トランスクリプトソーム解析による医薬品の副作用機構の解明と、その副作用感受性診断、及び創薬への応用

文献情報

文献番号
201010004A
報告書区分
総括
研究課題名
トランスクリプトソーム解析による医薬品の副作用機構の解明と、その副作用感受性診断、及び創薬への応用
課題番号
H20-バイオ・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
水島 徹(熊本大学大学院 生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 星野 竜也(熊本大学大学院 生命科学研究部)
  • 大塚 雅巳(熊本大学大学院 生命科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の副作用、特に副作用感受性の個人差が臨床現場で大きな問題になっている。問題は、その副作用の発症機構が理解されていないため、新薬候補品の副作用、及び患者の副作用感受性を予測出来ない点である。そこで本研究で我々はトランスクリプトソーム解析を用いて医薬品の副作用の発症機構を解明し、新薬候補品の副作用、及び患者の副作用感受性を予測する方法を確立すると共に、副作用の少ない新薬開発の基盤を構築する。
 
研究方法
本研究で我々はこのモデルを用いて他の薬剤性間質性肺炎を起こす薬剤を検討し、このモデルで新薬候補品の間質性肺炎副作用を予測出来るかを検討する。一方、薬剤性間質性肺炎感受性に関与する遺伝子を同定し遺伝子多型解析を行い、患者の薬剤性間質性肺炎感受性を予測する方法の確立を目指す。さらに抗リウマチ薬、抗癌薬を有機化学的に修飾し、これら抗炎症タンパク質発現を抑制しないものを選択し、副作用の少ない医薬品の開発に繋げたい。また抗脂血症薬による横紋筋融解症など、臨床現場で問題になっている他の副作用に関しても、トキシコゲノミックス・データベース等を利用し同様の解析を進める。
結果と考察
今年度我々は、ゲフィチニブ(イレッサ)の間質性肺炎(肺繊維症)副作用に関する研究を行った。我々は、ゲフィチニブによる遺伝子発現変化の網羅的解析から、ゲフィチニブが熱ショックタンパク質(HSP)70(強力な細胞保護作用と抗炎症作用を持つ)の発現を強く抑制することを発見した。また我々はマウスを用いて、ゲフィチニブ依存に肺繊維化を起こす系(薬剤性間質性肺炎の動物モデル)を確立し、このモデルにおいてゲフィチニブ依存にHSP70の発現が抑制されること、及びHSP70過剰発現マウス(ゲフィチニブによるHSP70発現抑制が起こらないマウス)では、ゲフィチニブ依存の肺繊維化も見られないことを見出した。以上の結果は、ゲフィチニブはHSP70の発現を抑制することにより、間質性肺炎(肺繊維症)を起こすことを示唆している。
結論
今年度の研究により、臨床現場で大きな問題になっており、またこれまで全く分かっていなかったゲフィチニブによる間質性肺炎の発症機構が明らかになったことは大きな意味がある。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201010004B
報告書区分
総合
研究課題名
トランスクリプトソーム解析による医薬品の副作用機構の解明と、その副作用感受性診断、及び創薬への応用
課題番号
H20-バイオ・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
水島 徹(熊本大学大学院 生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 星野 竜也(熊本大学大学院 生命科学研究部 )
  • 大塚 雅巳(熊本大学大学院 生命科学研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の副作用、特に副作用感受性の個人差が臨床現場で大きな問題になっている。問題は、その副作用の発症機構が理解されていないため、新薬候補品の副作用、及び患者の副作用感受性を予測出来ない点である。そこで本研究で我々はトランスクリプトソーム解析を用いて医薬品の副作用の発症機構を解明し、新薬候補品の副作用、及び患者の副作用感受性を予測する方法を確立すると共に、副作用の少ない新薬開発の基盤を構築する。
研究方法
本研究で我々はこのモデルを用いて他の薬剤性間質性肺炎を起こす薬剤を検討し、このモデルで新薬候補品の間質性肺炎副作用を予測出来るかを検討する。一方、薬剤性間質性肺炎感受性に関与する遺伝子を同定し遺伝子多型解析を行い、患者の薬剤性間質性肺炎感受性を予測する方法の確立を目指す。さらに抗リウマチ薬、抗癌薬を有機化学的に修飾し、これら抗炎症タンパク質発現を抑制しないものを選択し、副作用の少ない医薬品の開発に繋げたい。また抗脂血症薬による横紋筋融解症など、臨床現場で問題になっている他の副作用に関しても、トキシコゲノミックス・データベース等を利用し同様の解析を進める。
結果と考察
最近我々は、ゲフィチニブによる遺伝子発現変化の網羅的解析から、ゲフィチニブが熱ショックタンパク質(HSP)70(強力な細胞保護作用と抗炎症作用を持つ)の発現を強く抑制することを発見した。また我々はマウスを用いて、ゲフィチニブ依存に肺繊維化を起こす系(薬剤性間質性肺炎の動物モデル)を確立し、このモデルにおいてゲフィチニブ依存にHSP70の発現が抑制されること、及びHSP70過剰発現マウス(ゲフィチニブによるHSP70発現抑制が起こらないマウス)では、ゲフィチニブ依存の肺繊維化も見られないことを見出した。以上の結果は、ゲフィチニブはHSP70の発現を抑制することにより、間質性肺炎(肺繊維症)を起こすことを示唆している。
結論
このように我々の研究により、これまでほとんど分かっていなかった薬剤性間質性肺炎誘導機構がかなり明らかになり、また我々の確立した動物モデルが有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201010004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
このように我々の研究により、これまでほとんど分かっていなかった薬剤性間質性肺炎誘導機構がかなり明らかになり、また我々の確立した動物モデルが有用であることが示唆された。
臨床的観点からの成果
現在、ゲフィチニブによる間質性肺炎の治療法はなく、予後が大変悪い。そこで本研究の成果から、HSP70誘導薬が治療薬になる可能性が考えられるので、今後検討を行いたい。具体的には、既に胃薬として臨床で使われており、かつHSP70を誘導するテプレノンの効果を我々が確立した動物モデルで評価し、効果がある場合は臨床研究へ進めていきたい。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
現在、薬剤性間質性肺炎の発症機構が分かっていないため、新薬候補品の副作用予測が出来ずに、臨床試験での失敗や薬害を生み出している。そこで本研究の成果から、HSP70の発現を抑制するかを試験管内で調べることにより、薬剤性間質性肺炎を起こす可能性を推測出来ると考えられるので、今後検討を行いたい。
その他のインパクト
本研究に関して、3年間で50以上の招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takehara, M., Makise, M., Takenaka, H.et al.
Analysis of mutant origin recognition complex with reduced ATPase activity in vivo and in vitro.
Biochem. J , 413 , 535-543  (2008)
原著論文2
Mima, S., Takehara, M., Takada, H.et al.
NSAIDs suppress the expression of claudin-2 to promote invasion activity of cancer cells.
Carcinogenesis , 10 , 1994-2000  (2008)
原著論文3
Ishihara, T., Tanaka, K., Tasaka, Y.et al.
