生活保護受給者における効果的な健康支援方法の立案に向けた実証研究

文献情報

文献番号
202501011A
報告書区分
総括
研究課題名
生活保護受給者における効果的な健康支援方法の立案に向けた実証研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24AA2004
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 大輔(京都大学 大学院医学研究科社会的インパクト評価学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 尚己(京都大学 大学院医学研究科 社会疫学分野)
  • 上野 恵子(京都大学大学院医学研究科 /金沢大学附属病院先端医療開発センター)
  • 木野 志保(東京科学大学 口腔疾患予防学分野)
  • 林 明子(大妻女子大学 家政学部)
  • 越智 真奈美(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 政策科学研究部)
  • 田中 琴音(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科)
  • 小出 直(新潟医療福祉大学 心理・福祉学部 社会福祉学科)
  • 川内 はるな(京都大学 医学研究科社会的インパクト評価学講座)
  • 新杉 知沙(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 久保木 紀子(横浜創英大学 看護学研究科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2021年より被保護者健康管理支援事業が全国の福祉事務所で必須事業となったが、医療扶助レセプトデータのみでは、被保護者の健康・生活実態を十分に把握することは難しい。2年計画の2年目となる今年度は、被保護者の健康・生活実態をライフコース全体にわたりより詳細に多角的なデータから明らかにし、被保護者の効果的な健康支援方法を継続的に検討することを目的とした。
研究方法
研究1では、被保護世帯の健康・生活実態を、妊産婦・子ども、高齢者、長期入院者等に関して、福祉事務所が管理するデータや公的統計等、被保護世帯の子どもの生活状況に関する聞き取りデータをもとに記述した。
研究2では、修正デルファイ法と当事者インタビューにより、被保護世帯の子どもと養育者の健康・生活状況を把握するフェイスシートを開発した。
研究3では、全国のケースワーカーに対する質問紙調査により、子どもの健康支援における支援判断構造と実践上の困難を検討した。
結果と考察
研究1では、被保護世帯の子どもでは麻疹風疹混合ワクチン第2期接種率が低く、居住地区の影響を受けていること、医療機関との接点があっても予防接種につながっていない実態があり、unmet needsが存在していることが示唆された。高齢の被保護者では約4割がフレイルに該当し、健診未受診、口腔機能低下、社会的孤立等の課題が確認された。精神科長期入院者では、医療上の問題に加え、住居確保困難や家族の受け入れ困難など生活・社会的課題が入院長期化に関与していた。子どもの生活状況データをもとにした分析では、生活保護世帯の子どもには、医療依存、生活困難・未受診、心理社会的課題等の異なる支援ニーズをもつサブ集団を形成していることがわかった。公的統計を用いた検討では、被保護者健康管理支援事業の効果は現時点では明らかとならなかった。
研究2では、実務者の合意形成により項目を精選し、生活状況聞き取り、子ども回答、養育者回答の各フェイスシートを確定した。当事者視点からは、フェイスシートを単なる情報収集票ではなく、子どもとの関係形成を支える媒介として活用する必要性が示された。
研究3では、ケースワーカーが被保護世帯の子どもの健康支援を判断する視点には「生活習慣・日常生活管理」「養育環境・保護者要因」「発達・コミュニケーション」の3つ因子があることが示唆されたが、子どもに関する情報入手、実際の支援実践、子どもに関係する他部門連携それぞれに困難が存在することが示された。
結論
本研究課題の今年度の研究からは、40歳以上の生活習慣病対策にとどまらず、妊産婦、子ども、高齢者、精神疾患を抱える者等の実態を記述し、被保護者がおかれている状況に応じたライフコース全体の健康支援に加え、他部門や地域環境要因への働きかけの重要性を示唆した。福祉事務所においては、医療扶助レセプトデータに加え、母子保健、予防接種、学校保健、健診、介護、教育、生活状況等の情報を活用し、多機関連携による重層的な支援体制を構築することが求められる。

