ハイブリッド人工肝の実験的治療効果評価に基づいた総合的・基盤的研究

文献情報

文献番号
199700756A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイブリッド人工肝の実験的治療効果評価に基づいた総合的・基盤的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
雨宮 浩(国立小児病院)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻川宣男(国立精神神経センター)
  • 児玉亮(産業技術融合領域研究所)
  • 菅健一(大阪大学)
  • 松村外志張(明治乳業)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(治療機器等開発研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
80,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
機能が損なわれた臓器に対する臓器置換治療として、臓器移植、人工臓器、ハイブリッド人工臓器が挙げられる。この中で、ハイブリッド人工臓器は、供給、品質の安定性において移植に勝り、物質代謝の選択性、効率性においては人工臓器より優れると期待されている。本研究は以下の2要素から構成される。すなわち、1)体外循環型ハイブリッド人工肝モジュールの開発、2)バイオリアクター細胞の改良、である。本研究では、官・学・産が、動物実験及び臨床・細胞材料・無機材料という各専門分野を生かし開発をめざす。
モジュールとして多くの研究者が用いる中空糸型は基本的に体外循環装置を流用したものであり、細胞の培養環境としては優れるものと言い切れない。そこで我々は物質生産用として実績のある回流式培養装置を基礎に新規なモジュールを開発する。一方、バイオリアクター細胞の改良では、本研究の特長として幹細胞様性質を示すブタ未熟肝細胞やヒト羊膜細胞の応用を検討している。また、必要とする機能を遺伝子工学的に細胞に組込み、人工的に特定機能を付加・強化した細胞を開発している。最近、ブタにおいて、ヒトに感染能力のあるレトロウィルスが存在するとの報告があり、ブタ細胞のヒトへの応用が懸念されている。当グループがめざす人工細胞こそハイブリッド人工肝に適する安全なリアクターになると期待される。
ハイブリッド人工肝は既に欧米で臨床治験の報告がなされている。しかしながら、それらの報告では現代の最新医療技術より本当に優れているかという観点からの評価が欠如し、新医療技術としての有効性は未知である。本研究では、まず、標準化された評価法を確立し、ハイブリッド人工肝の未知の可能性を明確にする。人工材料の発達は近年めざましく、一方、肝細胞の生理、病理についても非常に多くの知識の集積がなされている。この好機に、正確な動物実験からのフィードバックを得て、ハイブリッド人工肝の将来性について確固たる結果を生み出したいと考える。
研究方法
回流式培養装置(明治乳業製)には焼成処理済ガラス繊維(3000cm2)を装着し、培養に用いた。ブタ肝細胞は10^10個を播種し、16時間経過後に培地の供給(1l/日)と人工肺への培地循環を開始し、以後5日間培養した(5%FCS添加William's E培地使用)。GS-CHO細胞は10^8個を播種し、3日後に培地供給(1l/日)と人工肺循環を開始し以後28日間培養した(5%FCS添加RDF培地使用)。肝実質細胞は家畜ブタ(体重10kg前後)を用い、コラゲナーゼ灌流法によって得た。GS-CHO細胞は大阪大学菅研究室(本研究事業分担研究者)より供与を受けた。ブタ肝障害モデルは同じく同じく家畜ブタ(体重20kg前後)を用い、吸入麻酔下で門脈‐下大静脈シャントを形成後、門脈と肝動脈を結紮して肝血流を遮断した。その他、ヒト羊膜細胞に関する研究は国立精神神経センター櫻川部長(分担研究者)との共同研究、ブタ未熟肝細胞に関する研究は産業技術融合領域研究所児玉グループ長、常磐研究員(分担研究者)との共同研究、薬物受容体(Multidrug resistance protein, MRP)導入細胞に関する研究は自治医科大学臨床薬理学藤村教授、鶴岡助手の研究協力によって行った。
結果と考察
