薬剤性腎障害の非侵襲性マーカーの探索と臨床的重要性の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201010002A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤性腎障害の非侵襲性マーカーの探索と臨床的重要性の解明に関する研究
課題番号
H20-バイオ・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
増田 智先(京都大学医学部附属病院 薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 深津 敦司(京都大学医学部附属病院 腎臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
45,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腎障害を誘発・増悪させる潜在的要因を持つ患者への様々な薬物の使用には、腎機能(尿細管薬物輸送能)を正確に把握した上で患者個々に応じた薬物投与設計に加え、薬剤性腎障害の速やかな発見と適切な対応が望まれている。本研究では、ヒト尿検体、腎生検組織を用いたプロテオミクス、トランスクリプトーム、病理解析を並行して、より迅速かつ的確な薬剤性腎障害の非侵襲性マーカー探索とその臨床的重要性を解明するという計画を立案した。
研究方法
ラット薬剤性急性腎不全(AKI)モデル尿を用いたプロテオーム、慢性腎不全モデルラット腎より単離した近位尿細管を用いたトランスクリプトーム解析を行った。また、ヒト腎生検組織を用いた尿中プロテオーム解析並びにトランスクリプトーム解析を行った。さらに、シスプラチンを投与された肺がん患者由来の尿検体を用いて、尿中バイオマーカーの測定とその評価を行った。
結果と考察
収集されたヒト腎生検組織は、当初の目標50例を上回り53例となったが、標本の状態が解析に耐えないという理由により、マイクロアレイ解析に供したものは49例であった。In silicoの発現データと病理組織を用いたスコアデータを比較解析することによって、8つの遺伝子クラスターを設定し、5つに分類した患者背景群との比較解析を行った。その結果、1つの遺伝子クラスターについて、慢性腎臓病の診断に資する可能性が見出された。ヒト尿を用いた検討では、シスプラチンを投与された肺がん患者69例、その対照として収集したカルボプラチン投与患者10例、タクロリムスを投与された肝臓移植患者31例について随意尿を収集し、様々な尿中バイオマーカー候補分子の定量数値化を行った。アルブミン、オステオポンチン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、腎損傷因子(KIM-1)、L型遊離脂肪酸結合タンパク(L-FABP)、クラスタリン並びに47種類のサイトカイン、ケモカインを調べた結果、KIM-1、NGALの有用性が、従来の血清クレアチニン値の変化に比してより高感度、特異的であるなどシスプラチン腎症の検出に有用であることが示された。さらに、我々がラットシスプラチン腎症由来単離尿細管を用いて発見した尿中MCP-1については、KIM-1やNGALよりもさらに有用であることが示唆された。
結論
当初の計画を順調に達成することができた。特に、シスプラチン腎症の尿中バイオマーカーとしてMCP-1を含む5つの分子が見出された。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201010002B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤性腎障害の非侵襲性マーカーの探索と臨床的重要性の解明に関する研究
課題番号
H20-バイオ・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
増田 智先(京都大学医学部附属病院 薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 深津 敦司(京都大学医学部附属病院 腎臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腎障害を誘発・増悪させる潜在的要因を持つ患者への様々な薬物の使用には、腎機能(尿細管薬物輸送能)を正確に把握した上で患者個々に応じた薬物投与設計に加え、薬剤性腎障害の速やかな発見と適切な対応が望まれている。本研究では、ヒト尿検体、腎生検組織を用いたプロテオミクス、トランスクリプトーム、病理解析を並行して、より迅速かつ的確な薬剤性腎障害の非侵襲性マーカー探索とその臨床的重要性を解明することを目的とした。
研究方法
薬剤性急性腎不全(AKI)モデル、慢性腎不全モデルラット腎より単離した近位尿細管を用いたトランスクリプトーム解析を行った。また、ヒト腎生検組織を用いた尿中プロテオーム解析、メタボローム解析、トランスクリプトーム解析を行った。