公開日・更新日

公開日
2026-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2026-06-22
更新日
-

文献情報

文献番号
202501011B
報告書区分
総合
研究課題名
生活保護受給者における効果的な健康支援方法の立案に向けた実証研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24AA2004
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 大輔(京都大学 大学院医学研究科社会的インパクト評価学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 尚己(京都大学 大学院医学研究科 社会疫学分野)
  • 上野 恵子(京都大学大学院 医学研究科 社会疫学分野/金沢大学・附属病院先端医療開発センター)
  • 木野 志保(東京医科歯科大学 健康推進歯学分野 / 東京科学大学・口腔疾患予防学分野・)
  • 林 明子(大妻女子大学 家政学部)
  • 越智 真奈美(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 政策科学研究部)
  • 田中 琴音(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科)
  • 小出 直(新潟医療福祉大学 心理・福祉学部 社会福祉学科)
  • 新杉 知沙(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 川内 はるな(京都大学 医学研究科社会的インパクト評価学講座)
  • 久保木 紀子(横浜創英大学 看護学研究科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、生活保護受給者に対する効果的な健康支援方法を立案するため、これまで健康・生活実態が十分に把握されてこなかった集団、特に40歳未満の若年被保護者、被保護世帯の子ども、精神科長期入院中等といった被保護者の実態を明らかにすることを目的とした。既存行政データ、医療扶助レセプトデータ、公的統計、被保護者を対象とする追加の郵送調査および聞き取り調査、当事者・支援者へのインタビュー調査等を組み合わせて、被保護者の健康・生活実態をライフコース全体にわたり明らかにし、効果的な支援方法を定量的・定性的に検討した。次に、これまで十分に把握されてこなかった被保護世帯の子どもの健康・生活実態を効果的に把握するためのツールを開発することを目的とした。子どもの健康・生活実態を把握し支援策へとつなげるフェイスシートを学際的に多面的な視点から作成し、その実行可能性や課題を当事者・支援者の意見も踏まえて整理した。さらに、すでに実施されている被保護者健康管理支援事業により、被保護者の健康行動や医療扶助費に変化が生じているのか、すなわち被保護者健康管理支援事業の効果を検証することも目的とした。
研究方法
まず、国内の中核市を中心に、複数自治体の福祉事務所が保有する被保護者の住民台帳データ、医療扶助レセプト、ケース記録、医療要否意見書等に加え、市民健診、がん検診、予防接種、乳幼児健診、学校健診等の他部門データを福祉事務所内で連結し、子どもや若年成人を中心とした健康・生活実態の記述を行った。次に、文献調査およびフィールド調査を踏まえ、被保護世帯の子どもの状況を把握するフェイスシート案を作成し、福祉事務所職員等53名を対象とした3回の修正デルファイ法により項目を選定した。さらに、福祉事務所等の連結データを用いて、頻回受診、多剤投薬、調査票に対する回答などといった健康・生活行動要因に関連する個人要因および地域環境要因をマルチレベル分析により検証した。他にも、公的統計(NDBデータおよび社会保障生計調査)を二次利用し、被保護者健康管理支援事業の実施前後における医療扶助費および家計支出の変化を検討した。
結果と考察
福祉事務所データ、医療扶助レセプト、健診・予防接種等の他部門データを連結・分析した結果、被保護世帯の子どもでは幼児期から学齢期にかけて肥満傾向やう歯・未処置歯の割合が高く、MRワクチン第2期接種率も6割程度にとどまるなど、健康上の不利が早期から存在することが明らかになった。また、30歳代の被保護者では、非受給者と比較して肥満、喫煙、脂質異常、糖尿病リスク等が高い傾向が示され、40歳未満への健康支援の必要性が示唆された。がん検診受診率も全体として低い傾向にあった。
また、被保護世帯の子どもの実態把握に向けて、保健・医療・福祉・栄養・教育等の多分野の知見を踏まえたフェイスシートを開発し、デルファイ法により健康13項目、生活10項目、養育10項目が選定された。さらに、地域の市民参加などソーシャル・キャピタルが高い地域では、被保護者の頻回受診や多剤投薬が少ない傾向が認められ、個人への支援だけでなく地域環境へのアプローチの重要性も示された。一方、被保護者健康管理支援事業の実施前後における医療扶助費や家計支出のトレンドには、現時点では大きな変化は確認されなかった。
結論
本研究により、被保護者健康管理支援事業の主な対象となっている40歳以上だけではなく、若年成人や被保護世帯の子どもへの支援の必要性とその対策例が示された。特に、幼少期から健康上の不利を抱える被保護世帯の子どもに早期に関わるため、開発した子どもフェイスシートを福祉事務所や保健師、ケースワーカー等が活用することで、健康・生活状況の把握と支援のきっかけづくりに役立てられる可能性がある。
また、市の複数部署が保有する健診、予防接種、学校保健等のデータを、生活保護法に基づき個人情報に配慮しながら連結・活用することで、被保護者の健康課題を可視化し、エビデンスに基づく支援策を立案できることが示された。今後は、これらのエビデンスの自治体規模ごとや地域ごとの検証、本エビデンスを基盤にした被保護者健康管理支援事業の手引き改正および自治体への通知、全国の福祉事務所で活用可能な健康支援アルゴリズムのさらなる開発・実装に活用することが期待される。
さらに、被保護者の健康行動には地域の予防接種率や市民参加など地域社会環境が関係している可能性が示されたため、個別支援に加えて、自治体全体の健康づくり施策や地域づくり施策と連携したメゾレベルの支援も重要である。今後は、都道府県が保有する自立支援医療等のデータを含めたさらなるデータ連携の仕組みを検討し、被保護者の健康課題をより包括的に把握・評価できる体制整備が求められる。

