慢性呼吸不全に対するグレリンの臨床応用研究

文献情報

文献番号
201015002A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性呼吸不全に対するグレリンの臨床応用研究
課題番号
H20-トランス・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
中里 雅光(宮崎大学 医学部 内科学講座 神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 前倉 亮治(独立行政法人 国立病院機構 刀根山病院)
  • 木村 弘(奈良県立医科大学 内科学第二講座 )
  • 福原 俊一(京都大学大学院医学研究科 医療疫学分野)
  • 迎 寛(産業医科大学 呼吸器内科学)
  • 相良 博典(獨協医科大学越谷病院 呼吸器内科)
  • 岩永 知秋(独立行政法人 国立病院機構 福岡病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
40,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、慢性呼吸不全へ移行する呼吸器疾患患者を対象に、グレリンを継続投与し、自覚症状、運動耐容能、栄養状態の改善を評価する。無作為化二重盲検比較試験により、グレリンの慢性呼吸不全に対する臨床的有効性を確立し、治療展開することを最終目標としている。
研究方法
本研究では3つの臨床試験を行った。
1.慢性呼吸不全または準呼吸不全患者を対象に二重盲検容量比較試験を実施した。グレリンを1μg/kgと2μg/kgの2群の投与量に割付けし、朝夕2回3週間経静脈的に投与し、QOLスコア(SGRQ)と運動耐容能を主要評価項目として評価した。
2.慢性閉塞性肺疾患患者を対象に二重盲検比較試験を実施した。グレリンを2μg/kgの実薬群と生理食塩水のプラセボ群に割付けし、朝夕2回3週間経静脈的に投与した。主要評価項目は運動耐容能(6分間歩行距離)を評価した。
3.慢性下気道感染症患者を対象に二重盲検クロスオーバー比較試験を実施した。グレリンを2μg/kgと生理食塩水の2群に割付けし、いずれかを朝夕2回2週間経静脈的に投与し、1週間の休薬後、実薬先行群には生食を、生食先行群には実薬を、朝夕2回2週間経静脈的に投与した。気道炎症の指標である痰量と痰中好中球を主要評価項目とした。
結果と考察
1.30症例がエントリーした。多施設二重盲検試験であるため、キーオープンまで評価項目の解析はできないが、全症例の平均で摂食量、体重、6分間歩行距離が増加しており、栄養状態、運動耐容能、自覚症状の改善が示唆された。
2.33症例がエントリーし、臨床試験を完遂した。6分間歩行距離、SGRQスコア、最大呼気圧が有意に改善しており、グレリン投与に伴う重篤な有害事象はなく、副作用の点から患者にとってグレリン投与は十分許容できる治療であった。
3.12症例がエントリーした。多施設二重盲検プラセボコントロール試験であるため、キーオープンまで結果の評価はできないが、重篤な有害事象は生じていない。
結論
平成22年度は新たに研究分担者を追加し、症例の集積を加速させた。慢性閉塞性肺疾患の運動耐容能に対する有効性検証試験は終了し、グレリン投与により運動耐容能と自覚症状の改善を認めた。残り2つの臨床試験は継続中で、円滑に遂行されている。

