文献情報
文献番号
202427011A
報告書区分
総括
研究課題名
新規疾患の新生児マススクリーニングに求められる実施体制の構築に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA0801
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
但馬 剛(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 研究所 マススクリーニング研究室)
研究分担者(所属機関)
- 田島 敏広(自治医科大学 医学部 小児科学)
- 濱崎 考史(大阪公立大学 大学院医学研究科 発達小児医学)
- 知念 安紹(琉球大学 大学院医学研究科 育成医学講座)
- 沼倉 周彦(埼玉医科大学病院 ゲノム医療科/小児科)
- 小林 弘典(島根大学 医学部附属病院 検査部)
- 湯浅 光織(福井大学 学術研究院 医学系部門(附属病院部))
- 中村 公俊(熊本大学 大学院生命科学研究部 小児科学講座)
- 大石 公彦(東京慈恵会医科大学 医学部 小児科学)
- 小須賀 基通(国立成育医療研究センター 遺伝診療センター 遺伝診療科)
- 下澤 伸行(岐阜大学 高等研究院)
- 今井 耕輔(防衛医科大学校 医学教育部 医学科 小児科学講座)
- 山形 崇倫(栃木県立リハビリテーションセンター)
- 斎藤 加代子(東京女子医科大学 医学部)
- 竹島 泰弘(兵庫医科大学 医学部 小児科学)
- 木水 友一(大阪母子医療センター 小児神経科)
- 森岡 一朗(日本大学 医学部 小児科学)
- 窪田 満(国立成育医療研究センター 総合診療部)
- 鈴木 光幸(順天堂大学 医学部 小児科)
- 川目 裕(東京慈恵会医科大学附属病院 遺伝診療部)
- 金子 実基子(東京慈恵会医科大学附属病院 遺伝診療部)
- 倉澤 健太郎(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
- 中込 さと子(信州大学 医学部 保健学科 看護学専攻)
- 篠原 正和(神戸大学 大学院医学研究科 分子疫学分野)
- 此村 恵子(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター)
- 星野 絵里(国立成育医療研究センター 研究所 政策科学研究部 政策評価研究室)
- 田中 藤樹(国立病院機構北海道医療センター 小児科/小児遺伝代謝センター/臨床研究部)
- 和田 陽一(東北大学病院 小児科)
- 野口 篤子(秋田大学 大学院医学系研究科 小児科学)
- 入月 浩美(新潟大学 医歯学総合病院 ゲノム医療部 遺伝医療センター)
- 大澤 好充(群馬大学 医学部附属病院 小児科)
- 石毛 美夏(和田 美夏)(日本大学 医学部 小児科学)
- 味原 さや香(埼玉医科大学病院 小児科/ゲノム医療科)
- 中島 葉子(市原 葉子)(藤田医科大学 医学部 小児科学)
- 笹井 英雄(岐阜大学 大学院医学系研究科 小児希少難病早期診断・予防医学)
- 李 知子(兵庫医科大学 医学部 小児科学)
- 坊 亮輔(神戸大学 医学部附属病院 小児科)
- 香川 礼子(広島大学病院 小児科)
- 濱田 淳平(愛媛大学 大学院医学系研究科 小児科学)
- 井上 貴仁(福岡大学病院 総合周産期母子医療センター)
- 澤田 浩武(宮崎大学 医学部 看護学科)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
9,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
概要版(繰越課題)
研究目的
新たな検査法や治療法の実用化によって、新生児マススクリーニング(NBS)対象候補疾患が増加しているが、公的事業化の道筋が不明瞭な状況下、地域ごとに研究ないし自費検査として、様々な疾患セットのスクリーニングを始める動きが拡大を続けている。現状に関する情報を収集・評価し、社会実装するために必要な体制構築を推進する。
研究方法
①各疾患の新生児マススクリーニング(NBS)に関する情報収集と評価
