腹膜播種巣を標的とする抗がん剤担持ヒアルロン酸ナノゲルとその徐放システムの開発

文献情報

文献番号
201011034A
報告書区分
総括
研究課題名
腹膜播種巣を標的とする抗がん剤担持ヒアルロン酸ナノゲルとその徐放システムの開発
課題番号
H22-低侵襲・若手-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 大知(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木幸光(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 北山丈二(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 石神浩徳(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 山口博紀(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(低侵襲・非侵襲医療機器(ナノテクノロジー)研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 我国の死亡原因の上位を占める胃がんの死亡原因で最も多いのが腹膜播種である。腹腔中で播種巣が広範に分布することから、化学療法が期待されるが、抗がん剤の静脈・経口投与は薬剤の腹膜・腹腔移行性が低い。これに対して直接的に腹腔に抗がん剤を注入する腹腔投与ルートの有効性が研究分担者・北山らによりPhaseⅡ臨床試験で示された。しかし疎水性タキソールは有効であるのに対して、シスプラチン(CDDP)などの親水性抗がん剤は腹腔からのクリアランスが速く、動物実験レベルでも効果が十分でない。一方で研究代表者・伊藤らは、腹膜癒着防止材料として、腹腔鏡下投与可能なin situ架橋ハイドロゲルの開発を行ってきた。in situ架橋ハイドロゲルは腹膜癒着防止を行いながら、CDDPの腹腔停留性を改善できる可能性がある。

研究方法
 本研究ではヒアルロン酸に二座配位子を新たに修飾して、高濃度で長時間CDDPを担持しつつ、CDDP架橋により自己組織化的に組みあがるヒアルロン酸(HA)ナノゲルを新たに開発する。さらにクリックケミストリーを架橋反応に利用した担体in situ架橋ゲルを新たに開発し、HAナノゲルの封入・徐放担体を新たに開発する。HAナノゲルを担体ゲルに封入したハイブリッドゲルのナノ構造と徐放挙動、制がん効果の関係を明らかにして材料システム設計を行い、CDDP腹腔内1週間徐放を可能にする、最適な剤形を確立する。
結果と考察
 CDDPを二座配位で担持しながら、これを架橋点として自己組織的に組みあがるHAナノゲルの創製に成功した。コントロールとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いたCDDP担持ナノゲルの作製にも成功した。さらにナノゲルからのCDDP徐放速度を制御しても、ナノゲルの腹腔停留時間の向上は別問題である。このためナノゲル封入担体としてカッパーフリークリック反応を生体内in situ架橋反応として用いる2液性のin situ架橋ハイドロゲルの創製に世界で初めて成功した。CDDP担持ナノゲルとも非特異的反応を起こさず、理想的なナノゲル封入担体となる可能性を秘めている。
結論
 本研究はナノゲル・in situ架橋ゲルのナノ構造制御によって目的を達成し、腹腔内で高い生体適合性を有するHAを利用することにより早い時期の臨床応用を可能にしながら、十分な新規性を有するシステムである。さらにがん細胞に多く発現するCD44とHAの相互作用を利用し、抗がん剤の副作用を低減する。将来イメージング技術・注入機器開発と連動してピンポイントに局所投与が可能なより非侵襲的なシステムへの発展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-09-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201011034Z