法について基礎的な検討を行い、本法の特性をよく理解した上で採用するならば、暫定指針に記載された検査法から著しく逸脱するものではないと判断される。5)各種分離・濃縮方法の比較検討を行ったところ、メンブランフィルターアセトン溶解法-Percoll・ショ糖浮遊法で得られた検出数が最も高かった。免疫磁気ビーズ法を用いた試験方法ではあまりよい結果は得られなかった。アセトン溶解-ショ糖浮遊法とカセットフィルター-ショ糖浮遊法を比較すると、ジアルジアシストではほぼ同じ結果が得られたが、クリプトスポリジウムオーシストではカセットフィルター-ショ糖浮遊法での検出数が少ない傾向にあった。6)開発した直接蛍光抗体法用試薬を用い、水道水等、夾雑物の少ない水にオーシストを添加して、メンブランフィルター上で染色した場合の染色性や検出率は、間接蛍光抗体法と同等であった。しかし、河川水や底泥、下水等、夾雑物が多い試料の場合には、オーシストの蛍光強度が弱くなり、検出率は間接蛍光抗体法に比較して低下した。開発した試薬には、検出手技の簡素化、操作時間の短縮、低価格化、安定供給といった利点があるが、さらに改良を加え、夾雑物の多い試料からの検出も容易にすることが望まれる。7)フローサイトメーターによって河川水中のクリプトスポリジウムオーシストが検出できることを確認した。しかし、河川水に含まれる粒子の中には、蛍光染色されるものが少数あり、クリプトスポリジウムオーシストとの区別が困難であった。検査法としてフローサイトメーターを導入するには、蛍光染色法の改良が必須と考えられる。8)PCR法により、クリプトスポリジウムの検出が可能であることがわかった。しかし、今回の方法は検出感度が低く、実用化に向け、DNA抽出法を簡略化するとともに、検出感度を高める必要がある。
汚染状況の調査及びモニタリングシステムの開発に関しては、1)各種動物における感染状況調査の結果、野生ザル27頭及びカモシカ11頭の便からはクリプトスポリジウムのオーシストが検出されなかった。成牛では、ホルスタイン種55頭中の7頭(12.7%)及び和牛19頭中の4頭(21.1%)の便からC.muris のオーシストが検出された。仔牛では、ホルスタイン種6頭中の2頭(33.3%)及びF1種の1頭の便からC.parvum のオーシストが検出された。2)クリプトスポリジウム等全国調査データを解析したところ、クリプトスポリジウム等の検出率は、河川表流水で高くなる傾向があるとともに、上流域で畜産排水の流入がある地点で高くなる傾向があった。また、クリプトスポリジウム等の検出数と他の水質項目との間に明確な相関関係は認められなかったが、クリプトスポリジウム等が検出された地点では、調査した濁度、一般細菌等、9水質項目の幾何平均値がすべて不検出地点のそれを上回っていた。3)相模川水系における汚染実態調査の結果では、クリプトスポリジウムオーシストの濃度は1~11000個/100L、ジアルジアシストの濃度は1~80000個/100Lの範囲にあった。検出されたオーシスト及びシストのうち、オーシストで平均24%、シストで平均21%が生育活性を有するものとされた。大腸菌、大腸菌群、一般細菌、好気性芽胞、ウェルシュ菌芽胞を同時に調査し、クリプトスポリジウム及びジアルジアとの相関分析を行ったところ、ウェルシュ菌芽胞が原虫汚染の指標として有効であることが示唆された。
結論
クリプトスポリジウム等の検査法の開発・改良を行うとともに、汚染状況の調査を実施した。検査法の開発では、実験動物モデルの開発、連続遠心濃縮用ローターの開発、カートリッジフィルターや免疫磁気ビーズ法による濃縮・回収、直接蛍光抗体法用試薬の開発、フローサイトメーターによる検出及びPCR法による検出について検討し、カートリッジフィルターによる濃縮以外はほぼ満足できる成果を得た。また、各種分離・濃縮法を組合せて検出数を比較したところ、メンブランフィルターアセトン溶解法-Percoll・ショ糖浮遊法の組合せで得た数値が最も高かった。一方、汚染状況の調査では、各種動物の感染状況の調査、クリプトスポリジウム等全国調査データの解析及び相模川水系における汚染実態調査を行い、動物の汚染状況を確認したほか、クリプトスポリジウム等の検出と畜産排水との関係やウェルシュ菌が代替指標となる可能性等を示唆する結果を得た。

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