公開日・更新日

公開日
2026-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-06-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202501011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
生活保護台帳、医療扶助レセプト、予防接種・健診・学校保健、介護、ケース記録等を連結・分析し、被保護世帯の子ども、妊産婦、若年成人、高齢者、精神科長期入院者の健康・生活課題を可視化した。予防接種未接種、歯科未受診、生活習慣病リスク、フレイル、長期入院の社会的要因等の知見は、全国福祉事務所で収集し得るデータ活用の可能性を示し、貧困・公的扶助受給集団に対する健康支援のライフコース研究に国内外で資する。
臨床的観点からの成果
被保護世帯の子どもではMRワクチン第2期接種率の低さや歯科未受診、健診上の肥満・う歯等が、30歳代では生活習慣病リスクが、高齢者ではフレイルや孤立が確認された。医療機関との接点があっても予防につながらない未充足ニーズを示し、臨床現場でのリスク把握に加え、医療・保健・福祉・教育部門が連携して若年期から早期発見・予防的支援を行う必要性を明らかにした。
ガイドライン等の開発
正式な診療ガイドラインの策定には至っていないが、福祉事務所で子どもと養育者の健康・生活状況を把握する生活状況聞き取り、子ども回答、養育者回答の3種類のフェイスシートを開発した。修正デルファイ法と当事者インタビューにより項目を精選し、活用ガイド、項目解説、活用例を整備したため、支援判断の標準化に資する。審議会等での具体的活用はまだ確認されていない。
その他行政的観点からの成果
福祉事務所データと母子保健、予防接種、学校保健、健診、介護等の行政データを連結することで、医療扶助レセプトのみでは把握困難な支援ニーズを示した。成果は、40歳以上が中心的な対象となりやすいの被保護者健康管理支援事業をライフコースの視点から、再考する根拠となり、被保護者健康管理支援事業の手引き改定、自治体通知、研修・事業計画、予算要求策定の基礎資料として活用が期待される。
その他のインパクト
研究成果は日本公衆衛生学会総会等で発表され、生活保護受給世帯の健康・生活支援に関するシンポジウムでも共有された。論文発表により国内外へ知見を発信し、子どもの生活課題を可視化する実務ツールも整備した。特許・実用新案の出願、登録はないが、フェイスシートと活用ガイドは福祉事務所職員への研修、普及・啓発に活用可能であると考える。これまで不可視化されてきた被保護者の健康・生活実態に関して、社会が解釈資源をもつきっかけを与えた研究である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
医療扶助・健康管理支援等に関する検討会に参画し、本課題のエビデンスを検討会に提示した。
その他成果(普及・啓発活動)
5件
学会のシンポジウム、自治体の被保護者健康管理支援事業に関する講演会、自治体間の交流会を実施した。全国ケースワーカー研修および健康管理支援事業の担当者会議で講演した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishioka D, Kino S, Ueno K, et al.
Representativeness of Social Surveys among Older Individuals Living in Poverty: Who Were Left Behind?
JMA J , 8 (3) , 985-989  (2025)
10.31662/jmaj.2024-0093
原著論文2
Tanaka K, Nishioka D, Nakagomi A, et al.
Public assistance program and food diversity among older people: a cross-sectional study using the Japan Gerontological Evaluation Study data
Int J Equity Health , 24 , 134-  (2025)
10.1186/s12939-025-02494-3
原著論文3
Kasahara M, Kawachi H, Ueno, K, et al.
Community-level social capital and polypharmacy among public assistance recipients in Japan: A multilevel cross-sectional study
SSM-Population Health , 101788-  (2025)
10.1016/j.ssmph.2025.101788
原著論文4
Nishioka D, Ueno K, Kino S, et al.
Characteristics and hospitalizations among children on public assistance in Japan: A population-based cohort study
Pediatr Int , 67 (1) , e70005-  (2025)
10.1111/ped.70005
原著論文5
Nishioka D, Kawachi H, Ueno K, et al.
Sociodemographic determinants of dental care utilization among children receiving public assistance in Japan: a one-year observational study
Discov Soc Sci Health , 5 , 108-  (2025)
10.1007/s44155-025-00251-z

公開日・更新日

公開日
2026-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202501011Z