血管内腔からがん組織への高効率・特異的移行を実現する革新的DDSの創成と脳腫瘍標的治療への展開

文献情報

文献番号
201011001A
報告書区分
総括
研究課題名
血管内腔からがん組織への高効率・特異的移行を実現する革新的DDSの創成と脳腫瘍標的治療への展開
課題番号
H20-ナノ・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
片岡 一則(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 伸宏(東京大学 大学院医学研究科)
  • 稲生 靖(東京大学医学部附属病院)
  • 狩野 光伸(東京大学 大学院医学研究科)
  • 西原 広史(北海道大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(低侵襲・非侵襲医療機器(ナノテクノロジー)研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膠芽腫(GBM)に代表される悪性脳腫瘍は、血液-腫瘍関門(BTB)が存在するために薬剤の集積性が著しく低下しており、その治療のためには従来型DDSのがん集積メカニズムであるEPR効果を超越した新しい薬剤のデリバリー戦略が必要である。そこで本研究では、高分子ミセル型DDSによる脳腫瘍への薬剤の送達効率を高めることを目的として、腫瘍血管内皮細胞特異的に結合し腫瘍移行性を高めることのできるリガンド分子のミセル表面への導入と腫瘍血管特異的に物質透過性を高めることのできる薬剤の併用の2つのアプローチに基づく悪性脳腫瘍に対する新規治療法の開発を目指している。
研究方法
最終年度となるH22年度は、ヘプチドリガンド導入DACHPt内包ミセルのGBMモデルに対する有効性を検証した。また、ヒトグリオーマの病理検体の腫瘍血管パターンの解析を行い、予後との相関性を検証した。さらに、上記の予後不良のグリオーマと同様な血管構造を有する腫瘍モデルとして、マウスGBM細胞の同所移植モデルを作製し、そのモデルに対して、DACHPt内包ミセルとTGF-β阻害剤の併用効果を検証した。
結果と考察
ヘプチドリガンドを導入したDACHPt内包ミセルは、GBMモデルにおいて、リガンドの導入により効果的に腫瘍組織に集積し、優れた治療効果を示すことが明らかになった。ヒトグリオーマの病理検体の腫瘍血管パターンの解析に関しては、肥厚血管が多く見られる症例で予後が不良となることが判明した。また、マウスGBM細胞の同所移植モデルに関しては、その血管構造を解析した結果、内皮細胞が周皮細胞で覆われた構造を有しており、造影剤の集積も少なく、より臨床におけるGBMに類似していることが示唆された。このモデルに対してDACHPt内包ミセルとTGF-β阻害剤の併用効果を検討したところ、ミセルのがん組織への集積性の向上とそれによる腫瘍縮小効果が認められた。
結論
以上のように最終年度となる本年度は、高分子ミセル表面へのリガンド分子の導入と腫瘍血管特異的に物質透過性を高めることのできる薬剤の併用の二つの方法の有効性を確認した。これらの研究成果は、悪性脳腫瘍に対する画期的な診断法ならびに治療法の確立に繋がるものと考えられ、国民医療水準の向上に大きく貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-08-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201011001B
報告書区分
総合
研究課題名
血管内腔からがん組織への高効率・特異的移行を実現する革新的DDSの創成と脳腫瘍標的治療への展開
課題番号
H20-ナノ・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
片岡 一則(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 伸宏(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 稲生 靖(東京大学医学部附属病院)
  • 狩野 光伸(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 西原 広史(北海道大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(低侵襲・非侵襲医療機器(ナノテクノロジー)研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膠芽腫(GBM)に代表される悪性脳腫瘍は、血液-腫瘍関門(BTB)が存在するために薬剤の集積性が著しく低下しており、その治療のためには従来型DDSのがん集積メカニズムであるEPR効果を超越した新しい薬剤のデリバリー戦略が必要である。そこで本研究では、高分子ミセル型DDSによる脳腫瘍への薬剤の送達効率を高めることを目的として、腫瘍血管内皮細胞特異的に結合し腫瘍移行性を高めることのできるリガンド分子のミセル表面への導入と腫瘍血管特異的に物質透過性を高めることのできる薬剤の併用の2つのアプローチに基づく悪性脳腫瘍に対する新規治療法の開発を目指している。
研究方法
3年間の研究を通じて、ヘプチドリガンド導入DACHPt内包ミセルを構築し、そのGBMモデルに対する有効性を検証した。また、ヒトグリオーマの病理検体の腫瘍血管パターンの解析を行い、予後との相関性を検証した。さらに、実際のヒトのGBMの組織構築を再現した正所性脳腫瘍モデルを構築し、そのモデルに対して、DACHPt内包ミセルとTGF-β阻害剤の併用効果を検証した。
結果と考察
ヘプチドリガンドを導入したDACHPt内包ミセルは、GBMモデルにおいて、リガンドの導入により効果的に腫瘍組織に集積し、優れた治療効果を示すことが明らかになった。ヒトグリオーマの病理検体の腫瘍血管パターンの解析に関しては、肥厚血管が多く見られる症例で予後が不良となることが判明した。また、ヒトのGBMの組織構築を再現した正所性GBMモデルに対してDACHPt内包ミセルとTGF-β阻害剤の併用効果を検討したところ、ミセルのがん組織への集積性の向上とそれによる腫瘍縮小効果が認められた。
結論
