加熱式たばこの化学的特性と健康リスクに関する科学的エビデンス構築に係る研究

文献情報

文献番号
202506046A
報告書区分
総括
研究課題名
加熱式たばこの化学的特性と健康リスクに関する科学的エビデンス構築に係る研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
25CA2046
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
牛山 明(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 大森 久光(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 大和 浩(産業医科大学 産業生態科学研究所・健康開発科学研究室)
  • 東 賢一(近畿大学 医学部 予防医学・行動科学教室)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所データサイエンス研究部)
  • 竹原 健二(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部)
  • 森崎 菜穂(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 社会医学研究部)
  • 桑原 政成(自治医科大学 地域医療学センター公衆衛生学 兼 循環器内科学)
  • 堀 愛(筑波大学 医学医療系)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 田野 ルミ(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 鵜飼 友彦(結核研究所 入国前結核スクリーニング精度管理センター)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和7(2025)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加熱式たばこは、我が国では2013年に初めて発売されたたばこ製品であり、世界的に急速に普及してきている。特に、日本では、国民健康・栄養調査では、喫煙者のうち加熱式たばこを使用している割合は、令和4年には男性30.1%、女性34.4%、令和5年には男性38.5%、女性42.3%、令和6年には男性41.4%、女性44.1%と、年々増加傾向であり、加熱式たばこの知見整理が喫緊の課題である。
 しかし、加熱式たばこの健康影響や化学的特性、使用実態に関する知見は紙巻たばこと比較して限定的である。厚生労働科学研究においては加熱式たばこに関連する研究を継続しており、その成分が一定程度明らかとなってきた。また、喫煙者の家族で尿中ニコチン代謝産物が計測され、受動喫煙を示唆する根拠が明らかとなってきた。さらに加熱式たばこ専用喫煙室の空気質についても評価を進めている。だがこうしたエビデンスについては、断片的であり、各研究の方法論や指標が異なるため、体系的に整理されていない現状がある。そのため、疫学、公衆衛生学、衛生学等の各分野の専門家により、加熱式たばこの知見を統合的に整理し、政策判断に活用可能な形で資料を作成・提示することを目的とした。
研究方法
加熱式たばこに関連した文献を、文献データベースを使用し、検索式を用いて抽出した。期間は、2010年以降2025年12月22日までと設定した。抽出された文献は、英文1132報、邦文58報であった。アウトカム毎に論文を2段階で抽出し対象論文を精査した。アウトカム毎に加熱式たばこの能動喫煙、受動喫煙それぞれで、加熱式たばこと健康アウトカムとの関連性を証拠の確からしさを判定した。関連性は【強い・やや強い・やや弱い・弱い】の4段階、証拠の確からしさは【高い・やや高い・やや低い・低い】のそれぞれ4段階で、判定を行った。また、証拠がないもの、論文が1報しかないものは「判断できない」とした。本抽出においては、プロトコル論文(結果が入っていないもの)、学会や団体などの声明(オピニオン)論文、コメンタリー論文、レビュー論文は、除外する方針とした。
結果と考察
国内の加熱式たばこ使用は令和6年国民健康・栄養調査で喫煙者の40%超に達し若年層で特に高い。禁煙補助としての有効性を示す質の高い証拠はなく、禁煙妨害や元喫煙者の再喫煙誘発リスクが国内外で一貫して示されている。
 主流煙・副流煙の分析によれば、エアロゾル中の有害物質濃度は紙巻たばこより低いものが多いが、フルフラール等は高濃度である。また、たばこ産業の「90%以上削減」主張は、研究用標準紙巻たばことの比較に基づくものであり、実際の喫煙者の尿中曝露バイオマーカーでは約半減にとどまるという実態であった。
 1日10〜40本を喫煙する想定の初期リスク評価では、ニコチン、フルフラール、アクロレインによる気道影響、NNK・ベンゾ[a]ピレン・NNNによる肺がん・上気道腫瘍リスクが懸念レベルと判定された。
既存文献の評価では、能動喫煙において、循環器疾患とニコチン依存に「強い関連性・やや高い確からしさ」、呼吸器疾患(喘息)、妊娠・周産期合併症、脂質糖代謝異常、メンタルヘルスにも関連が示されたが、がん発症をエンドポイントとした疫学研究は存在せず現時点で判定できない。
受動喫煙では非喫煙家族の曝露バイオマーカーの上昇が確認され、副流煙NNK量は少ないものの家族近接使用により紙巻同等の曝露が生じうる。
動物・細胞実験では研究の資金源により結果が乖離し、産業資金研究は一貫して有害性の大幅低減を報告しているが、独立資金研究では加熱式たばこの有害性に関する報告が多く報告されている。
政策面ではハームリダクションを支持する科学的証拠は現時点で不十分であることは明らかになった。
結論
加熱式たばこは能動喫煙による循環器疾患やニコチン依存をはじめ、多様な健康アウトカムとの関連性が認められた。加熱式たばこにおいては、煙中の化学物質および喫煙者の尿から検出される一部の有害物質は紙巻たばこより低減されるものの、依然としてヒトの健康リスクは懸念されるレベルにとどまっており、曝露低減が十分なされていることを示す科学的根拠は得られていない。
 発がん性については、がんの発症をエンドポイントとした疫学研究が存在しないため、現時点では判定できないが、リスクの可能性を示唆する知見やリスクが懸念される知見も得られており、今後の長期的な疫学研究に基づく知見の蓄積が不可欠である。
 受動喫煙については、発がん物質の体内取り込み量が紙巻たばこの受動喫煙と同程度となる場合があることは、公衆衛生上きわめて重要な知見といえる。
 実験研究での結果では、多くの研究でたばこ産業資金研究と独立資金研究の間の結論の乖離があり、エビデンスに基づく政策判断を実施する際には十分に配慮が必要である。

公開日・更新日

公開日
2026-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-05-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202506046C

収支報告書

文献番号
202506046Z