全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定

文献情報

文献番号
201018006A
報告書区分
総括
研究課題名
全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定
課題番号
H20-子ども・一般-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
古谷野 伸(旭川医科大学 小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅野 仁覚(福島県立医科大学 産婦人科)
  • 森内 浩幸(長崎大学 小児科)
  • 吉川 哲史(藤田保健衛生大学 小児科)
  • 山田 秀人(神戸大学 産婦人科)
  • 伊藤 裕司(成育医療研究センター 新生児科)
  • 久保 隆彦(成育医療研究センター 産婦人科)
  • 泰地 秀信(成育医療研究センター 耳鼻咽喉科)
  • 藤原 成悦(成育医療研究センター 母子感染研究部)
  • 錫谷 達夫(福島県立医科大学 微生物学)
  • 井上 直樹(国立感染症研究所 ウイルス1部)
  • 岡 明(杏林大学 小児科)
  • 大石 勉 (埼玉県立小児医療センター 保健発達部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
21,780,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、2008年度から3ヵ年計画で、(1)先天性CMV感染のスクリーニングを行い先天感染の頻度を明らかにするとともに、(2) 同定された感染児コホートを形成しフォローすることで臨床像を明らかにし、(3)頭部画像解析、妊婦及び感染児の免疫学的解析、血清型や遺伝子型解析、ウイルス学的解析などを行うことにより感染ルート・後遺症発生のリスク因子などを明らかにする。さらに、(4)治療ガイドライン(案)に基づき必要に応じて抗ウイルス薬による治療を行い、エビデンスをもとに治療の基準や指針を策定していく事を目的としている。
研究方法
両親の同意のもとに新生児濾紙尿を用いた先天性CMV感染スクリーニングを行った。同定された感染児の血液・尿中ウイルス量やウイルス血清型、遺伝子型を解析し、さらに聴力や発達などの神経学的フォローを頭部画像所見とあわせ小児科で行った。また兄弟の尿から感染ルートの推定を行った。
結果と考察
2010年度は6,062名のスクリーニングを実施し、3年間の合計で23,757名の新生児をスクリーニングした。73名の先天性CMV感染児を同定し現在の日本の感染率は0.31%と判明した。73名の臨床像を解析すると、明らかな症候性児が17名、軽度の異常を含めると合計23名に何らかの異常があった。CMV-IgM検査では53.1%が陰性であることから、IgM検査は先天性CMV感染児の同定には不十分であった。先天感染児の血中・尿中ウイルス量の解析では、症候性児の血中ウイルス量が無症候性児よりも有意に多かったが、尿中ウイルス量は症候の有無に無関係であった。先天感染児の年長兄弟の尿中からCMVを同定できた28例で、感染児のウイルス遺伝子と比較したところ、24組(86%)で遺伝子型が一致した。つまり後天的に感染した兄・姉の尿や唾液が妊婦の初感染のリスクとなっていると考えられた。スクリーニングで発見された感染児以外も含めた症候性感染児24名に対して、研究班で作成した治療ガイドラインに基づき、Ganciclovir及びValganciclovir投与による治療を行った。難聴には44%、網脈絡膜炎、肝障害、血小板減少にはそれぞれ100%の有効率が得られ、その治療成績は良好であった。さらに長期的な効果の検証が必要である。
結論
先天性CMV感染は約300人に1人と高率に発生し、さらに約1000人に1人で何らかの症候が出現している。小児保健分野においてダウン症と同程度の解決すべき重要課題であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2011-09-06
更新日
-