ライソゾーム病(LSD), 副腎白質ジストロフィー(ALD), 原発性免疫不全症(PID), 脊髄性筋萎縮症(SMA), 先天性サイトメガロウイルス感染症(cCMV)について、各領域の専門学会・研究班と共同で調査を実施した。先天性胆汁酸代謝異常症については、NBS実施に先立って必要とされる準備作業を行なった。
②スクリーニング検査の精度管理手法の検討
定量PCR法による重症複合免疫不全症(SCID)・B細胞欠損症(BCD)・SMAスクリーニング検査の外部精度管理用血液濾紙検体を作製し、各検査機関の検査精度を評価した。
③遺伝カウンセリング体制に関する検討
研究班員を対象に国内各地域での現状調査を実施した。
④対象疾患の経済性評価
SCID・SMA・cCMV・ポンペ病について情報収集と評価を行なった。
結果と考察
①各疾患のNBSに関する情報収集と評価
1)LSD:各疾患を通じて偽陽性率が高くなっており、血液濾紙検体で蓄積物質を測定する二次検査法の併用が必要と考えられた。
2)ALD:NBS実施は19県まで増加した。国内陽性例の診断に必要な極長鎖脂肪酸分析と遺伝子解析を岐阜大学で保険診療として実施する体制を整えた。
3)PID:実証事業参加27都府県と任意検査実施20道府県を合わせて、全国ほぼすべての新生児が受検可能となった。2017〜2023年度の任意検査(中間解析)では、約90万新生児からSCID 9例とBCD 8例が発見されていた。
4)SMA:2023年度の新規症例に関する疫学調査で14例の情報が得られた。内訳:NBS発見9例(SMN2遺伝子3コピー7例、2コピー2例), NBS正常後に発症した1例, NBS未受検で発症した3例, 家族歴による出生前診断1例。SMN2遺伝子3コピー症例は発症者なし。SMN2遺伝子2コピーの2例は治療開始時には発症していたが、出生前診断例はSMN2遺伝子2コピーながら1歳7か月時で歩行可能となっていた。
5)cCMV: 2021〜2024年度に32,043人が濾紙尿によるNBSを受検し、74人(0.23%)の感染児が発見されていた。陽性児の受入体制を国内各地域の18施設で構築した。
6)先天性胆汁酸代謝異常症:血液濾紙検体の胆汁酸分析によるスクリーニング発見が可能であることを確認した。非保険診療として責任遺伝子解析の運用を開始するとともに、診断および重症度判定基準を作成し、指定難病認定の新規申請を行った。
②スクリーニング検査の精度管理手法の検討
SCID・BCD・SMAの各指標および内在性DNA(RNaseP)の各配列を組み込んだプラスミドを白血球除去血液に添加する方法で、外部精度管理に使用可能な血液濾紙検体を実用化した。これを用いて外部精度管理試験を2回実施し、各検査施設の精度は良好と評価された。
③遺伝カウンセリング体制に関する検討
前年度の予備的調査の結果、NBSに関する公的サイトでは、遺伝性疾患としての説明や遺伝カウンセリングに関する情報は提供されていないことが判明した。これを受けて今年度は、実際に新規疾患NBSを実施している本研究班員を対象として、遺伝カウンセリングを含むNBS実施体制の調査と患者向け説明資料の収集を開始した (継続中)。
④対象疾患の経済性評価
1) cCMV:医療経済評価に関する体系的レビューを実施し、論文として出版した。分析モデル構築に当たって、難聴のQOL値に関する国内データの取得を進める必要がある。
2) SCID:文献レビューの結果、自然史モデルとしてディシジョンツリーモデルを採用することとし、分析モデルの形状に当てはまるパラメーターの収集および医療費の算出方法について検討を進めている。
3) SMA:文献レビューでは多くの先行研究が報告されており、新たな研究報告も増えているため、分析モデルの検討を継続中である。実証事業データも含めて分析モデルを確定させる。
4) ポンペ病:乳児型ポンペ病の発見を目的とするNBSについて新規に分析モデルを構築したところ、増分費用効果費=5,700万円/QALYと算出され、「経済性に課題あり」という評価となった。さらに疫学情報等の収集を進めて分析精度を上げる必要がある。
新たな検査法や治療法の実用化によって、新生児マススクリーニング(NBS)対象候補疾患が増加しているが、公的事業化の道筋が不明瞭な状況下、地域ごとに研究ないし自費検査として、様々な疾患セットのスクリーニングを始める動きが拡大を続けている。現状に関する情報を収集・評価し、社会実装するために必要な体制構築を推進する。
研究方法
