ドナーミルクを必要とする児に普及するために必要なエビデンスを構築するための研究

文献情報

文献番号
202427012A
報告書区分
総括
研究課題名
ドナーミルクを必要とする児に普及するために必要なエビデンスを構築するための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA0901
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
水野 克己(学校法人昭和医科大学 医学部小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井 基一郎(亀田総合病院 新生児科)
  • 和田 友香(佐野 友香)(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科)
  • 谷 有貴(辻本 有貴)(奈良県立医科大学 医学部)
  • 新藤 潤(東京都立小児総合医療センター 新生児科)
  • 西巻 滋(横浜市立大学附属病院 臨床研修センター)
  • 田 啓樹(昭和医科大学 医学部)
  • 宮田 昌史(藤田医科大学 医学部小児科学)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
5,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)エビデンスの創設:
A) ヒストリカルスタディ:ドナーミルク(DHM)を利⽤して経腸栄養を標準化している施設を対象に、経腸栄養の標準化前後で治療を要する未熟児網膜症(ROP)、慢性肺疾患(CLD)、壊死性腸炎(NEC)の発⽣率及び在宅酸素療法(HOT)の導入率を後⽅視的に調査する。
B) ⼩児科学会ハイリスク新⽣児調査:2022年出⽣の超低出⽣体重児を対象としてDHMを含めた栄養管理が超低出⽣体重児のアウトカムに及ぼす影響について検討する。
C)本研究班データベース(DB)解析:DBから極低出⽣体重児を抽出し、DHM利⽤による経腸栄養開始時間と短期予後の関係を明らかにする。
D) バンクDBと新⽣児研究ネットワーク(NRNJ)データとの⽐較:⽇本におけるDMの使⽤実態およびその臨床的有効性を明らかにする。
E) DHMから人工乳に切り替える時期に関する検討:極低出生体重児におけるDHMから人工乳への切り替え時期と合併症との関連をDBから明らかにする。
2)レシピエント家族への⽀援に資する資材の作成:レシピエント家族が安⼼してDHMを使⽤できるようにするためには、妊婦および妊娠可能な⼥性とその家族に対して⺟乳バンクおよびDHMに対する正確な情報を伝える。
3)社会への啓発に資する情報の整理: もらい乳については、以前からも感染性の問題から使⽤されない⽅向にはあるが、未だにもらい乳を利⽤している施設もあるため、もらい乳使⽤に関する調査を通じてその実態を明らかにする。
4)運⽤⽅法の検討に資する情報収集:バンク利⽤施設を対象とした実態調査を⾏い、バンク利⽤施設における DHMの利⽤⽬的・利⽤状況・問題点、極低出⽣体重児の経腸栄養の現状を明らかにする。
5)基礎研究:現在は解凍後24時間まで使⽤可としているDHMを解凍後48時間まで安全に使⽤できるか明らかにする。
研究方法
バンクDBならびにNRNJDBを利⽤してA)C)D)E)をおこなった。B)は⼩児科学会新⽣児委員会が5年毎に⾏う調査に DHMを含む栄養項⽬を加えて短期予後への影響をみることとした。
2)レシピエント家族への⽀援に資する資材の作成:バンク利⽤施設からレシピエント家族にアンケートを⾏い、
解析した。
3)社会への啓発に資する情報の整理:安全性評価の⾯から、全国NICUにもらい乳に関するアンケートを⾏った。 4)運⽤⽅法の検討に資する情報収集:バンク利⽤施設を対象にアンケートを⾏った。
5)基礎研究:DHMとして利⽤可能なサンプルについて、解凍直後・24時間後・48時間後に培養検査と成分検査を⾏った。
結果と考察
1)エビデンスの創設:DHMによる経腸栄養の標準化で、経腸栄養の早期確⽴、静脈栄養期間の短縮、カテーテル関連⾎流感染症の減少、NECの減少が期待できる。修正34週以降までは⼈⼯乳ではなくDHMを利⽤することの利点が示唆された。B)については解析待ちである。
2)レシピエント家族への⽀援に資する資材の作成:出産前にDHMについて知っておきたかったという声がおおく、ついで安全性・管理が挙げられた。
3)社会への啓発に資する情報の整理: もらい乳利⽤施設は5施設と以前よりかなり減少した。バンクの必要性は 98.5%の施設が認めていた。
4)運⽤⽅法の検討に資する情報収集:DHMの対象としては早産・極低出⽣体重児以外にも⼼疾患・消化器疾患合併児も含まれていた。終了時期は各施設でばらつきがあった。
5)基礎研究:解凍後48時間でも臨床的に有意な違いはなく、北⽶⺟乳バンク協会と同様に⽇本でも解凍後48時間まで利⽤可能と考えられた。
結論
DHMを⽤いた⽣後24時間以内の経腸栄養開始は極低出⽣体重児において利点があり、また、修正34週以降までは⼈
⼯乳を使わないようにすることを標準化することが望まれる。現状では、経腸栄養管理について施設間差が⼤きく、本研究班のエビデンスを含めて⽇本におけるDHM使⽤に関するガイドラインの作成が必要と考えられた。また、社会全体に⺟乳バンクの意義・DHMの完全管理についてわかりやすく説明していくことも併せて必要と考えた。
今後、DHM利⽤がさらに増加すると予測され、できるだけ無駄なくDHMを利⽤できるよう運⽤基準の⾒直しを検討する。

