パンデミー・間 パンデミーインフルエンザのサーベイランスに関する調査研究

文献情報

文献番号
199700775A
報告書区分
総括
研究課題名
パンデミー・間 パンデミーインフルエンザのサーベイランスに関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
根路銘 国昭(国立感染症衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 杉田繁夫(JRA総研)
  • 大月邦夫(群馬県衛生環境研究所)
  • 大島武子(国立療養所宮城病院)
  • 富樫武弘(札幌市立札幌病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型ウイルス登場による被害は地球規模で多くの死者を出してきた。このことから、新型ウイルスについての、動物及びヒトの領域で探索活動と免疫学的、進化学的解析を基礎にした流行予知システムを確立することは、ワクチン政策によるパンデミー及び間パンデミーウイルスによる被害を極少化する。本研究は、動物とヒトにおける血清学的サーベイランスキットの作製、新型ウイルスの免疫学的、遺伝学的及び進化学的解析、ウイルス進化機構の解明、インフルエンザ危害の実態調査、グローバルなインフルエンザのサーベイランス活動実施を通じて、パンデミーウイルスの流行予測とワクチンを中心に据えた制圧戦略を策定することである。
研究方法
(1)日本の各県及び外国の観測センターに分析用キットを配布、ウイルスの抗原型と変異のレベルを一次スクリーニングし、その分離情報を日本インフルエンザセンターである当研究室にファックス及びe-mailで送る体制を敷いた。次に、観測センターから供給された変異ウイルスを当研究室において、詳細な同定と分子進化学的分析を行い、流行ウイルスの予測とワクチン株を探索した。(2)ブタのH1、アジア型のH2、トリのH1、H4、H5、H7ウイルスに対する検査用キットを作製し、日本と中国の観測基地に供給した。さらに、H5N1ウイルスに対する観測活動を強化するため、H5ウイルスに対する高度免疫血清と検査抗原を作製して、日本と中国の観測基地に配布した。次いで、香港と日本の一部の研究機関にH5HA遺伝子を発現する組み換えワクチニアウイルスを供給した。また、H5N1ウイルスの試作ワクチンを作り、マウスでの免疫応答を調査、抗原分析用の抗体も作製した。これに続いて、香港の6株を進化学的に解明した。同時に、これらの発育鶏卵とマウスでの病原性も調査した。又、緊急なワクチン産生のために、米国から非病原性のH5ウイルスを入手してワクチン用種ウイルスの作出も検討した。(3)1960年代から総死亡数、インフルエンザ死亡数、インフルエンザの届け出患者数及びインフルエンザ様患者数の4つを指標にしてインフルエンザ危害の実態調査を実施した。さらに、インフルエンザ危害を病態から調査するために、重症心身障害者(児)病棟と北海道の54施設においてインフルエンザの重症例と脳症発生を調査するシステムを作った。(4)分子進化ソフトの作製と進化機構の解明は、1968年以来のH3N2ウイルスのHA遺伝子の塩基構造をデータベース化して、特殊なソフトを開発して、進化速度、進化方向のパターン、変異率の計算、流行予測が可能か否かについてのコンピューター計算するシステムを作った。
結果と考察
(1)1997-98シーズンのインフルエンザの流行は大規模で、主流行ウイルスは A/香港型、散発的にA/ソ連型及びB型ウイルスが確認された。香港型は、A/Wuhan/359/95変異株、A/Saga/I28/97(A/Sydney/05/97様変異株)変異型それに両ウイルスの中間に位置する変異型が同時流行し、その他に、A/Saga/I28/97から4から8倍程度変異したウイルスが神奈川県、韓国及び香港で分離された。進化学的分析により、これらのウイルスの進化方向は前2者とはすでに異なっていることが判明、次の主流になる可能性が示され、ワクチン株としても高く評価できるものと考えた。ソ連型は、1996年の長崎県で分離された2株及び1997-98シーズンに日本と中国で分離されたウイルスが進化学的に新しい方向を示し、今後はこの系統のウイルスが主流を示すのではないかと危惧された。B型については、1997-98シーズンに散発的に分離されてきたウイルスは、ワ