以上のように本研究では、当初計画に従って、悪性脳腫瘍の標的治療を実現するためのアプローチとして、(i)高分子ミセル表面への腫瘍血管からがん組織への移行性を高めるリガンド分子の導入と(ii)腫瘍血管特異的に物質透過性を高めることのできる薬剤の併用の二つの方法の有効性を実証することができた。これらの研究成果は、悪性脳腫瘍に対する画期的な診断法ならびに治療法の確立に繋がるものと考えられ、国民医療水準の向上に大きく貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-08-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201011001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、悪性脳腫瘍の血管構造に着目し、血管内皮細胞が周皮細胞で覆われた血管(すなわちGlomeruloid血管)が存在する場合に極めて予後がわるいことが確認された。これは、血管内腔からがん組織への移行性が著しく低下していることに起因しており、腫瘍血管特異的に結合するペプチドリガンドや内皮細胞の周囲細胞による被覆率を減少させる薬剤を用いることでDDSのがん組織への移行が高まることが示された。
臨床的観点からの成果
悪性脳腫瘍の診断法として、血管パターンに基づく新しい予後解析法を確立した。また、悪性脳腫瘍に対する新規治療法として、(1)DDSへの腫瘍血管からがん組織への移行性を高めるリガンド分子の導入と(2)腫瘍血管特異的に物質透過性を高める薬剤の併用の2つの治療戦略の有効性を明らかにした。これらの研究成果は悪性脳腫瘍に対する画期的な治療法の確立に繋がるものと考えられる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
本プロジェクトにおける研究成果が2010年9月15日付でCancer Research誌に掲載され、毎日新聞(夕刊)、日経産業新聞、日本経済新聞電子版で紹介された。また、2013年10月22日には米国化学会誌ACS Nanoへ研究成果が掲載され、こちらも朝日新聞、毎日新聞、共同通信などに於いて紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
21件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
195件
学会発表(国際学会等)
154件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
環状RGD配列含有ペプチドを含む抗癌剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-261225
発明者名: 片岡一則、西山伸宏、三浦裕
権利者名: 国立大学法人東京大学
出願年月日: 20121129
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
M.R. Kano, C. Iwata, K. Kataoka et al.
Comparison of the effects of the kinase inhibitors, Imatinib, Sorafenib, and TGF-β receptor inhibitor, on extravasation of nanoparticles from neovasculature
Cancer Science , 100 (1) , 173-180  (2009)
原著論文2
E. Johansson, A. Komuro, M.R. Kano et al.
Exogenous introduction of tissue inhibitor of metalloproteinase 2 reduces accelerated growth of TGF-β-disrupted diffuse-type gastric carcinoma
Cancer Science , 101 (11) , 2398-2403  (2010)
原著論文3
S. Kaida, N. Nishiyama, K. Kataoka et al.
Visible-drug delivery by supra-molecular nanocarriers directing to single-platformed diagnosis and therapy of pancreatic tumor model
Cancer Research , 70 (18) , 7031-7041  (2010)
原著論文4
H. Cabral, Y. Matsumoto, K. Kataoka et al.
Accumulation of sub-100nm polymeric micelles in poorly permeable tumours depends on size
Nature Nanotechnology , 6 (12) , 815-823  (2011)
DOI: 10.1038/nnano.2011.166
原著論文5
M. Rafi, H. Cabral, K. Kataoka et al.
Polymeric micelles incorporating (1,2-diaminocyclohexane)platinum (II) suppress the growth of orthotopic scirrhous gastric tumors and their lymph node metastasis
Journal of Controlled Release , 159 (2) , 189-196  (2012)
原著論文6
S. Deshayes, N. Nishiyama, K. Kataoka et al.
Phenylboronic acid-installed polymeric micelles for targeting sialylated epitopes in solid tumors
J. Am. Chem. Soc. , 135 (41) , 15501-15507  (2013)
DOI: 10.1021/ja406406h
原著論文7
Y. Miura, N. Nishiyama, K. Kataoka et al.
Cyclic RGD-linked polymeric micelles for targeted delivery of platinum anticancer drugs to glioblastoma through the blood-brain tumor barrier
ACS Nano , 7 (10) , 8583-8592  (2013)
DOI: 10.1021/nn402662d

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201011001Z