結果と考察
ラット単離尿細管を用いた網羅的遺伝子発現解析系を確立し、純化試料を用いた高感度なトランスクリプトーム解析を進めた。その結果、薬物を用いない代償性腎不全期、慢性腎不全期における遺伝子発現データを先ず収集した。別途シスプラチンなどの薬剤性腎障害惹起ラットの腎近位尿細管における遺伝子発現データを収集、薬物負荷による近位尿細管の反応を的確に反映する遺伝子セットの抽出に成功した。並行して進めた慢性腎不全患者由来の腎生検(53例収集、49例解析)におけるトランスクリプトームデータの収集では、薬物に依らない様々な遺伝子発現情報を収集することが出来、収集される遺伝子発現データの中から非特異的なものの排除に非常に役立つ貴重な情報として活用することが出来た。同時にTGP2との共同研究としてトランスクリプトームデータの解析と共有を図った。さらに、進行性肺がん患者に対する抗がん剤治療を受けた69例の患者に協力をいただき、シスプラチン、カルボプラチン投与後の随意尿を経時的に採取し、ラットを用いて見出された尿中バイオマーカー候補分子のヒトにおける挙動について検討を進めた。その結果、尿中のMCP-1は、最近注目されているKIM-1やNGALに加えて有用なシスプラチン腎症検出のための尿中バイオマーカーであることが示された。同時に見出された4分子(タンパク質)、6分子(低分子化合物)については特許出願を予定している。
結論
本研究プロジェクトによって、薬剤性腎障害に特異的かつ高感度な尿中(非侵襲)バイオマーカーの特定に成功し、臨床的有用性を示すことが出来た。

公開日・更新日

公開日
2011-06-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-01-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201010002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腎臓は、多彩な細胞から構成されているため、部位特異的な遺伝子情報を得ることが困難とされる。本研究において、実態顕微鏡下近位尿細管のみを単離、純化した試料を用いることによって、薬剤性腎障害の発現部位として考えられる近位尿細管特異的なトランスクリプトームデータを収集でき、これまで見逃されてきた遺伝子を同定、バイオマーカー候補として実証することができた。 さらに、ヒト腎生検を用いたトランスクリプトームより興味深いバイオマーカー候補を見出す事が出来た。従って、高い技術力を示すことができたと考える。
臨床的観点からの成果
腎機能低下患者において、常用量で薬剤性腎障害が現れるという問題点を明確にした。特に、肺がん患者や生体肝移植患者を対象とした検討、慢性腎臓病患者由来の腎生検を用いた検討から、本研究で見出された尿中のMCP-1を始め数種のタンパク質が高感度な薬剤性腎障害のバイオマーカーであることを見出した。臨床的にシスプラチン腎症のバイオマーカーとして尿中のKIM-1とMCP-1を、肝移植患者におけるタクロリムス腎症のバイオマーカーとして尿中NGALを明らかとし、臨床活用可能なレベルという結果も得た。
ガイドライン等の開発
特にない、
その他行政的観点からの成果
現在、本邦発の尿中バイオマーカー候補とされているのは、ミッドカインとL型遊離脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)であり、海外発のKIM-1やNGALに比して圧されている。その要因として、試料の管理を厳重に求めるあまり、日常診療にそぐわない点が挙げられる。本研究で見出された尿中のMCP-1は幸いにも分解抵抗性に優れており、患者自身が再尿を行い、数時間冷蔵庫で保管するレベルで十分であることも検討しており、より日常診療に即したマーカーと考えられる。
その他のインパクト
2011年の米国腎臓学会会長であるJ Bonventreハーバード大学腎臓内科教授(本研究において協力者として参加)との意見交換の結果、尿中のMCP-1は彼らが見出したKIM-1と遜色無い新しいマーカー候補であると認められた(平成22年12月の第31回臨床薬理学会年会における特別講演にて示していた)。今後、米国においても広く検討され、再現性が得られると期待される。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
55件
その他論文(和文)
14件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
107件
内、招聘講演39回
学会発表(国際学会等)
35件
内、招聘講演7回
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
出願準備中1件(平成25年8月に予定)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamamoto S, Nakase H, Matsuura M, et al.