物質生産用の回流式培養装置はすでに培養ヒト肝細胞株を長期(6カ月以上)にわたり高密度培養することにより、工業的な物質生産に供しており、大型のリアクターではヒト全肝の実質細胞より多くの細胞を取り扱う実績も有している。さらに構造的に故障が極めて少ない等、人工肝リアクターとしての必要条件を満たす特性がある。また、肝細胞のように接着型動物細胞の培養では細胞の接着基材の良否が、生存率や分化機能維持に影響する。当グループでは、人工血管の基材として安全性が確認されているePTFEが、肝細胞を含め接着型動物細胞の維持、培養に優れることを見出しており、現在、種々の表面処理を行い、ブタ肝細胞を培養した。細胞は播種後一日でガラス繊維膜に接着し、翌日からのアンモニア負荷試験で良好な除去活性を示した。また、大阪大学にて樹立されたグルタミン合成酵素導入CHO細胞を同装置に播種・増殖させアンモニア代謝機能を測定し、細胞の増殖過程と同機能の関係を調べ、培地中アンモニア濃度を持続的に低下させ、また、高濃度を負荷した場合は速やかに低下させた。このKineticsは以前に静置培養で得られた除去速度とほぼ一致した。物質生産用の回流式培養装置はすでに培養ヒト肝細胞株を長期(6カ月以上)にわたり高密度培養することにより、工業的な物質生産に供しており、大型のリアクターではヒト全肝の実質細胞より多くの細胞を取り扱う実績も有している。さらに構造的に故障が極めて少ない等、人工肝リアクターとしての必要条件を満たす特性がある。また、肝細胞のように接着型動物細胞の培養では細胞の接着基材の良否が、生存率や分化機能維持に影響する。本装置の改良型を3基制作しそれぞれ細胞培養と体外循環に適合させるよう検討を加えている。
人工肝リアクターの基本構成細胞材料としてブタ肝実質細胞を用いているが、これを生存率90%以上で10^10個以上の細胞を安定して調製できるようになった。また、肝機能付加のモデル系としてアンモニアをグルタミンに代謝するグルタミン合成酵素をCHO細胞あるいはHepG2細胞に導入、遺伝子増幅の結果、培地中アンモニアを除去する活性を細胞に与えることができた。同機能は初代培養肝細胞の約1/5の活性となった。一方、ブタ肝より実質細胞の他に未熟肝細胞と考えられる細胞集団が分離され、培養経過とともに薬物代謝活性等の肝機能が出現することがわかった。一方、ヒト試料として比較的問題なく入手できる羊膜細胞が、神経細胞に分化するだけでなく、肝細胞様の機能を発現しうることがわかった。培養経過とともに大型の細胞が出現しその胞体がアルブミン陽性に染色されること、培地として冨栄養のWilliam's E培地が増殖に適することが確認された。
国立小児病院では、平成4年より国内外の細胞バンクより肝細胞株32種を入手し、肝固有機能(アンモニア代謝機能、薬物代謝機能)を仔細に調べた。その結果、現状では不死化した肝細胞株には十分な肝機能を期待できないことがわかった。そこで積極的に機能を付与するために、大阪大学応用生物化学菅研究室との共同で、肝機能付加のモデル系としてアンモニアをグルタミンに代謝するグルタミン合成酵素をCHO細胞に導入、遺伝子増幅の結果、培地中アンモニアを除去する活性を細胞に与えることができた。現在、この機能は初代培養肝細胞の約1/5の活性となった。また、さらに薬物代謝酵素、ビリルビン代謝酵素などの導入をCHO細胞の他、肝細胞株(HepG2)に行っている。一方、ラット肝上皮幹細胞の候補として吉里のグループで研究が進んでいる小型肝細胞と類似した性質を有する細胞が、産業技術融合領域研究所において屠殺ブタの肝から未熟肝細胞として取り出すことができるようになった。これらの細胞について長期間利用可能なバイオリアクターを目標として研究を進めている。さらに、ヒト試料として比較的問題なく入手できる羊膜細胞が、神経細胞に分化するだけでなく、肝細胞様の機能を発現しうることがわかり(櫻川他、第40回日本先天代謝異常学会(会長推薦発表、投稿準備中)、新たな細胞リアクターとして応用すべく研究を行っている。
ブタを用いた肝障害モデル実験と血液濾過及び透析の体外循環実験を行って肝障害の病態を解析し、ハイブリッド人工肝の機能評価をすべき時期を検討した。術後6時間より肝障害に特有な病態(血液生化学検査値の変化、血液凝固異常等)が顕在化した。さらに時間が経過すると循環動態が体外循環に耐えられないレベルに落ちてしまった。また、体外循環(15ml/分)施行後3時間を越すと急速に血圧など生理機能が低下することがわかった。
動物実験に関連した研究状況では、主にハイブリッド人工肝の機能評価をすべき時期を検討している。門脈‐下大静脈シャント形成後6時間より肝障害に特有な病態(血液生化学検査値の変化、血液凝固異常等)が顕在化し、さらに時間が経過すると循環動態が体外循環に耐えられないレベルに落ちてしまう。従って、肝への血流遮断後6時間が人工肝の評価に適しているものと考えられた。体外循環の施行時間についても検討中であり、3時間を越すと急速に血圧など生理機能が低下することがわかった。また、体外循環の流速、濾過圧などの因子についてもデータを集積し、治療法の最適化を進めている。
結論
回流式培養装置にブタ分離肝細胞並びに遺伝子組み替えGS-CHO細胞を培養し、アンモニア除去活性を確認できた。一方、ヒト羊膜細胞、ブタ未熟肝細胞が培養経過とともに肝機能を発現することがわかった。家畜ブタを用い、高生存率の10^10個レベルの肝細胞を分離できるようになり、また肝不全モデルとしての肝虚血モデルの病態について解析した。

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