文献情報
文献番号
202501015A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障給付に関するマイクロシミュレーション分析の研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24AA2008
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究分担者(所属機関)
- 八塩 裕之(京都産業大学 経済学部)
- 川出 真清(日本大学 経済学部)
- 金田 陸幸(神戸学院大学 経済学部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
5,490,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、社会保障制度の改正や各種給付等による所得再分配への影響を試算する手法としてマイクロシミュレーション分析に着目し、属性別の影響を把握するためのモデルを構築することにある。
研究方法
Python により動的マイクロシミュレーションを実行できるモデルを構築することで、シミュレーションから相対的貧困率やジニ係数等の指標を計算した。データは国民生活基礎調査の所得・貯蓄票および世帯票をベースに、各種パラメータとして「日本の将来推計人口」「人口動態統計」「労働力調査」、さらには財政検証の基礎データを用いた。さらに財政検証プログラムをPython に移植し、中長期的な最大の展望としての動学的マイクロシミュレーションとの連携を検討した。
結果と考察
動的モデルを用いたマイクロシミュレーションにおいて、適用拡大の影響は相対的貧困率、ジニ係数ともにそれほど大きくはない。相対的貧困率は当初は基準ケースで最も低いが、2060年度までのほとんどの期間で最も高い値となる。
マクロ経済スライドの調整期間を一致させることで、相対的貧困率はほぼすべての期間でわずかに低下する。2040年代前半以降、低成長を仮定する過去30年投影ケースにおいて急速に相対的貧困率が上昇する。逆にジニ係数は調整期間を一致させることですべての期間でわずかに上昇する。
基礎年金拠出期間の45年化はすべての期間で相対的貧困率とジニ係数をわずかに低下する。
なお本研究における結果の解釈には、設定された経済前提への依存を十分留意すべきであるということを強調しておく。
Pythonを用いた財政検証の再現において、主要な政策変数は実質的に一致する。また終了年度やスライド改定率に紐づく特定の行・列に多少の乖離はあるが、試算の中核となる水準指標は大きくずれていない。長期収支の現状を見ると、収入計の乖離率が平均1.98%、最大6.48%である。終期における収支差や積立金の乖離も15%前後まで縮小しており、実用上のマクロトレンドの再現性は極めて高い。
相対的貧困率、ジニ係数がしばらく上昇傾向を示すことは、所得項目の中で雇用者所得のみが一定率で上昇する設定であることが原因と考えられる。両変数とも長期的には低下に転じるが、これは高齢化による退職世代の増加と、新たに退職する者が比較的高い年金給付を受けられるためと考えられる。
今後の適用拡大の対象者は比較的低所得と思われる者が多く、適用拡大の対象者について相対的貧困率が低下するものと考えられる。一方で被保険者が加齢し受給者に変化していくことや、依然として厚生年金の対象とならない自営業者等と拡大対象となる者との間で格差を生じさせることが、相対的貧困率やジニ係数の長期的な変化につながると考えられる。
マクロ経済スライドの調整期間一致は、過去30年投影ケースの場合、調整期間を一致させる場合に報酬比例部分の調整が行われることが、相対的貧困率のわずかな上昇を引き起こしているものと考えられる。また基礎年金部分の調整が停止されることで引退世代の可処分所得が従前より増加し、再分配が強まるためにジニ係数が低下すると考えられる。
基礎年金45年化の影響が小さいことは、拠出面、給付面ともに対象者が少ないためと考えられる。
Pythonを用いた財政検証の研究における最大の成果は、財政検証を構成する六つの主要計算ブロックがすべて移植され、標準的な経済シナリオであればPythonだけで一貫してシミュレーションを実行できる段階に到達したことである。既に記した通り、主要な政策変数は実質的に一致するような計算結果が得られており、実用上のマクロトレンドの再現性は極めて高い。
