人工抗体ライブラリーの作製とその利用法の開発

文献情報

文献番号
199700766A
報告書区分
総括
研究課題名
人工抗体ライブラリーの作製とその利用法の開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 良和(藤田保健衛生大学総合医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
80,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、それをスクリーニングするだけで様々な物質(抗原)と特異的に結合する抗体を取得することができる人工的な抗体ライブラリーを作製することを第一の目標に実施されている。従来より行われている細胞融合を利用したモノクローン抗体作製法の場合は、精製した抗原物質を充分量有していること、その物質が免疫される動物に対して免疫原性を示すことが必要であり、モノクローン抗体を得るまでに多くの労力と日数を要する。一方人工抗体ライブラリーの場合は、抗体がファージ膜上に発現されてライブラリー化されるために、そのライブラリーに充分多様な抗体が含まれていれば目的とする抗原に対する抗体を容易に入手できる。作製されたライブラリーを用いて得られる抗体について臨床的に有用なものについてはγ-グロブリン製剤として利用できるようにするために、本研究で作製する抗体は、ヒト型抗体を基にすることにした。抗体ライブラリーの特性を利用すると、従来のモノクローン抗体作製技術では達成困難な研究分野も開拓することが可能である。その第一はヒューマンゲノムプロジェクトの展開の中で次々と得られている多くのcDNAの産物に対して各々特異的に結合する抗体を得ること、第二は個々の腫瘍細胞に対して特異的に結合する抗体を短時間に調製することが可能なことなどが挙げられる。この第二の目標については、抗体の分子形態を毒素と結合させてimmunotoxinとして使用できるようにすることも重要である。本研究では更に抗体レベルでのsubtractionができる実験系を作ることも重要な目標としている。
研究方法
本研究課題は主任研究者の研究に於いて数年前に開始され、抗原結合部に相当するCDR配列を多様化したライブラリーを作製することを行ってきた。平成9年度に厚生研究事業に採択されたことに伴い、従来マウス抗体遺伝子を基に作製していたライブラリーをγ-グロブリン製剤化が可能なように平成9年度の途中から全てヒト型遺伝子に切り替えることに方針変更をした。従来の方針に基づく実験については抗ステロイドC抗体を用いた抗原特異性変換実験と抗チトクロームC抗体を用いた抗原結合力増加クローンの単離実験を行った。マウス型抗体からヒト型抗体に変換するために次のことを行った。抗体はFabの形でcpIIIに融合しM13ファージ表面に発現されるが、そのCH1をヒトγ1、CLとしてヒトCλとCκとするベクターを構築した。そこでVH, VL共にヒト型とすればFabは全てヒト型となる。単離されたファージ抗体は、その抗体遺伝子の両端に制限酵素部位を配置してあるので別途作製しているベクターに挿入して完全なヒト型IgG1抗体をコードする遺伝子に容易に変換できる。ヒトVL遺伝子については既に多くの研究が報告されておりκ鎖遺伝子は6ファミリーに、λ鎖遺伝子は7ファミリーに分類されている。そこで数百のVL遺伝子をヒトB 細胞画分より単離して全て構造決定した上で、その大腸菌中での発現-folding-VHドメインとの会合、全ての過程が正しく起るクローンのみからなり、更に様々な立体構造情報に基づいて充分多様と判断できるクローンを100個位準備することにした。多様な抗原に対応して充分な抗体ライブラリーを作製する上で、抗原結合への貢献度がVHの方がVLより大きいという経験的事実を用いることにした。VLの多様性は102オーダーとしてVHを109オーダー、全体として1010オーダーを超える独立したクローンからなるライブラリーをつくるのが基本アイデアである。VH遺伝子のソースとしては、それぞれの免疫学的バックグラウンドの異なる多くの扁桃腺(IgG型が主体)と多くの臍帯血(IgM型が主体)を用いることにした。ヒトVH遺伝子も7ファミリーに分類さ
れているが、それぞれPCRで増幅し、IgG型を主体とするVHライブラリーとIgM型を主体とするライブラリーそれぞれ109調製する。大腸菌中での発現-folding-VHドメインとVLドメインの会合が正しく起ったクローンのみ選別する方法としてCH1のC末端にHis-tagをつけた構造を採用した。CLドメインのC末端はcpIIIに融合しているのでNi-カラムで精製されるファージ粒子はFab型を正しくとったクローンしか含まれない。
結果と考察
細胞融合を用いたモノクローン抗体作成技術に代替できるものとして抗体ライブラリーを作成する試みは世界的に多くのグループで行われている。どのようにして大きな抗体レパートリーを構築するかについて大きく三つの戦略に分けられる。1)in vivoの持つ抗体レパートリーをそのまま in vitroで再構築するもの。2)特定の部位(H鎖CDRIII)はランダムな配列にして、残りの部分は胎児型遺伝子を用いてライブラリー化する。3)CDRのみを多様化する。我々は従来より3)の方針で研究を行ってきた。研究の展開の中で各々の方針に基づくライブラリーに幾つかの欠点があることが判明してきた。重要な点は独立したファージ粒子としてhundleすることが可能な数(1011が限界)の範囲内にいかにして多様な抗原に対応できる抗体が必ず含まれるように抗体レパートリーを構築できるかという点である。我々の戦略の場合、CDRの配列としてそれぞれの位置で類似アミノ酸間の変異を起こす形でライブラリー化すると、見かけ上の多様性は高くなっても結合できる抗原という意味での多様化はあまり期待できない。一方、極めてdrasticな変異を導入するとVドメインの全体的立体構造そのものが大きく変化する頻度が極めて高くなる。一方、1)及び2)の戦略で作られたライブラリーの場合大腸菌中での発現-folding-assemblyいずれかの段階で正しく起らないクローンの出現頻度が極めて高いことがわかりつつある。そこで我々はL鎖については、発現-foldingが保証されているクローンのみをセットとして用いることにした。更にH鎖についてはL鎖と組み合わせた後Fab抗体として発現されるクローンを選別することにした。CDRのみを多様化するという初期の戦略からみると大幅な方針変更であるが、扁桃腺や臍帯血は研究を続行する限りほぼ無限の遺伝子ソースとして利用可能である。最初のライブラリー作製は平成10年6月頃に完成する見込なので、その後もライブラリー構築は続行すると同時にその中に含まれる抗体の種類を多くの抗原を材料に系統的にスクリーニングすることにより解析する。
cDNAクローンが存在した時にその産物に対する抗体を迅速に単離する技術開発も重要だと思っている。どのような抗原に対して抗体を得ることによりγ-グロブリン製剤化するかについては血液内科、小児科臨床医と協議中である。癌治療に用いる抗体の調製も重要課題である。この場合の大きなターゲットは、外科技術で発癌領域のイメージングに用いる。又はレーザーを用いた癌部分のvisual化も可能にできる可能性がある。白血病については、idiotypeマーカーに対する抗体を短期間で調製できれば有効であろう。
結論
本研究は人工抗体ライブラリーの作製とその利用法の開発を目的として実施されている。マウス抗体遺伝子を基として様々な部位に変異を導入して抗原-抗体反応にどのような影響をもたらすかという従来型の研究で様々な規則性を見い出すと同時に、phage-display系に完全に習熟する事ができた。今回ヒト型抗体へ完全に変換することにしたが、この実験系の長所と欠点が明らかになってきたので、人工抗体ライブラリー作製は順調に進んでいる。今後は作成するライブラリーの有効利用法を開発することが重要である。

公開日・更新日

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