クチン株のB/三重/1/93から変異しており、1998-99シーズンのワクチンにはB/三重/1/93に代えて、これらの進化したウイルスを利用すべきではないかと考えた。国際的には、香港型はA/Saga/I28/97ウイルスが大勢を占めていることが明らかとなった。また、ソ連型は、A/北京/262/95とそれから8倍程度に変異したウイルスが中国、韓国及びロシアで分離されていた。ロシアでは、A/Bayern/07/95の系統とA/Wuhan/359/95から大幅に変異したウイルスが同時に分離されていた。以上のことから、ロシアとアジア地域のソ連型は3つの変異型が共存していることが明らかにされ、欧米の流行様式とは全く異なっていることが示された。また、ワクチン用ウイルスの分離に関する研究において、MDCK細胞による一次スクリーニングを行い、分離陽性検体についてのみ発育鶏卵によるウイルス分離する方法が効果的と考えられた。また、検体は凍結融解をさけることが重要であるとわかった。 (2)パンデミーインフルエンザウイルス調査として、新型ウイルスの診断用キットを使用し、中国南部で若い世代からアジア型ウイルスに対する抗体を特定した。また、H5N1ウイルスの6株の免疫学的、遺伝学的及び進化学的分析の結果、ニワトリインフルエンザウイルスが直接ヒトに感染していることが明かとなった。又、試験ワクチンによって、これらのウイルスの免疫応答は現行のインフルエンザワクチンに匹敵し、抗原性の面から二つの系統に分かれることが判明した。さらに、発育鶏卵とマウスをモデルにしてH5N1 ウイルスの強い病原性も確認し、非病原性H5ウイルスによるワクチン用種ウイルス作出を試みた。 (3)一連のインフルエンザ死亡危害の分析から,香港型による被害が最も大きいという知見が得られ,ウイルスの型により致死率に著明な差のあることがはじめて具体的に示された。また、1996-1997年シーズンインフルエンザ入院症例に見られた合併北海道では96/97シーズンのインフルエンザ流行期に690例あまりのインフルエンザが関連したと考えられる入院症例があった。H3N2型とB型の流行があり、患者数ではB型が主体であった。重症合併症の脳炎・脳症は5例と過去3シーズンで最少だが、予後は死亡例2例、脳死1例、後遺症1例と不良であった。 (4)H3N2の進化速度と進化機構解明の方法が確立されつつあり、インフルエンザウイルスの進化には、緩慢な時代と速い時代があることを明かにし、香港型は、まだ進化が可能な能力を持っていることを示唆した。
結論
(1)日本の各県及び外国の観測センターに分析用キットを配布、ウイルスの抗原型と変異のレベルを一次スクリーニングし、その分離情報をファックス及びe-mailで送り、さらに変異株を供給する体制を敷いた。変異ウイルスを当研究室において詳細な同定と、それに続く分子進化学的分析を行い、流行ウイルスの予測とワクチン株を探索する体制を敷いた。今シーズンのインフルエンザの流行は大規模で、A/香港型が主流、A/ソ連型とB型が散発流行していた。(2)新型ウイルスの診断用キットを使用し、中国南部で若い世代からアジア型ウイルスに対する抗体を特定した。また、H5N1ウイルスの6株の免疫学的、遺伝学的及び進化学的分析の結果、ニワトリインフルエンザウイルスが直接ヒトに感染していることが明かとなった。又、試験ワクチンによって、これらのウイルスの免疫応答は現行のインフルエンザワクチンに匹敵することが示された。さらに、発育鶏卵とマウスをモデルにしてH5N1 ウイルスの強い病原性も確認し、非病原性H5ウイルスによるワクチン用種ウイルス作出を試みた。(3)香港型による被害が最も大きく、ソ連型が最も小さいという知見が得られ,ウイルスの型により致死率に著明な差のあることがはじめて具体的に示された。また、1996-1997年シーズンインフルエンザ入院症例に見られた合併北海道では96/97シーズンのインフルエンザ流行期に、H3N2型とB型の流行があり、患者数ではB型が主体であった。重症合併症の脳炎・脳症は5例と過去3シーズンで最少だが、予後は不良であった。 (4)H3N2の進化速度と進化機構解明の方法が確立されつつあり、インフルエン
ザウイルスの進化には、緩慢な時代と速い時代があることを明かにし、香港型は、まだ進化が可能な能力を持っていることを示唆した。

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