公開日・更新日

公開日
2025-08-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-08-04
更新日
-

文献情報

文献番号
202427012B
報告書区分
総合
研究課題名
ドナーミルクを必要とする児に普及するために必要なエビデンスを構築するための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA0901
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
水野 克己(学校法人昭和医科大学 医学部小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井 基一郎(亀田総合病院 新生児科)
  • 和田 友香(佐野 友香)(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科)
  • 谷 有貴(辻本 有貴)(奈良県立医科大学 医学部)
  • 新藤 潤(東京都立小児総合医療センター 新生児科)
  • 西巻 滋(横浜市立大学附属病院 臨床研修センター)
  • 田 啓樹(昭和医科大学 医学部)
  • 宮田 昌史(藤田医科大学 医学部小児科学)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、⽇本におけるドナーミルク(DHM)の普及を促進するために、医療的・社会的エビデンスを多⾯的に構築することを⽬的とした。主な⽬的は以下の4点である。(1) DHMを⽤いた経腸栄養標準化による早産児・極低出⽣体重児の短期予後改善効果の検証、(2) レシピエント家族がDHMの安全性と利点を正しく理解できる⽀援資材の開 発、(3) 未利⽤施設や社会に対するDHMの啓発資料の整備、(4) 国際動向を踏まえた日本における安全で安定したDHMの供給体制の検討である。これらを達成するために、全国の医療機関データ、⺟乳バンクデータベース(DB)、新⽣児研究ネットワーク(NRNJ)データ、家族・施設へのアンケートなどを活⽤し、DHMの導⼊効果、安全性、利⽤実態を多⾓的に評価した。最後に、⽣後早期の超低出⽣体重児における使⽤量は少なく、解凍後に破棄するDHMが少なくないことから、貴重なDHMを有効に利⽤するため解凍後48時間まで利⽤できるかを検討した。
研究方法
本研究では、(1) 6施設によるヒストリカルスタディ、(2) ⽇本⼩児科学会による全国調査(2022年出⽣超低出⽣体重児対象)、(3) ⺟乳バンクDB登録症例(n=1,400超)とNRNJデータとの⽐較、(4) ⼈⼯乳への切替時期と合併症発症の関係解析を実施した。主要アウトカムは経腸栄養確⽴⽇数、静脈栄養期間、壊死性腸炎(NEC)、慢性肺疾患(CLD)、在宅酸素療法(HOT)、未熟児網膜症(ROP)などとし、線形回帰、ロジスティック回帰、多変量モデル、ベイズ推定を含む統計解析を⽤いた。DHM使⽤時期(出⽣24時間以内 vs. それ以降)やDHMから⼈⼯乳への切り替え時期についても検討した。さらに、DHM解凍後48時間の成分安定性と無菌性を検証するため、解凍直後・24時間後・48時間におけるDHMの成分分析・培養試験を⾏った。DHMの利用実態を明らかにするために、(5) レシピエント家族やDHM未利⽤施設を対象としたアンケート調査と、もらい乳実態に関するアンケート調査も実施した。
結果と考察
ヒストリカルスタディにおいて、DHM導⼊群は⾮導⼊群と⽐べて経腸栄養確⽴が平均4.4⽇早く、NEC・HOTリスクが低下した。ベイズ分析により、NEC発症オッズが97.5%以上の確率で低下することが⽰唆された。⺟乳バンクDB解析では、出⽣24時間以内にDHMを使⽤開始した群でカテーテル関連⾎流感染症(CRBSI)が有意に低く(OR=0.41)、静脈栄養期間も短縮した。DHMから⼈⼯乳への切替時期に関しては、修正34週以降の導⼊がCLD、 HOT、ROPリスクを有意に低下させた。また、DHMの対象は極低出⽣体重児だけでなく⼼疾患や消化器疾患を持つ児にも広がっていた。社会調査では、未利⽤施設の導⼊障壁として費⽤・導⼊⽅法不明・安全性懸念などが挙げられ、もらい乳使⽤は⼤幅に減少していたが、⼀部でトレーサビリティ不備の例が確認された。DHM解凍後48時間の成分安定性と無菌性も実験的に確認され、廃棄削減の可能性が⽰された。
結論