Therapeutic effect of lecithinized superoxide dismutase (PC-SOD) against colitis.
J. Pharmacol. Exp. Ther , 328 , 152-164  (2009)
原著論文4
Tanaka, K., Suemasu, S., Ishihara, T.et al.
Inhibition of both COX-1 and COX-2 and resulting decrease in the level of prostaglandins E2 is responsible for NSAID-dependent exacerbation of colitis.
Eur. J. Pharmacol , 603 , 120-132  (2009)
原著論文5
Makise, M., Takehara, M., Kuniyasu, A.et al.
Linkage between phosphorylation of the origin recognition complex and its ATP-binding activity in Saccharomyces cerevisiae.
J. Biol. Chem , 284 , 3396-3407  (2009)
原著論文6
Namba, T., Houman, T., Nishimura, T.et al.
Up-regulation of S100P expression by non-steroidal anti-inflammatory drugs and its role in their anti-tumorigenic effects.
J. Biol. Chem , 284 , 4158-4167  (2009)
原著論文7
Namba, T., Tanaka, K., Ito, Y.et al.
Positive role of CHOP, a transcription factor involved in the ER stress response in the development of colitis.
Am. J. Pathol , 174 , 1786-1798  (2009)
原著論文8
*Takeda, M., *Maeda, T. (*equal contributors), Ishihara, T.et al.
Synthesis of prostaglandin E1 phosphate derivatives and their encapsulation in biodegradable nanoparticles.
Pharm. Res , 26 , 1792-1800  (2009)
原著論文9
Hoshino, T., Namba, T., Takehara, M.et al.
Prostaglandin E2 stimulates the production of amyloid-β peptides through internalization of the EP4 receptor.
J. Biol. Chem , 284 , 18493-18502  (2009)
原著論文10
Suemasu, S., Tanaka, K., Namba, T.et al.
Role for HSP70 in protecting against indomethacin-induced gastric lesions.
J. Biol. Chem , 284 , 19705-19715  (2009)
原著論文11
Asano, T., Tanaka, K., Yamakawa, N.et al.
HSP70 confers protection against indomethacin-induced lesions of the small intestine.
J. Pharmacol. Exp. Ther , 330 , 458-467  (2009)
原著論文12
Ishihara, T., Takeda, M., Sakamoto, H.et al.
Accelerated blood clearance phenomenon upon repeated injection of PEG-modified PLA-nanoparticles.
Pharm. Res , 26 , 2270-2279  (2009)
原著論文13
Ishihara, T., Takahashi, M., Higaki, M.et al.
Preparation and characterization of a nanoparticulate formulation composed of PEG-PLA and PLA as anti-inflammatory agents.
Int. J. Pharm , 385 , 170-175  (2010)
原著論文14
Matsuda, M., Hoshino, T., Yamashita, Y.et al.
Prevention of ultraviolet B radiation-induced epidermal damage by expression of heat shock protein 70.
J. Biol. Chem , 285 , 5848-5858  (2010)
原著論文15
Tanaka, K., Ishihara, T., Azuma, A.et al.
Therapeutic effect of lecithinized superoxide dismutase (PC-SOD) on bleomycin-induced pulmonary fibrosis.
Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol , 298 , 348-360  (2010)
原著論文16
Ishihara, T., Tanaka, K., Tashiro, S.et al.
Protective effect of rebamipide against celecoxib-induced gastric mucosal cell apoptosis.
Biochem. Pharmacol , 79 , 1622-1633  (2010)
原著論文17
Hoshino, T., Matsuda, M., Yamashita, Y.et al.
Suppression of melanin production by expression of HSP70.
J. Biol. Chem , 285 , 13254-13263  (2010)
原著論文18
Namba, T., Tanaka, K., Ito, Y.et al.
Induction of EMT-like phenotypes by an active metabolite of leflunomide and its contribution to pulmonary fibrosis.
Cell Death Differ , 17 , 1882-1895  (2010)
原著論文19
Tanaka, K., Tanaka, Y., Namba, T.et al.
Heat shock protein 70 protects against bleomycin-induced pulmonary fibrosis in mice.
Biochem. Pharmacol , 80 , 920-931  (2010)
原著論文20
Namba, T., Hoshino, T., Suemasu, S.et al.
Suppression of expression of endoplasmic reticulum chaperones by Helicobacter pylori and its role in exacerbation of NSAID-induced gastric lesions.
J. Biol. Chem , 285 , 37302-37313  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201010004Z