「昆虫食」における大規模生産等産業化に伴う安全性確保のための研究

文献情報

文献番号
202428010A
報告書区分
総括
研究課題名
「昆虫食」における大規模生産等産業化に伴う安全性確保のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA1010
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
志田 静夏(齊藤 静夏)(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 為広 紀正(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
  • 登田 美桜(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
10,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昆虫食において懸念されるハザードとしては有害元素、農薬、ダイオキシン類、微生物、マイコトキシン、アレルゲン等がある。EU等の諸外国ではこれらを対象に養殖昆虫の安全性評価が行われているが、我が国においてはほとんど調査が行われておらず、昆虫食の安全性に関する科学的知見は限られている。本研究では以下の4課題に取り組むことで、国内に流通する昆虫食の安全性について総合的に調査し、昆虫食全般のリスク管理を検討する際の基礎的データを提供することを目的とする。
課題1:有害化学物質の分析法開発及び汚染実態調査
課題2:微生物・マイコトキシンの汚染実態調査及びリスク評価
課題3:昆虫食のアレルゲン性に関する検討
課題4:諸外国の規制等の文献調査
研究方法
課題1:分析法の性能評価試験を実施した後、有害元素については63検体、農薬については50検体の汚染実態調査を行った。
課題2:培養法・分子生物学的手法・質量分析法を用いた分析法の改良を行った。真菌・細菌については31検体、マイコトキシンについては35検体の汚染実態調査を行った。
課題3:昆虫食に含まれるタンパク質の中に甲殻類のトロポミオシン抗体が認識するタンパク質が存在するかを検証し、昆虫食の甲殻類アレルギーに対する交差反応性について解析した。甲殻類アレルギー患者の血漿に昆虫食成分と反応するIgE抗体が含まれているかについて検討した。
課題4:諸外国の規制機関が公表している昆虫食に関する情報等を収集し、特にハザード情報や新たに策定された関連規制の情報に着目して、昆虫食の安全性の考え方について検討した。
結果と考察
課題1:63検体について有害元素の汚染実態調査を行った結果、最大値はカドミウム6.88 ppm、鉛13.56 ppm、ヒ素17.45 ppm、水銀0.963 ppmとなり、一部の検体で高値を示した。50検体について農薬の汚染実態調査を行った結果、9検体から定量限界以上の農薬(延べ20農薬)が検出された。このうち、4検体から0.01 ppmを超える農薬(延べ6農薬)が検出されたが、いずれの検体も乾燥品であり、原材料の水分含量等が不明であったため、一律基準を超過しているか否かについては判定できなかった。
課題2:細菌・真菌については、Bacillus属、Staphylococcus属菌が比較的高頻度・高濃度で分布しており、黄色ブドウ球菌やセレウス菌等の汚染リスクに留意する必要があることが示唆された。また迅速・簡便な細菌叢把握手法としてNGS法が有用であることを確認した。マイコトキシンについては、2製品からアフラトキシンB1が、4製品からデオキシニバレノールが検出された。寄生虫については、リアルタイムPCR法を用いて、赤痢アメーバおよびフォーラーネグレリアを低濃度でも検出することが可能であることを示した。しかし、トキソプラズマ検出法についてはネガティブコントロールとなる検体が入手できず、検出法の評価が不可能であり、またトキソプラズマまたはその近縁種の製品への高頻度の混入の可能性が考えられた。昆虫食中でこれらの原虫が感染性を有したまま残存するか、これらがヒトに健康影響を及ぼす種かは不明であり、今後の情報収集が必要である。
課題3:公定検査法として定めている甲殻類アレルゲンの定量検査法(ELISA法)を用いて、昆虫食に含まれるタンパク質の交差反応性について検討した。昆虫の種類や加工度の異なる35検体を解析に供したところ、すべての検体において甲殻類トロポミオシン特異的抗体が認識するタンパク質が含まれていることを確認した。また、12種類の昆虫食製品について患者血漿との反応性を検討したところ、含有される成分が甲殻類アレルギー患者のIgE抗体と結合し、マスト細胞を活性化することが示された。
課題4: 2024年に発表されたシンガポールの昆虫規制の枠組みのほか、英国食品基準庁(FSA)の食用昆虫に関するリスクプロファイル、新規食品代替タンパク質中のアレルゲン検出方法に関するレビュー報告書等について調査を行い、安全性に関わる要点について整理した。
結論
課題1: 一部の検体で高濃度の有害元素が検出された。ヒ素及び水銀は化学形態により毒性が異なるため、高値を示した検体については化学形態別分析が必要であると考えられた。
課題2: 昆虫食の喫食による真菌・細菌・寄生虫の汚染を原因とした食中毒を防ぐためには、他の食品同様に、養殖や加工、保存、調理等の各工程の衛生管理の重要性が示唆された。
課題3: 本研究により得られた昆虫食の交差反応性に関する検討結果やヒトIgE抗体との反応性に関する検討結果は、甲殻類アレルギー患者の昆虫食による健康被害の防止につながる知見となると考えられる。今後、臨床学的にアレルゲンが与える影響について、さらなる科学的根拠を集積することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2025-10-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-10-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202428010Z