公開日・更新日

公開日
2011-09-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201015002B
報告書区分
総合
研究課題名
慢性呼吸不全に対するグレリンの臨床応用研究
課題番号
H20-トランス・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
中里 雅光(宮崎大学 医学部 内科学講座 神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 前倉 亮治(独立行政法人国立病院機構 刀根山病院)
  • 木村 弘(奈良県立医科大学 内科学第二講座)
  • 福原 俊一(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻医療疫学分野)
  • 迎 寛(産業医科大学医学部 呼吸器内科学)
  • 相良 博典(獨協医科大学越谷病院 呼吸器内科)
  • 岩永 知秋(独立行政法人国立病院機構 福岡病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カヘキシアを来した慢性呼吸器疾患に対するグレリン治療の確立を目的として、1つの用量探索試験と2つの検証試験を施行した。
研究方法
1)慢性呼吸不全を対象に二重盲検容量比較試験を実施した。2または4μg/kg/日のグレリンを3週間経静脈的に投与した。6分間歩行試験の歩行距離(6MWD)とQOLスコア(St George's Respiratory Questionnaire, SGRQ)を評価した。
2)慢性閉塞性肺疾患患者を対象に二重盲検比較試験を実施した。グレリンまたはプラセボを3週間経静脈的に投与した。6MWDとSGRQを評価した。
3)慢性下気道感染症患者を対象に二重盲検クロスオーバー比較試験を実施した。グレリンまたはプラセボを1週間の休薬をはさんで2週間ずつ投与した。痰量と痰中好中球を評価した。
結果と考察
慢性呼吸不全の運動耐容能に対する用量探索試験では44例がエントリーした。6MWDは、低用量群で試験前255mから投与終了1カ月後で309mへと増加、高容量群でも開始前323mから372mへと増加した。低用量、高容量群ともに前値に比較して終了1カ月で有意に延長していた。SGRQについては高用量群でのみTotalスコアと下部尺度であるImpactが開始前に比較して有意に改善した。慢性閉塞性肺疾患の運動耐容能に対する有効性検証試験では33症例がエントリーした。6MWDはプラセボ群で試験前315m、投与終了1カ月後で18m増加していた。グレリン群では開始前328mで、投与終了1カ月後で47m増加していた。グレリン群では試験前に比較して終了1ヶ月後で有意に延長していた。SGRQの下部尺度であるSymptomsではグレリン群でプラセボ群に比較して有意に改善を認めた。慢性下気道感染症の気道炎症抑制に対する有効性検証試験では14症例のエントリーを得た。本臨床試験は高度医療評価制度へ申請し、研究継続の方針とした。
結論
慢性閉塞性肺疾患と慢性呼吸不全を対象とした臨床試験を完遂し、運動耐容能と自覚症状改善、摂食量増多の可能性が示唆された。今後は、呼吸不全におけるグレリンの臨床効果をより高いレベルで検証するとともに、さらに有効な適応病態を解明して、企業との連携による特許申請や薬事承認へ向けた申請を目指す。

公開日・更新日

公開日
2012-05-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201015002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究はグレリンの発見からその機能解析、臨床応用へとトランスレーショナルリサーチを推し進めてきた研究者らが、有効な治療法の乏しい病態の治療法開発に取り組み、医師主導臨床試験を遂行するもので、独創性の高い研究である。本研究では、カヘキシアを来した慢性呼吸不全患者において、グレリンの多彩な生理作用が運動耐容能や自覚症状の改善に有効であり、QOL改善に利することを実証した。この成果は呼吸不全だけでなく、様々な病態のカヘキシアに応用できることが期待される。
臨床的観点からの成果
慢性閉塞性肺疾患の運動耐容能に対する有効性検証試験では、運動耐容能と自覚症状の改善を認めた。特に6分間歩行試験は投与終了1カ月後において、グレリン群では有意に歩行距離の延長効果を維持していた。これらの結果はPLoS ONEなどの雑誌に掲載された。慢性呼吸不全の運動耐容能に対する用量探索試験では、運動耐容能は高用量と低用量グレリン群間で有意差は認めなかったが、自覚症状は高用量群で良好な傾向であった。両臨床試験を通してカヘキシアを伴った慢性呼吸不全患者におけるグレリンの効果を立証した。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
慢性下気道感染症の気道炎症抑制に対する有効性検証試験を高度医療評価制度へ申請した。グレリンの臨床応用を混合診療のもとにより広く推し進めていきたいと考えている。
その他のインパクト
本研究の成果により、グレリンの生理作用がより広い病態に適応できると期待された。厚生労働科学研究費補助金 第3次対がん総合戦略研究事業に申請し、「癌医療におけるグレリンの包括的QOL改善療法の開発研究」として新たな事業を開始した。

発表件数

原著論文(和文)
55件
原著論文(英文等)
88件
その他論文(和文)
17件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
90件
学会発表(国際学会等)
39件
その他成果(特許の出願)
1件
特願2008-88324号 発明名称:グレリン及びその誘導体又は成長ホルモン分泌促進因子レセプター1aアゴニストを有効成分とする慢性呼吸器感染症治療剤
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201015002Z