Tacrolimus Therapy as an Alternative to Thiopurines for Maintaining Remission in Patients With Refractory Ulcerative Colitis.
J Clin Gastroenterol  (2011)
原著論文2
Mari Tanaka, Misako Asada, Atsuko Y Higashi et al.
Loss of the BMP antagonist USAG-1 ameliorates disease in a mouse model of the progressive hereditary kidney disease Alport syndrome
J Clin Invest , 120 (3) , 768-777  (2010)
原著論文3
Nishihara K, Masuda S, Nakagawa S et al.
Impact of Cyclin B2 and Cell division cycle 2 on tubular hyperplasia in progressive chronic renal failure rats
Am J Physiol Renal Physiol , 298 (4) , 923-934  (2010)
原著論文4
Nakagawa S, Masuda S, Nishihara K et al.
mTOR inhibitor everolimus ameliorates progressive tubular dysfunction in chronic renal failure rats
Biochem Pharmacol , 79 (1) , 67-76  (2010)
原著論文5
Yao Y, Yonezawa A, Yoshimatsu H et al.
Identification and comparative functional characterization of a new human riboflavin transporter hRFT3 expressed in the brain
J Nutr , 140 (7) , 1220-1226  (2010)
原著論文6
Yoshino T, Nakase H, Honzawa Y et al.
Immunosuppressive effects of tacrolimus on macrophages ameliorate experimental colitis
Inflamm Bowel Dis , 16 (12) , 2022-2033  (2010)
原著論文7
Atsuko Y. Higashi, Tomokatsu Ikawa, Masamichi Muramatsu et al
Direct hematological toxicity and illegitimate chromosomal recombination caused by the systemic activation of CreERT2
J Immunol , 182 (9) , 5633-5640  (2009)
原著論文8
Tanihara Y, Masuda S, Katsura T et al.
Protective effect of concomitant administration of imatinib on cisplatin-induced nephrotoxicity focusing on renal organic cation transporter OCT2
Biochem Pharmacol , 78 (9) , 1263-1271  (2009)
原著論文9
Kimura N, Masuda S, Katsura T et al.
Transport of guanidine compounds by human organic cation transporters, hOCT1 and hOCT2
Biochem Pharmacol , 77 (8) , 1429-1436  (2009)
原著論文10
Ito-Ihara T, Muso E, Kobayashi S et al.
A comparative study of the diagnostic accuracy of ELISA systems for the detection of anti-neutrophil cytoplasm antibodies available in Japan and Europe
Clin Exp Rheumatol , 26 (6) , 1027-1033  (2008)
原著論文11
Yonezawa A, Masuda S, Katsura T et al.
Identification and functional characterization of a novel human and rat riboflavin transporter, RFT1
Am J Physiol Cell Physiol , 295 (3) , 632-641  (2008)
原著論文12
Yokoo S, Masuda S, Yonezawa A et al.
Significance of organic cation transporter 3 (SLC22A3) expression for the cytotoxic effect of oxaliplatin in colorectal cancer
Drug Metab Dispos , 36 (11) , 2299-2306  (2008)
原著論文13
Sato T, Masuda S, Yonezawa A et al.
Transcellular transport of organic cations in double-transfected MDCK cells expressing human organic cation transporters hOCT1/hMATE1 and hOCT2/hMATE1.
Biochem Pharmacol , 76 (7) , 894-903  (2008)
原著論文14
Nishihara K, Masuda S, Shinke H et al.
Urinary chemokine (C-C motif) ligand 2 (monocyte chemotactic protein-1) as a tubular injury marker for early detection of cisplatin-induced nephrotoxicity
Biochem Pharmacol , 85 (4) , 570-582  (2013)
原著論文15
Nakagawa S, Nishihara K, Inui K & Masuda S
Involvement of autophagy in the pharmacological effects of the mTOR inhibitor everolimus in acute kidney injury.
Eur J Pharmacol , 696 (1-3) , 143-154  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201010002Z