文献情報

文献番号
201018006B
報告書区分
総合
研究課題名
全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定
課題番号
H20-子ども・一般-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
古谷野 伸(旭川医科大学 小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅野 仁覚(福島県立医科大学 総合周産期母子医療センター)
  • 森内 浩幸(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系感染免疫学)
  • 錫谷 達夫(福島県立医科大学 微生物学)
  • 吉川 哲史(藤田保健衛生大学 小児科)
  • 山田 秀人(神戸大学大学院 医学研究科外科系講座・産科婦人科分野)
  • 伊藤 裕司(国立成育医療研究センター 周産期診療部新生児科)
  • 久保 隆彦(国立成育医療研究センター 周産期診療部産科)
  • 泰地 秀信(国立成育医療研究センター 耳鼻咽喉科)
  • 藤原 成悦(国立成育医療研究センター研究所 母児感染研究部)
  • 岡 明(杏林大学医学部 小児科)
  • 大石 勉(埼玉県立小児医療センター 保健発達部感染免疫科)
  • 井上 直樹(国立感染症研究所 ウイルス第1部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的は以下の通りである。(1) 先天性CMV感染スクリーニングを行い先天感染の頻度を明らかにしつつ、その実現の可能性を検証する。(2) 同定された感染児の経過観察をすることで、後遺症を含めた臨床像を明らかにする。(3) 妊婦及び感染児のウイルス学的・免疫学的解析などから感染ルート・後遺症発生のリスク因子などを明らかにする。(4) 本研究班が作成した先天性CMV感染治療プロトコールに基づき症候性児への抗ウイルス薬による治療を行い、その効果や副作用を検証する。
研究方法
両親の同意のもとに新生児濾紙尿を用いた先天性CMV感染スクリーニングを行った。
結果と考察
1. 感染頻度とその臨床像
1)先天性CMV感染スクリーニング体制を23,757人の新生児に行い、先天感染児を73名同定した。その頻度は0.31%であった。
2)典型的な症候性児と頭部画像異常が認められた児を合計すると、約1000人に1人が先天性CMV感染により影響を受けていた。
3)典型的な症候性児の臨床像は難聴、発達障害、脳形成異常、網脈絡膜炎、肝障害、血小板減少であった。明らかな遅発障害は遅発性難聴患児が1名確認された。
4)CMV-IgM検査は感度が低く先天性CMV感染児の同定には不十分であった。またガスリー濾紙血を用いた検査は濾紙尿より感度が低かった。
2. 感染ルートと後遺症発生のリスク因子
1)先天感染のルートとして年長兄弟から妊婦への感染がウイルス学的に証明され、兄・姉の存在が感染リスクであることが明らかとなった。
2)症候性児のウイルス量は無症候性児のそれに比べ有意に多かった。血液中のウイルス量は遅発障害の発症に関連している可能性が示唆された。
3)臨床的に無症候であっても頭部画像所見上に異常が発見される感染児の存在が明らかとなった。
4)マウスCMV聴覚障害モデルの作成に成功した。今後、難聴発生の病態解明に有用な情報が得られる事が期待される。
3. 症候性児への治療と社会への啓発活動
1)スクリーニングもしくは臨床症状から同定された症候性児について、必要に応じて本研究班が作成したプロトコールでの治療を行い、その効果を確認した。
2)CMV未感染妊婦に対する啓発活動の必要性が明らかとなり、パンフレットの作成や産科診療ガイドラインへの記載を働きかけた。
結論
先天性CMV感染は約300人に1人と高率に発生し、さらに約1000人に1人で何らかの症候が出現している。小児保健分野においてダウン症と同程度の解決すべき重要課題であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2011-09-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201018006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染スクリーニングを全新生児に行うことが可能かを検証するためパイロット調査を行ったが、尿濾紙を直接PCRの検体とする研究班が用いた方法で、多数の検体を扱うスクリーニングが実行可能であることが証明された。また先天代謝異常スクリーニングで使用している濾紙血は感度の点で濾紙尿に劣る可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
現在、日本における先天性CMV感染発生頻度は0.31%で、典型的な症候性児はそのうちの23.3%であった。この症候性率は、今までいわれていた10%程度に比較し高率であった。従って、我が国では小児保健上早急に対策を立てる必要がある感染症と考えられた。また上の兄弟からの感染が主要な感染ルートであることが明らかとなり、その遮断には妊婦への啓発活動が必要である。
ガイドライン等の開発
先天性CMV感染治療プロトコールを策定し、第42回日本小児感染症学会で公表した。また同プロトコールを小児感染症学会誌に掲載した(小児感染免疫Vol22. No.4, 385-389, 2010)。
その他行政的観点からの成果
本研究班で行っている尿濾紙を用いたスクリーニング法は、1人800円程度の費用ですみ、かつ簡便な方法である事が明らかとなった。世界でも類をみない先進性を持っている。
その他のインパクト
朝日新聞に本感染症に関する記事が2010年11月2日付けで掲載された。また第42回日本小児感染症学会で指定演題として本研究班の研究成果を発表し、本感染症に対する医療従事者の理解を深める施策を行った。また妊婦への感染を防ぐために、本感染症に関する啓発パンフレットを作成し配付を開始している。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
22件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
80件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Imamura T, Suzutani T, Ogawa H, et al.
Oral valganciclovir treatment for congenital cytomegalovirus infection in a five month old girl with progressive hearing loss
Pediatr Int , 53 (2) , 249-252  (2011)
原著論文2
Nagamori T, Koyano S, Inoue N et al.
Single cytomegalovirus strain associated with fetal loss and then congenital infection of a subsequent child born to the same mother.
J Clin Virol , 49 , 134-136  (2010)
原著論文3
Shoji K, Ito N, Ito Y, et. al.
Is a 6-Week Course of Ganciclovir Therapy Effective for Chorioretinitis in Infants with Congenital Cytomegalovirus Infection?
J Pediatr , 157 , 331-333  (2010)
原著論文4
Nishikawa A, Yamada H, Yamamoto T et al
A case of congenital toxoplasmosis whose mother demonstrated serum low IgG avidity and positive tests for multiplex-nested PCR in the amniotic fluid.
J Obstet Gynaecol Res , 35 (2) , 372-378  (2009)
原著論文5
Koyano S, Inoue N, Nagamori T et al.
Dried Umbilical Cords in the Retrospective Diagnosis of Congenital Cytomegalovirus Infection as a Cause of Developmental Delays.
Clin Infect Dis , 48 , 93-95  (2008)
原著論文6
Yan H, Koyano S, Inami Y, et al
Genetic linkage among cytomegalovirus glycoprotein N (gN) and gO genes, with evidence for recombination from congenitally and postnatally infected Japanese infants.
J Gen Virol , 89 , 2275-2279  (2008)
原著論文7
Yan H, Koyano S, Inami Y, et al.
Genetic variations in the gB, UL144 and UL149 genes of human cytomegalovirus strains collected from congenitally and postnatally infected Japanese children.
Arch Virol , 153 , 667-674  (2008)
原著論文8
古谷野伸、井上直樹、長森恒久 他
先天性サイトメガロウイルス感染マススクリーニングの意義
平成22年度北海道小児保健研究会会誌 , 36-40  (2010)
原著論文9
Koyano s,Inoue N, Oka A, et al.
Screening for congenital cytomegalovirus infection using newborn urine samples collected on filter paper: feasibility and outcomes from a multicentre study
BMJ Open , 1  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
201018006Z