文献情報
文献番号
202506019A
報告書区分
総括
研究課題名
日本における臨床試験に係る制度の検討のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
25CA2019
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
楠岡 英雄(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)
研究分担者(所属機関)
- 池田 浩治(国立大学法人東北大学 病院臨床研究推進センター)
- 谷城 博幸(国立大学法人長崎大学 長崎大学病院 臨床研究センター)
- 井上 悠輔(東京大学 医科学研究所)
- 田代 志門(東北大学 大学院文学研究科)
- 成川 衛(学校法人北里研究所 北里大学 薬学部臨床医学(医薬開発学))
- 中村 健一(国立がん研究センター中央病院 国際開発部門)
- 渡邉 裕司(浜松医科大学 医学部臨床薬理学)
- 佐々木 真理(岩手医科大学)
- 滝沢 牧子(埼玉医科大学 総合医療センター 医療安全管理学)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和7(2025)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,370,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
臨床試験の規制を含む臨床研究基盤について欧米と比較・分析するとともに、臨床研究中核病院(臨中)、国立高度専門医療研究センター(NC)、認定臨床研究審査委員会(CRB)等を対象とした実態調査を行い、日本の臨床研究体制の課題を検討した。
研究方法
現在の臨床試験の規制に関しては、欧米における規制に関する網羅的な調査を行い、日本との比較検討を行った。対象地域としては、米国、英国、欧州(EU)の3地域とし、医薬品と医療機器のそれぞれについて調査した。臨中の評価の検討として、厚生科学審議会臨床研究部会で議論されている臨床研究の拠点の役割や機能に関する内容を踏まえ、研究実績や国際競争力の向上を考慮した創薬・医療機器の実用化への貢献度等について16の臨中病院へのアンケート調査をした。また、特定領域に係る臨中病院の承認要件見直しに向けて、NC5機関に研究体制・実績等にかかるアンケート調査を行った。認定臨床研究審査委員会の実態調査は認定臨床研究審査委員会事務局を対象にアンケート調査を行った。
結果と考察
欧米における医薬品等の臨床試験規制の比較からは日本の制度が抱える課題と今後の方向性が明らかになった。特に指摘されたのは日本の制度が「承認申請目的か否か」という試験目的を中心に規制体系を構築しているのに対し、欧米では被験者リスクや介入の程度に応じた「リスク比例的(risk proportionate)」な運用が重視されている点である。日本では承認申請目的を中心とした制度分立により研究現場に複雑性と負担が生じている一方、欧米では被験者リスクに応じた「リスク比例的」な運用や制度横断的な統合が進められていることが明らかとなった。倫理審査委員会や被験者保護に関する議論では、日本の制度の分立構造が課題として挙げられた。再生医療法や臨床研究法では一括審査が義務化されている一方、GCP省令や生命・医学系指針では任意であり、制度間の整合性が十分ではない。また、欧米では同一のIRB・RECが複数規制に対応できるのに対し、日本では制度ごとに別委員会が必要とされ、人的・運営的資源の分散と非効率を招いている。臨中・NCはいずれも高い研究実施能力を有するものの、研究成果の実用化、FIH試験等には施設間偏在が認められ、役割分担型ネットワーク構築の必要性が示唆された。さらに、CRB・ARO部門では高度専門人材不足や制度分立による業務負担が課題であり、Single IRB、デジタル基盤、研究支援体制の統合化が求められるとともに、専門人材育成と安定的雇用が不可欠であることが示された。また、臨中とNCの役割の違いが示された。大学病院を中心とする臨中は、多診療科・大規模病床を背景に、多様なシーズや患者を集積し、幅広い領域の医師主導治験やARO支援を担う「水平的ネットワーク支援」に強みを持つ。一方、NCは特定疾患領域に特化し、専門性を活かしたリアルワールドデータ研究、ガイドライン作成、全国レジストリ運営などを通じて、「垂直的・専門的エビデンス創出」に強みを有していることが示唆された。CRB・ARO部門における人員不足や制度分立は治験・臨床試験の運営負担を増幅し、現場に「負のスパイラル」を生じさせている可能性が示された。今後は、研究資金の充実に加え、複数法令下での委員会運用、事務手続、様式、窓口等の共通化・整合化を進め、業務効率化を図る必要がある。
結論
日本の臨床試験制度は承認申請を中心とした縦割り構造や制度分立により現場負担や非効率性を生じている一方、欧米ではリスク比例的な運用と制度横断的な統合が進められていることが明らかとなった。今後、日本においては被験者保護と研究の質を維持しつつ、リスクベースの柔軟な制度設計、倫理審査体制の統合・質保証、デジタル基盤整備、さらには医療機器・再生医療等の特性を踏まえた実践的なエコシステム構築を進めることが国際整合性と研究競争力の向上につながる重要な課題である。規制、倫理審査、研究支援体制などほぼ全ての論点で、「一律規制からリスクに応じた柔軟運用へ」という方向性が共通している。これは単なる運用改善ではなく、日本の制度思想そのものの転換を求めていると考えられる。人材問題も中心課題であり、人材不足、キャリアパス不在、専門人材の不安定雇用が指摘されているが、これは単独の問題ではなく、ほぼ全ての問題の基盤にある。したがって「研究基盤整備とは、施設整備ではなく専門人材基盤整備である」という視点が重要と考えられる。臨中とNCについては「競争」ではなく「機能分担・ネットワーク化」が重要である。これらは日本の限られた研究資源をどう活用するかという国家戦略に直結するものである。特に、全施設一律整備ではなく、「強みを持つ拠点の連携によるネットワーク型研究体制」という方向性は重要と思われる
公開日・更新日
公開日
2026-05-28
更新日
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