造血器悪性腫瘍及び転移性がんで高頻度に異常を来している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に資する研究

文献情報

文献番号
201019027A
報告書区分
総括
研究課題名
造血器悪性腫瘍及び転移性がんで高頻度に異常を来している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に資する研究
課題番号
H22-3次がん・一般-010
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
北林 一生(国立がん研究センター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 直江 知樹(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 赤司 浩一(九州大学大学院)
  • 堺 隆一(国立がん研究センター 研究所)
  • 的崎 尚(群馬大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
56,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
再発や転移はがんによる死亡要因として最も重要であり、これらを阻止する新しい治療法の確立が強く求められる。本研究では、申請者らが独自に明らかにした再発や転移に深く関与するがん幹細胞やチロシンリン酸化シグナルに関する研究を発展させて、造血器腫瘍や転移性がんに対する新たな治療法の開発を目指す。
研究方法
これまでに白血病幹細胞特異的分子としてTIM3およびM-CSFRを同定したので、これらに対する抗体医薬や阻害剤を用いて白血病幹細胞のみを根絶する新規治療法を開発する。また、多くのがんで高頻度に変異や活性化が見られるチロシンキナーゼ及びその下流シグナル分子の様々ながんの発症や転移・浸潤能の獲得における役割を明らかにし、チロシンリン酸化シグナルを標的とした新たな治療法を開発する。
結果と考察
急性骨髄性白血病(AML)幹細胞に特異的に高発現する表面抗原Tim-3 およびM-CSFR を同定し、これらが有望な治療標的であることを見出した。急性リンパ性白血病(ALL)の一部症例において認められる融合癌遺伝子PAX5-PML が、B 細胞分化のマスター遺伝子であるPAX5の転写活性を抑制する一方、PML nuclear bodyを破壊することで、そのアポトーシス誘導能を阻害している事も示した。CDCP1 は、運動能や細胞外基質の分解能も制御し、また肺がんに加え膵がんの系でもCDCP1 高発現群が低発現群と比較して有意に予後が不良であることが明らかになった。受容体型PTP であるSAP-1 がSrc ファミリーチロシンキナーゼと結合し活性化することを明らかにした。また、Shp2 の結合分子SIRPαはマクロファージによる貪食を負に制御するが、SIRPα遺伝子KO マウスでは、がん細胞表面抗原抗体による腫瘍排除が増強した。
結論
本研究により、M-CSF受容体およびTim-3がAML治療の理想的な標的であることを明らかにした。M-CSF受容体特異的チロシンキナーゼ阻害剤の臨床試験を計画中で、Tim-3抗体治療の開発が進行中である。急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬でもある亜ヒ酸が、破壊されたPML nuclear bodyを再構成させ、PAX5-PMLによりもたらされるアポトーシス抵抗性を克服する事を示し、本剤がPAX5-PML陽性ALLの治療薬となる可能性を示した。固形腫瘍でチロシンリン酸化を受けるCDCP1は、複数の悪性形質を固形腫瘍に付与することで固形腫瘍の転移浸潤を促進する蛋白質であることが明らかになり、腫瘍の転移浸潤を効果的に抑制する分子標的として期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-10-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
201019027Z