①各疾患の新生児マススクリーニング(NBS)に関する情報収集と評価
ライソゾーム病(LSD), 副腎白質ジストロフィー(ALD), 原発性免疫不全症(PID), 脊髄性筋萎縮症(SMA), 先天性サイトメガロウイルス感染症(cCMV)について、各領域の専門学会・研究班と共同で調査を実施した。先天性胆汁酸代謝異常症については、NBS実施に先立って必要とされる準備作業を行なった。
②スクリーニング検査の精度管理手法の検討
定量PCR法による重症複合免疫不全症(SCID)・B細胞欠損症(BCD)・SMAスクリーニング検査の外部精度管理用血液濾紙検体を作製し、各検査機関の検査精度を評価した。
③遺伝カウンセリング体制に関する検討
研究班員を対象に国内各地域での現状調査を実施した。
④対象疾患の経済性評価
SCID・SMA・cCMV・ポンペ病について情報収集と評価を行なった。
結果と考察
①各疾患のNBSに関する情報収集と評価
1)LSD:各疾患を通じて偽陽性率が高くなっており、血液濾紙検体で蓄積物質を測定する二次検査法の併用が必要と考えられた。
2)ALD:NBS実施は19県まで増加した。国内陽性例の診断に必要な極長鎖脂肪酸分析と遺伝子解析を岐阜大学で保険診療として実施する体制を整えた。
3)PID:実証事業参加27都府県と任意検査実施20道府県を合わせて、全国ほぼすべての新生児が受検可能となった。2017〜2023年度の任意検査(中間解析)では、約90万新生児からSCID 9例とBCD 8例が発見されていた。
4)SMA:2023年度の新規症例に関する疫学調査で14例の情報が得られた。内訳:NBS発見9例(SMN2遺伝子3コピー7例、2コピー2例), NBS正常後に発症した1例, NBS未受検で発症した3例, 家族歴による出生前診断1例。SMN2遺伝子3コピー症例は発症者なし。SMN2遺伝子2コピーの2例は治療開始時には発症していたが、出生前診断例はSMN2遺伝子2コピーながら1歳7か月時で歩行可能となっていた。
5)cCMV: 2021〜2024年度に32,043人が濾紙尿によるNBSを受検し、74人(0.23%)の感染児が発見されていた。陽性児の受入体制を国内各地域の18施設で構築した。
6)先天性胆汁酸代謝異常症:血液濾紙検体の胆汁酸分析によるスクリーニング発見が可能であることを確認した。非保険診療として責任遺伝子解析の運用を開始するとともに、診断および重症度判定基準を作成し、指定難病認定の新規申請を行った。
②スクリーニング検査の精度管理手法の検討
SCID・BCD・SMAの各指標および内在性DNA(RNaseP)の各配列を組み込んだプラスミドを白血球除去血液に添加する方法で、外部精度管理に使用可能な血液濾紙検体を実用化した。これを用いて外部精度管理試験を2回実施し、各検査施設の精度は良好と評価された。
③遺伝カウンセリング体制に関する検討
前年度の予備的調査の結果、NBSに関する公的サイトでは、遺伝性疾患としての説明や遺伝カウンセリングに関する情報は提供されていないことが判明した。これを受けて今年度は、実際に新規疾患NBSを実施している本研究班員を対象として、遺伝カウンセリングを含むNBS実施体制の調査と患者向け説明資料の収集を開始した (継続中)。
④対象疾患の経済性評価
1) cCMV:医療経済評価に関する体系的レビューを実施し、論文として出版した。分析モデル構築に当たって、難聴のQOL値に関する国内データの取得を進める必要がある。
2) SCID:文献レビューの結果、自然史モデルとしてディシジョンツリーモデルを採用することとし、分析モデルの形状に当てはまるパラメーターの収集および医療費の算出方法について検討を進めている。
3) SMA:文献レビューでは多くの先行研究が報告されており、新たな研究報告も増えているため、分析モデルの検討を継続中である。実証事業データも含めて分析モデルを確定させる。
4) ポンペ病:乳児型ポンペ病の発見を目的とするNBSについて新規に分析モデルを構築したところ、増分費用効果費=5,700万円/QALYと算出され、「経済性に課題あり」という評価となった。さらに疫学情報等の収集を進めて分析精度を上げる必要がある。
公開日・更新日
公開日
2025-08-01
更新日
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