特異体質性薬物誘導性肝障害のバイオマーカーの検討および予測評価試験系の開発研究

文献情報

文献番号
201010001A
報告書区分
総括
研究課題名
特異体質性薬物誘導性肝障害のバイオマーカーの検討および予測評価試験系の開発研究
課題番号
H20-バイオ・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
横井 毅(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
研究分担者(所属機関)
  • 中島美紀(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
44,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特異体質性薬物誘導性肝障害のバイオマーカーの探索研究と予測試験系の開発を目的とした。特にヒト肝における反応性代謝物の生成が免疫の因子に影響することを考慮したin vitro細胞スクリーニング試験系と、in vivoマウス試験系の構築とそのメカニズムの検討さらに、毒性発現に関わるmicroRNAの検討を主な目的とし、以下の6項目について、(1)ジクロフェナク(DIF)誘導性肝障害における免疫学的因子の影響、(2)免疫学的機序による薬物性肝障害における代謝的活性化の評価、(3)ハロタン誘導性肝障害に対する女性ホルモンの影響、(4)プロゲステロンによる薬物誘導性肝障害悪化メカニズムの解明、(5)ヒト肝臓におけるPeroxisome proliferator-activated receptor α (PPAR α)のmicroRNAによる発現制御、(6)ヒト肝臓におけるCYP2E1のmicroRNAによる発現制御、について概ね当初の予定どおりまたは予定以上の成果を挙げることが出来た。
研究方法
発現ベクターの作成、および細胞への感染実験、マウスへの投与実験などは全て、常法に従って行った。
結果と考察
(1) DIF誘導性肝障害にIL-17の関与を見いだした、(2)代謝的活性化を考慮した免疫が関与する毒性について、アミオダロンを用いて定量的に評価するin vitroの系を提案できた、(3,4)ハロタン誘導性肝障害について、性差の発症理由がケモカインにあること、さらにそれを緩和させるタモキシフェンの作用メカニズムを明らかにできた、(5,6)ヒト肝臓におけるPPAR αおよびCYP2E1のmicroRNAによる発現制御を明らかにできた。
結論
免疫学的因子の関与についてマウスin vivoモデルで、そのメカニズムを示すことができた。さらに、CYPによる代謝的活性化を考慮したin vitro細胞系を構築し、代謝物をも考慮した免疫学的毒性の評価が可能になった。さらに、肝障害の発症の性差についてもマウスを用いて、ケモカインが重要な役割と担っていることを明らかにした。さらに、マイクロRNAについて、さらなる研究を進展できた。

公開日・更新日

公開日
2011-08-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201010001B
報告書区分
総合
研究課題名
特異体質性薬物誘導性肝障害のバイオマーカーの検討および予測評価試験系の開発研究
課題番号
H20-バイオ・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
横井 毅(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
研究分担者(所属機関)
  • 中島美紀(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特異体質性薬物誘導性肝障害のバイオマーカーの探索検討および予測試験系の開発をを目的とした。(1)ヒト肝における反応性代謝物の生成系を考慮したin vitro細胞スクリーニング試験系と、(2)薬物誘導性肝障害について、in vivo動物試験およびin vitro細胞試験系による免疫学的因子の関与の評価系とそのメカニズム研究、および(3)マイクロRNAの関与について検討を行い、当初の予定どおりの成果を得て、ほぼ全てを論文として発表し、特許3件を出願できた。
研究方法
発現ベクターの作成、および細胞への感染実験、ラットへの投与実験などは全て、常法に従って行った。組み替え遺伝子、ウイルスを用いる研究および実験動物の使用について、適切な承認を得た後に実施した。
結果と考察
上記(1) については、アデノウイルスによるヒトCYP発現系を様々なCYPについて構築し、毒性発現に直結する代謝的活性化反応と解毒反応の関係について、主にHepG2細胞を用いて定量的に予測する系を構築できた。CYP活性を任意に調節でき、ヒト個人差を外挿できる系となった。(2) 薬物性肝障害における免疫学的因子の関与について、ハロタン、ジクロフェナク、ジクロキサシリン、ANITなど6種類について検討を終了し、IL-17によるTh17細胞が関与する場合と、IL-4によるTh2細胞が関与する系に大別することができ、免疫関連因子の関与についての新たな研究手法として確立できた。(3)については、ヒトCYP3A4の個人差の原因となるメカニズムを始め、多くの核内因子についても制御メカニズムとそのターゲットの関係を明確にでき、多くの論文と2報の英文総説にまとめることができた。
結論
反応性代謝物に基因する薬物誘導性肝障害を予測する試験系の研究は完了したと考える。しかし、同時に評価すべき免疫学的因子の関与についての定量的予測については、研究の展開の鍵となる複数の論文を発表することができた。microRNAについての基礎的研究がほぼ予定どおり達成された。今後さらに、microRNAの関与も含めた免疫学的因子の包括的な評価の手法の必要性がある。