本研究は、DHMの早期使⽤が極低出⽣体重児における経腸栄養確⽴と重篤合併症の予防に有効であることを明⽰した。特に、出⽣24時間以内のDHM導⼊と修正34週以降の⼈⼯乳切替が良好な予後に寄与することが確認された。また、DHMの48時間保存による有効活⽤、社会的啓発の必要性、家族⽀援資材の整備、⼩規模施設への導⼊⽀援策の重要性も⽰された。日本における安全で安定したDHMの供給体制を検討していくために、WHOやEUの規制動向を踏まえた課題整理と、エビデンス蓄積の継続が求められる。DHMはNICUにおける早産児ケアの標準医療として、社会的理解と科学的根拠のもとに普及が期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-08-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-08-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202427012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ドナーミルク(DHM)利用者データベース(DB)を用いて検討した。施設間格差、データ記入漏れなどの問題点があったものの、生後早期からDHMを用いた経腸栄養開始は経腸栄養確立を早め、静脈栄養期間の短縮、壊死性腸炎、カテーテル関連血流感染症の減少につながることを示した。さらに、DHMから人工乳への切り替えは慢性肺疾患、在宅酸素療法、壊死性腸炎予防の観点から修正34週以降が好ましいことも明らかとなった。
臨床的観点からの成果
レシピエント家族に対する調査ではDHMについて妊娠中に知っておきたかったという声が多く聞かれた。DHM未利用施設に対するアンケートでは、母乳育児の利点についての理解が不十分である施設が散見された。また、もらい乳に関する利用状況を調査した結果、2014年よりも利用施設は減少したことも判明した。バンク利用施設に対する調査も実施し、DHMの適応は、在胎週数<28週、出生体重<1500gという回答が多かった。
ガイドライン等の開発
NICU入院児を対象とした経腸栄養ガイドラインとしてエビデンスに基づく NICU 入院児の⺟乳栄養戦略を本研究班でまとめた。⺟親の⺟乳を最優先とし、得られない場合はDHMを用いる標準的な経腸栄養法を整理した。早産・極低出生体重児では生後 24 時間以内に経腸栄養を開始し、増量は 10〜30 mL/kg/日が推奨される。
その他行政的観点からの成果
DHMを用いた経腸栄養の標準化による、早期の経腸栄養の確立、静脈栄養期間ならびにカテーテル関連血流感染症の減少、壊死性腸炎の減少は、早産・極低出生体重児の予後改善のみならず、NICUにおける働き方の改善にもつながる。研究で得られた医学的エビデンスを今後発展させることで、DHM導入による医療経済効果の検討も可能となる。
その他のインパクト
本研究班で得られたエビデンス等を踏まえ、東京都が都内のNICU全施設の年間契約費をサポートすることとなった。

発表件数

原著論文(和文)
4件
DHM利用によるエビデンスを発表
原著論文(英文等)
12件
DHMの安全性を中心に英文誌に報告した
その他論文(和文)
5件
母乳バンク・DHMについて総説を発表した
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
DHM利用による利点など単一施設からの報告がおおかった
学会発表(国際学会等)
9件
DHMの安全性についての基礎的検討を中心に発表した
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
長谷部義幸,水野克己,和田友香 他
ドナーミルクを使用した生後24時間以内の経腸栄養開始が超低出生体重児の短期予後に与える影響
日本母乳哺育学会雑誌  (2025)
原著論文2
Mizuno Katsumi
The Impact of Timing for Initiating Formula Feeding on the Short-term Prognosis of Very Low Birth Weight Infants
Global Pediatrics  (2025)
https://doi.org/10.1016/j.gpeds.2025.100259

公開日・更新日

公開日
2025-08-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
202427012Z