腎性インスリン抵抗性症候群に基づく慢性腎臓病新規治療戦略の確立

文献情報

文献番号
201015044A
報告書区分
総括
研究課題名
腎性インスリン抵抗性症候群に基づく慢性腎臓病新規治療戦略の確立
課題番号
H22-臨研推・一般-006
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 脇野 修(慶應義塾大学 医学部 )
  • 水口 斉(慶應義塾大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
56,790,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
CKD ( Chronic Kidney Disease, 慢性腎臓病 )とIR ( Insulin Resistance, インスリン抵抗性 ) の関連は、以前よりRIRs ( Renal Insulin Resistance syndrome, 腎性インスリン抵抗性症候群 )として認識されている。しかしながら、その正確な発生機序の解明には至っていない。我々はすでにRIRsの発生機序に関して、CKD患者ではHOMA-IRが血清アルドステロンと正の相関をみとめ、アルドステロンブロッカ―であるスピロノラクトン投与にてHOMA-IRの改善を認めることを報告している。今回は、横断研究にてCKD患者ではHOMA-IRと尿細管障害の指標である尿中α1ミクログロブリン値との間に正の相関が認められること、また3年間のprospective studyにて、 HOMA-IR高値を認めるCKD患者では、尿中α1ミクログロブリン高値が持続し、CKDの進行も急速であることが示唆された。我々はRIRs を有するCKD患者にインスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾンもしくはアルドステロンブロッカー、エプレレノンを投与し、長期的に腎機能障害進行の抑制及びCVDリスク低下が認められるかをPlacebo-control studyで評価する研究を開始し、CKDラットを用いRIRsの原因物質の探索を行う。
研究方法
我々はRIRs を有するCKD患者にピオグリタゾン(P)もしくはエプレレノン(E)を投与し、長期的にPは腎機能障害進行の抑制、Eは腎機能障害進行抑制及びCVDリスク低下が認められるかをPlacebo-control studyで評価する。当院外来患者の中からP投与群40名、E投与群40名、対照群40名を確保する。腎性インスリン抵抗性症候群の発症機序については細胞の代謝制御の鍵分子であるSirt1についても検討を重ねている。Sirt1は糖代謝に深くかかわる物質であり、インスリン感受性に関与する。そして内因性の新規Sirt1活性阻害物質が腎不全ラットの腎臓で3倍に上昇していることを見出した。この新規Sirt1活性阻害物質をはじめとしたCKDにおける新規の心血管障害、腎障害の新規マーカーをメタボローム解析を用いる。我々は持続的糖モニターシステム(Medtronic社製、CGMSⓇ goldTM)を用いてRIRsの血糖の日内変動を解明している。

結果と考察
臨床試験では平成23年2月の倫理審査申請の受領を受け現在患者のリクルートを継続している。来年の4月までの患者組み入れ期間中に患者の増加をめざす。新規尿毒素物質の解明では我々は内因性のSirt1活性阻害物質MXを同定した。MXは腎不全で上昇し、p53のアセチル化を促進させる作用、線維化を促進させる作用、ミトコンドリアのATP産生を低下させる作用などがin vitroで証明された。MXの生体での合成酵素MXSの発現は腎不全では上昇しておりangiotensin IIはMXの発現を上昇させることが明らかとなった。RIRsの病態解明に関する臨床研究としてはCKDにおいてIRが存在するが、その臨床的意義として、腎機能障害に関与している可能性が示唆された。CKD患者の終日の血糖プロフィールも検討した。平成22年度の検討でCKD患者においてはGA高値、貧血、低アルブミン血症、ANPおよびBNP高値が認められた。CKDstage5における血糖の日内変動を検討した。血糖プロファイルに関しては以下の点が指摘された。1.血糖日内変動において食後2時間値の有意な上昇が認められた。2.食後3時間および終日のAUCは有意に上昇していた。3.CKD患者において持続低血糖および低血糖はない可能性が高い。4.OGTTの結果ではインスリンの分泌は保たれていたが、抵抗性が上昇していた。今後症例の集積を行うとともに治療介入後の血糖プロファイルの変化を検討する予定である。
結論
CKD患者の増加の背景にはIRIsと高アルドステロン血症の2つが密接に相互作用し心血管事故や末期腎不全への進展に寄与するという新たなパラダイムを提唱した。平成22年度は患者登録を継続させ臨床試験を開始する準備を整えた。さらにRIRsの臨床意義について我々のコホートを用い検討した。RIRsの発症機序について原因物質の同定についてメタボローム解析を用い検討を続ける。さらにRIRsの病態解明のため終日の血糖モニタリング(CGMS)のデータ集積も開始している。本研究で得られる新知見は学術的にも有意義なものであるのみならず、CKDによる加齢健康障害を阻止する新治療を提示できる可能性が高く、心血管事故や末期腎不全の発症の予防につながると思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201015044Z