経口型抗がん剤のmetronomic dosingによる腫瘍内微小環境変化を利用した革新的siRNAデリバリー技術の開発とがん治療への応用

文献情報

文献番号
201011031A
報告書区分
総括
研究課題名
経口型抗がん剤のmetronomic dosingによる腫瘍内微小環境変化を利用した革新的siRNAデリバリー技術の開発とがん治療への応用
課題番号
H21-ナノ・若手-012
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
石田 竜弘(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(低侵襲・非侵襲医療機器(ナノテクノロジー)研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
siRNAを薬剤として利用する場合、その生体内動態を量的・空間的に制御することが重要である。100nm程の粒子径を持つナノキャリアは腫瘍内新生血管内皮の隙間を通過して腫瘍に集積するが腫瘍深部まで到達できない。この改善には、腫瘍内の3次元的空間を人為的に変化させる必要がある。本検討では、経口型抗がん剤(S-1)を繰り返し投与することで腫瘍内の微小環境を変化させ、siRNAの腫瘍移行性と腫瘍内拡散性の向上が期待できる革新的siRNAデリバリー技術の開発を目的として研究を行った。
研究方法
当該研究期間において、
①S-1の低用量頻回投与によるsiRNA・リポソーム複合体の腫瘍蓄積量・分布の変化、
②S-1 とsiRNA・リポソーム複合体の併用による抗腫瘍効果と安全性、
について主として検討した。
結果と考察
担がんモデルマウスを作成し、S-1の低用量頻回投与が静脈内投与したsiRNA・キャリア複合体の腫瘍移行性に与える影響についてさらに検討した。その結果、S-1非投与群と比較してS-1投与群でsiRNA・キャリア複合体の腫瘍移行性が約1.5倍向上している事を確認した。さらに、S-1処置により腫瘍内におけるキャリア複合体の分布領域が拡大し、腫瘍内にほぼ均一に行き渡っている事が分かった。これらに対して、他の臓器ではsiRNA・キャリア複合体の移行性変化は観察されなかった。
アポトーシスを誘導する事が確認されているsiRNA(anti-Argonaute2 siRNAおよびanti-Bcl-2 siRNA)をS-1と併用したところ、相乗的な抗腫瘍効果向上作用が観察された。siRNAの作用点は細胞質内であるが、膜不透過性のsiRNAは低分子薬物のように拡散によって腫瘍内を浸透したり膜透過することはできず、標的細胞および細胞内への送達はキャリアに依存している。S-1処置により複合体が腫瘍内にほぼ均一に行き渡るようになったことが、腫瘍組織内での均一な遺伝子抑制効果発現につながり、結果として高い抗腫瘍効果誘導につながったものと考えられる。
結論
S-1は大腸がん・胃がん・膵がん治療などで既に臨床応用されており、このS-1との併用によって、より腫瘍深部の細胞にsiRNAが導入され、薬効発現につながったことは、siRNAを用いたがん治療の実現に大きく貢献する新たな知見である。今後、このS-1のmetronomic dosingによる腫瘍内微小環境変化のメカニズムの解明を行うことで、S-1投与による腫瘍内の微小環境変化を理解し、この現象を最大限に生かしたsiRNAによるがん治療戦略の確立を試みる。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201011031Z