地方公共団体の児童虐待死事例の検証結果における再発防止策等の検討のための研究

文献情報

文献番号
202427018A
報告書区分
総括
研究課題名
地方公共団体の児童虐待死事例の検証結果における再発防止策等の検討のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA1501
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
増沢 高(社会福祉法人横浜博萌会 子どもの虹情報研修センター 研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 浩之(立正大学 社会福祉学部)
  • 伊藤 嘉余子(大阪公立大学 現代システム科学研究科)
  • 井出 智博(北海道大学大学院 教育学研究院)
  • 白井 祐浩(志學館大学 人間関係学部)
  • 満下 健太(静岡大学 未来創成本部)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地方公共団体が行った虐待による死亡事例に関する検証報告書には、死亡に至った課題や取り組みの改善策等の提言が示されているが、長年に渡って繰り返し指摘される課題や提言がある。本研究は、それらが指摘され続けている理由や解決できない障壁を明らかにし、地域の児童虐待防止対応における有効な改善策を見出すことを目的とする。
本研究は、以下の3段階で進める。
第1段階:国および地方公共団体による死亡事例に関する検証報告書や死亡事例に関する先行研究等の分析を通して、対応上の課題等を整理する。
第2段階:児童相談所と市町村の実務経験者(10年以上のエキスパート)に半構造化面接を行い、現状課題と改善が進まない背景要因と解決策について仮説を見出す。
第3段階:第2段階を踏まえて児童相談所と市町村に質問紙調査を行い、背景要因を明らかにし、解決策を提示する。
 本年度は、主に第2段階の研究を行った。
研究方法
テーマ4:昨年度の研究(テーマ3)に引き続き、2008年度から2022年度までに報告された地方公共団体による児童虐待死亡事例検討報告書を対象にした包括的な分析を行った。分析可能な検証報告書のデータ全体を用いて、コード化を通じた量的分析と、計量テキスト分析という二つの方法を通して、報告書(課題と提言)に現れる典型的な特徴や記述を明確にすることに取り組んだ。
テーマ5:児童相談所と市町村(児童福祉及び母子保健)に長年に渡って従事されてきたエキスパート(全16名)に半構造化面接を行い、死亡事例の検証等で何度も指摘されている課題が克服されていかない背景や障壁となっている要件等について、明らかにしようと試みた。
テーマ6:テーマ5で行ったエキスパートに対するインタビュー調査の記録を基にして、そうしたエキスパートがどのような実践知を得てきたのかについて、テキストマイニングの手法を用いてその全体像を理解することを試みた。

結果と考察
テーマ4【結果】: 課題の分析からは「関係機関の情報共有」「アセスメントの必要性」「児童相談所の対応」「支援の必要性」「一時保護解除」「検討会議」「本児の状況把握」といった7つが典型的な課題として存在することが示唆された。また、提言の分析からは「関係機関の連携」「会議開催」「職員の専門性向上」「役割分担の明確化」「体制構築」「児童相談所の対応」「子ども・家庭支援」「児童福祉司の配置」といった8つが典型的な提言として存在することが示された。報告書の年度との相関分析からは「関係機関の情報共有」や「アセスメントの必要性」といった課題は年々増加傾向にあり、虐待相談件数の増加と関係している可能性が示された。
 テーマ5【結果】: 面接から得られた問題や障壁として、次の点が浮き彫りになった。1つ目は検証報告そのものの問題である。それは子どもの成育歴等の情報が、検証の場で扱われていないこと、および検証がその後の専門性向上等に活かされていないこと、自治体他の研修等で十分に活用されていないことである。2つ目は、対応機関が、優先すべき安全確認や注意喚起などに終始し、支援の後退を招いていること、3つ目は、アセスメントが十分でない背景にある組織上の問題である。そこには、情報入手機能の弱さ、発言をためらう権威勾配的な組織文化やリーダーの姿勢の問題、援助方針会議の質的低下、スーパーバイザーの不足、支援者の異動時の問題などである。4つ目は本来支援を中心にすべき市町村において注意喚起等の指導的対応が中心となる懸念、および児童福祉と母子保健との一体的運営には組織文化やリーダーの姿勢が重要であることが示唆された。
テーマ6【結果】:児童相談所、市町村福祉課、母子保健のエキスパートは、それぞれ異なる立場から児童虐待死亡事例の防止に取り組んでいるが、共通する課題として関係機関の連携強化、リスク判断の向上、検証報告書の活用を重視している点が示された。児童虐待の深刻化を防ぐためには、各機関が緊密に連携し、適切な情報共有を行うこと、リスクアセスメントの精度向上や検証報告を支援の質向上につなげる取り組みが必要である。一方、児童相談所は職員の専門性向上や判断力強化を、市町村福祉課は検証報告書を基に課題を整理し適切な対策を講じることを、母子保健では虐待の予防と早期発見を重視して福祉や精神科医療との連携強化が課題とするなど、それぞれの立場によって重きを置く点が異なることも示唆された。

結論
課題が解決できていかない背景に、安全確認や注意喚起が中心となって、支援の後退を招いていること。また援助方針会議での協議の不十分さが窺われ、その背景には権威勾配的な組織文化やリーダーシップの問題が潜んでいることが示唆された。また自治体間や機関間協働においても互いの力関係が支障となっていることが示唆された。この点への検討を深めていくことが重要となろう。

公開日・更新日

公開日
2025-09-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-09-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
202427018Z