食品及び食品用容器包装に使用されるナノマテリアル等の新規素材の安全性評価に関する研究

文献情報

文献番号
202428011A
報告書区分
総括
研究課題名
食品及び食品用容器包装に使用されるナノマテリアル等の新規素材の安全性評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA1011
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 為広 紀正(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
  • 大野 彰子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 赤木 純一(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノマテリアル等の新規素材は、様々な用途での応用が期待される一方で、その特性による予想外の健康影響の可能性が指摘されている。また、我々の実験動物を用いたナノ銀の先行研究でもサイズによって暴露後の生体反応が異なることが明らかとなった (Cho et al, J Toxicol Pathol. 2018)。近年、欧州食品安全機関の意見書に基づき、欧州委員会は酸化チタン(E171)の食品への添加を禁止した。しかし、酸化チタンは食品添加物のみならず様々な用途で用いられており、一律の禁止措置によって混乱が生じている。本研究では、食品及び食品用容器包装用途に使用され、経口及び経皮等から暴露されるナノマテリアル等の新規素材について、安全性評価方法及び評価データ、並びに関連する国際動向情報を蓄積し、適切な毒性評価法の提案及び特性に応じた試験上の考慮事項等の整理を目的とした。
研究方法
本研究では、異なる結晶子径(6、30、180 nm)のTiO2粒子の90日間反復経口投与による生体影響を調べており、今年度は小腸パイエル板で見られたTiO2粒子の取り込みについて生理的意義を検討するとともに、その排出性について検討するためのラットを用いた反復強制経口投与実験を実施した。病理組織学的検査において観察されたTiO2粒子は数百nm以上の非ナノ粒子であり、ナノサイズ粒子は光学顕微鏡では観察できないため、パイエル板におけるナノサイズTiO2粒子の局在を電子顕微鏡により観察した。
また、酸化チタンCについて、経口から摂取した際の免疫系へ与える影響について検討するため、コントロール群(V群)、OVAを経皮感作したOVA群、ナノ酸化チタンCを経口投与しOVAを経皮感作したC群、経口免疫寛容を誘導しOVAを経皮感作したOT群、そして経口免疫寛容誘導時にナノ酸化チタンCを共存させOVAを経皮感作したOT+C群の5群を設定した。4週間に渡ってOVAの経皮感作を続け、その後、抗原のi.p.によりアナフィラキシー (能動的全身性アナフィラキシー)反応の惹起を行った。惹起後30分間、アナフィラキシー症状のスコアリング及び直腸内体温の測定を行った。また、惹起30分後の血清中のヒスタミン濃度を測定した。
さらに、安全性評価方法、評価データ、並びに関連する国際的な動向に関する情報を集積し、適切な毒性評価法の提案、および特性に応じた試験上の考慮事項を整理するため、初期評価的観点から免疫毒性に焦点をあて、2021年7月にEFSAが発行した“Guidance on risk assessment of nanomaterials to be applied in the food and feed chain: human and animal health ”の内容を中心に、欧州食品分野における免疫毒性に関する試験法や評価手法について調査を実施した。
結果と考察
100~200 nm程度のチタンがパイエル板のリンパ細胞内に認められた。さらに、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりパイエル板中のチタン元素分布のイメージング解析を行ったところ、投与群ではパイエル板全体にチタン元素の分布が検出された。TiO2の取り込みによる生体影響を検討するため、レーザーマイクロダイセクションによりパイエル板のRNAシークエンス解析を行ったところ、少数の遺伝子の発現変動が見られたものの、TiO2投与群に共通して変化する遺伝子はほとんどなく、免疫毒性などの有害影響を示唆する遺伝子発現変化はいずれの群でも見られなかったと結論した。
また、ナノ酸化チタンを経口ばく露の有無によって、免疫寛容による食物アレルギー症状の緩和効果に有意な変化は認められなかった。一方、ナノ酸化チタンの経口摂取により、T細胞からのIL4やIL17産生が抑制される可能性が示された。これらの結果を踏まえ、今後もナノ酸化チタンの経口ばく露が免疫系に及ぼす影響について、モデルマウスを用いた免疫応答を中心としたさらなる科学的知見の集積が必要であると考えられた。
現時点では経口曝露後の高感受性個体におけるアレルギー反応誘発能を評価するための、実験動物を用いた信頼性の高いデータや検証済みの研究が存在しない点を指摘していた。しかしながら、ナノマテリアル自体が潜在的なアレルゲン(タンパク質、ペプチドなど)の場合、あるいは既知のアレルゲン分子の残基を含む場合には、アレルゲン性評価において遺伝子組み換え作物の評価に関するEFSAガイダンスで示された原則を適用すべきであると提言されていた。
結論
これまでの検討では、TiO2粒子の取り込みによるパイエル板での免疫毒性及び食物アレルギーモデルにおける経口免疫寛容に対してナノ酸化チタンの経口ばく露による明らかな影響は認めなかった。

公開日・更新日

公開日
2025-10-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-10-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
202428011Z