脳腫瘍における幹細胞性維持機構の遮断とその臨床応用

文献情報

文献番号
201019030A
報告書区分
総括
研究課題名
脳腫瘍における幹細胞性維持機構の遮断とその臨床応用
課題番号
H22-3次がん・一般-013
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
宮園 浩平(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鯉沼 代造(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 藤堂 具紀(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
18,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 我々はこれまでTGF-βが脳腫瘍幹細胞に作用して脳腫瘍幹細胞の未分化性を維持していることを明らかにした。またTGF-β受容体阻害剤が脳腫瘍幹細胞の分化を促進することを見出した。さらに、脳腫瘍幹細胞においてTGF-βがSmadシグナル経路を活性化すると、転写因子Sox4、その下流のSox2を介して未分化性を維持していることを明らかにした。本研究では脳腫瘍幹細胞において、TGF-β-Sox4-Sox2経路がどのような標的遺伝子を活性化するか、それらの遺伝子は脳腫瘍幹細胞の未分化性維持にどのように関わっているか、さらにこれらの遺伝子群はヒト脳腫瘍においてどのように発現しているかを中心に研究を進めた。

研究方法
 実験手技すでに報告した手法 により行った。
(倫理面への配慮)動物を用いた実験は東京大学医学部の定める規則に従って行った。本研究で用いる臨床検体は東京大学医学部倫理委員会の承認を得て、被験者に対するインフォームド・コンセントを書面で行っている。
結果と考察
1) Oct4は脳腫瘍幹細胞の未分化性の維持に必須である
 我ヒト脳腫瘍患者から得た2種類の脳腫瘍幹細胞は、無血清でEGFとbFGFの存在下ではsphereを形成し、sphereを形成する細胞は幹細胞マーカーを発現している。脳腫瘍幹細胞をOct4に対するsiRNAで処理するとsphere形成能が著しく抑制された。
 さらに脳腫瘍幹細胞をヌードマウスの頭蓋内に同所移植したところ、コントロールのsiRNAで処理した細胞を移植したさいにはマウスは6週以内にすべて死亡したのに対し、Oct4 siRNAで処理した細胞を移植した場合には半数以上のマウスで腫瘍の形成が見られず、これらのマウスは80日以上、生存した。
2) Oct4-Sox複合体がSox2の発現を制御する
 脳腫瘍幹細胞ではSox2のエンハンサー領域にはSox4とOct4の両者が結合し、Sox2の発現を制御していることを明らかにした。Sox2エンハンサーには正常の神経幹細胞ではSox2が結合してSox2の発現を上昇させることが知られている。しかし我々の今回の実験では、脳腫瘍幹細胞ではSox2ではなくSox4が重要であることが明らかとなった。

結論
 本研究は、近い将来、我が国で開始されることが期待されるTGF-β阻害剤の膠芽腫に対する効果との関連性を明らかにするための基礎的知見を得ることを目的としている。本研究の成果がさらに明らかとなれば将来、TGF-β阻害剤を臨床応用するさいに治療が有効な症例を予測する上で重要となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-10-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
201019030Z