マクロ経済スライドの調整期間を一致させることで、相対的貧困率はほぼすべての期間でわずかに低下する。2040年代前半以降、低成長を仮定する過去30年投影ケースにおいて急速に相対的貧困率が上昇する。逆にジニ係数は調整期間を一致させることですべての期間でわずかに上昇する。
基礎年金拠出期間の45年化はすべての期間で相対的貧困率とジニ係数をわずかに低下する。
なお本研究における結果の解釈には、設定された経済前提への依存を十分留意すべきであるということを強調しておく。
Pythonを用いた財政検証の再現において、主要な政策変数は実質的に一致する。また終了年度やスライド改定率に紐づく特定の行・列に多少の乖離はあるが、試算の中核となる水準指標は大きくずれていない。長期収支の現状を見ると、収入計の乖離率が平均1.98%、最大6.48%である。終期における収支差や積立金の乖離も15%前後まで縮小しており、実用上のマクロトレンドの再現性は極めて高い。
相対的貧困率、ジニ係数がしばらく上昇傾向を示すことは、所得項目の中で雇用者所得のみが一定率で上昇する設定であることが原因と考えられる。両変数とも長期的には低下に転じるが、これは高齢化による退職世代の増加と、新たに退職する者が比較的高い年金給付を受けられるためと考えられる。
今後の適用拡大の対象者は比較的低所得と思われる者が多く、適用拡大の対象者について相対的貧困率が低下するものと考えられる。一方で被保険者が加齢し受給者に変化していくことや、依然として厚生年金の対象とならない自営業者等と拡大対象となる者との間で格差を生じさせることが、相対的貧困率やジニ係数の長期的な変化につながると考えられる。
マクロ経済スライドの調整期間一致は、過去30年投影ケースの場合、調整期間を一致させる場合に報酬比例部分の調整が行われることが、相対的貧困率のわずかな上昇を引き起こしているものと考えられる。また基礎年金部分の調整が停止されることで引退世代の可処分所得が従前より増加し、再分配が強まるためにジニ係数が低下すると考えられる。
基礎年金45年化の影響が小さいことは、拠出面、給付面ともに対象者が少ないためと考えられる。
Pythonを用いた財政検証の研究における最大の成果は、財政検証を構成する六つの主要計算ブロックがすべて移植され、標準的な経済シナリオであればPythonだけで一貫してシミュレーションを実行できる段階に到達したことである。既に記した通り、主要な政策変数は実質的に一致するような計算結果が得られており、実用上のマクロトレンドの再現性は極めて高い。
結論
国民生活基礎調査をベースにして動的なマイクロシミュレーションモデルを構築することにより、公的年金に関するさまざまな制度改正の長期的な効果を分析することの可能性が示された。ただし、データの制約、あるいは経時的な変化を追跡することが困難と思われる所得項目の存在など、長期にわたる計算結果の信頼性を確保するためには、データセットに関する精査が不可欠である。なお本研究における結果の解釈には、設定された経済前提への依存を十分留意すべきである。
財政検証プログラムの移植においては、中長期的な最大の展望としての動学的マイクロシミュレーションとの連携の実現可能性が高まった。これにより、ミクロな制度変更がマクロな年金収支やマクロ経済スライドの調整期間に与える影響を、ボトムアップで正確に算出できる画期的な道が開ける。今後、個人レベルの多様な属性やキャリア軌跡を精緻にシミュレートしたミクロデータを、本Pythonマクロモデルのインプットとして動的に接続することで、より解像度が高く機動的な「次世代統合シミュレーションモデル」の構築へとつながる研究課題に拡張してゆくことが必要である。
財政検証プログラムの移植においては、中長期的な最大の展望としての動学的マイクロシミュレーションとの連携の実現可能性が高まった。これにより、ミクロな制度変更がマクロな年金収支やマクロ経済スライドの調整期間に与える影響を、ボトムアップで正確に算出できる画期的な道が開ける。今後、個人レベルの多様な属性やキャリア軌跡を精緻にシミュレートしたミクロデータを、本Pythonマクロモデルのインプットとして動的に接続することで、より解像度が高く機動的な「次世代統合シミュレーションモデル」の構築へとつながる研究課題に拡張してゆくことが必要である。
公開日・更新日
公開日
2026-06-22
更新日
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