遺伝子治療基盤に関する研究

文献情報

文献番号
199700752A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療基盤に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松本 邦夫(大阪大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小清水右一(大阪大学医学部)
  • 小財健一郎(久留米大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、肝硬変、慢性腎不全といった慢性難治性臓器疾患に苦しむ人々の数は増加の一途をたどり、これら不治の病に苦しむ人々の病苦はもとより、その莫大な医療費は社会問題となっている。私達はHGF(hepatocyte growth factor : 肝細胞増殖因子)を世界に先駆けて発見・単離・クローニングし、HGFが肝臓、腎臓、肺など様々な臓器の再生因子であることを明らかにした。さらにリコンビナントHGFのin vivo 投与実験からHGFが肝硬変や慢性腎不全など難治性臓器疾患に対し強い発症防止・治癒作用をもつことを明らかにした。しかしながら、これら慢性臓器疾患へのHGF の臨床応用を目指す上ではHGF遺伝子を gene drug として用いる遺伝子治療法が最も有効と考えられる。本研究は肝硬変や慢性腎不全を標的としたHGF遺伝子治療法の基礎技術を確立することを目的とした。
研究方法
ヒトHGF cDNAに組み込んだ発現ベクターを構築した後、HVJ-リポソ-ムに封入後ラット筋組織に注射した。 筋組織におけるヒトHGFの発現を確認するとともに、血中HGFレベル、発現期間について基礎的解析を行った。一方、ラットにジメチルニトロサミン(DMN)を長期的に投与し肝硬変モデルを作成し、肝硬変ラット筋組織にHGF発現用HVJ-リポソ-ムを注射した。肝機能、肝組織におけるTGF-β発現、筋線維芽細胞、コラーゲン量、肝細胞アポト-シスなどを解析することによって、肝硬変に対するHGF遺伝子治療の有効性ならびにその作用機構を解析した。
結果と考察
ラット筋組織にHGF発現用HVJ-リポソ-ムを注射することによってヒトHGFを筋組織で発現させ、持続的にヒトHGFを血中に分泌させることに成功した。続いて、この生体内遺伝子発現法を用いて肝硬変に対する治療効果を解析した。ラットにジメチルニトロサミン(DMN)を長期的に投与すると、4週間後には肝組織において著しい線維成分の蓄積が認められ肝不全をともなう肝硬変が発症した。さらにDMN投与を継続すると7週目には全てのラットが肝不全により死亡した。これに対し、肝硬変ラットにDMN投与を継続しつつHGF遺伝子治療を実施したところ、肝硬変の著しい改善ならびに肝機能の改善が認められ、HGF遺伝子治療を施したラットは全例生存した。また、HGF遺伝子治療を行ったラット肝臓では肝硬変の引き金となるTGF-βの発現低下、筋線維芽細胞の減少、肝細胞アポト-シスの抑制、肝再生の促進が認められた。HGFはこれら複数の生理活性を介して、強い肝硬変改善作用を示したと考えられる。
肝硬変や慢性腎不全に対する根本的治療法は確立されておらず、これら疾患に苦しむ人々の数は増加の一途をたどり、その医療費は日本国内だけでも一兆円を超える。本研究においてはHGF遺伝子治療法によってラット肝硬変の治癒・改善に世界で初めて成功した。私達は既にHGF投与の安全性についても十分な知見を得ており、HGF遺伝子治療による肝硬変治療は再生医学に根ざした新しい治療法として強いインパクトを与えるものと考えられる。さらに私達はリコンビナントHGF 投与が慢性腎不全に対し治療効果のあることを明らかにしており、本研究で確立したHGF遺伝子治療法は慢性腎不全に対しても新しい治療法となるものと確信している。本研究では慢性難治性臓器疾患に対するHGF遺伝子治療の有用性と基礎技術の確立に初めて成功し、当初の目的を達成したものと考えている。
結論
HGF遺伝子をgene drugとして用いる遺伝子治療法は肝硬変に対して強力な発症防止、改善作用をもつ。本HGF遺伝子治療法は根本的治療法のない、不治の病とされる肝硬変に対する真に有効な新しい治療法になるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)