公開日・更新日

公開日
2011-08-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-01-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201010001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
代謝物の安全性の評価は、極めて難しい命題であり、臨床のみならず、薬の開発において重要な課題である。今日一般化してきたin vitroにおけるアダクトの定量試験では、充分な予測性は得られていない。これには、免疫学的因子やマイクロRNAが複雑に絡む事象であるという観点から研究を進めた。研究結果には、国内外のシンポジウムや製薬会社から高い関心が寄せられ、今後の薬の開発手法に有用な情報を提供できたと考えている。
臨床的観点からの成果
本研究では、臨床で実際に使用されており、稀に一部のヒトに重篤な肝障害が発症することが報告されている薬を研究対象としたものであり、臨床での副作用を防ぐことに直結する情報を提供した。ハロタン、ジクロフェナク、ジクロキサシリン,テルビナフィン、メベンダゾール等の肝障害発症において、反応性代謝物や免疫毒性のメカニズムから説明する研究であり、臨床の観点からも重要な研究であると考える。
ガイドライン等の開発
2008年2月に米国のFDAから代謝物の安全性についてのガイダンスが出され、我が国でもこの基準に基づいて、反応性代謝物についての試験が行われるようになった。培養細胞を用いた試験系として、本研究結果は、すでに複数の製薬会社で実施され始めている。さらに、PMDAの専門委員として、代謝物の安全性についてのコメントを求められることが多くなってきたことも、本研究内容の社会的重要性を示すものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
2011年の日本薬学会年会において、日本製薬工業協会によって特別企画シンポジウム(代謝物の安全性評価:日本の動向)が開催される予定であったが、震災により中止になった。研究代表者の横井は、唯一大学人からの講演者で、「薬物性肝障害の予測試験系とバイオマーカー」という演題で講演し、協会の基礎部会および基礎研究部会のヒトと討論の予定であった。さらに、日本トキシコロジー学会のリカレント講座という学会で、分担の中島はmicroRNAについて、横井は反応性代謝物の毒性予測についてのシンポジストとなった。
その他のインパクト
国内外の学会やシンポジウムでの講演は、全てこの研究内容(反応性代謝物に対する試験系の構築および評価、免疫学的因子の関与についての試験法)に関するものであり、3年間に通常の学会発表以外の招聘講演を、国内で32件、海外で7件行ったことは、この研究に関して、高い関心が持たれている証であると考える。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
7件
和文著書(分担)3件、和文総説4件
その他論文(英文等)
4件
英文著書(分担)1件、英文総説3件
学会発表(国内学会)
53件
これに加えて、シンポジウムなどの招聘講演、 国内で3年間で32件。
学会発表(国際学会等)
17件
これに加えて、シンポジウムなどの海外招聘講演、 3年間で7件。
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
肝保護作用を有するタンパク質、肝障害予防・保護用化合物のスクリーニング方法
詳細情報
分類:
特許番号: 2010-065172
発明者名: 横井 毅、吉川幸孝
権利者名: 横井 毅、吉川幸孝
出願年月日: 20100319
国内外の別: 国内
特許の名称
哺乳動物の薬物誘導性肝障害の抑制薬
詳細情報
分類:
特許番号: 2009-075280
発明者名: 横井 毅、小林鋭祐
権利者名: 横井 毅、小林鋭祐
出願年月日: 20090325
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shingo Takagi, Miki Nakajima, and Tsuyoshi Yokoi et al.
Post-transcriptional regulation of human pregnane X receptor by microRNA affects the expression of cytochrome P450 3A4
Journal of Biological Chemistry , 283 (15) , 9674-9680  (2008)
原著論文2
Keiichi Minami, Miki Nakajima, and Tsuyoshi Yokoi, et al.
Regulatiion of insulin-like growth factor binding protein-1 and lipoprotein lipase by aryl hydrocarbon receptor.
Journal of Toxicological Sciense , 33 (4) , 405-413  (2008)
原著論文3
Katsuhiko Mizuno, Miki Nakajima, and Tsuyoshi Yokoi et al.
Metabolic activation of benzodiazepine by CYP3A4.
Drug Metabolism and Disposition , 37 (2) , 345-351  (2009)
原著論文4
Takuya Mohri, Miki Nakajima, and Tsuyoshi Yokoi, et al.,
MicroRNA regulates human vitamin D receptor.
International Journal of Cancer , 125 (6) , 1328-1333  (2009)
原著論文5
Yukitaka Yoshikawa, Miki Nakajima and Tsuyoshi Yokoi, et al.
Knockdown of superoxide dismutase-2 enhances acetaminophen-induced hepatotoxicity in rat.
Toxicology , 264 (1) , 89-95  (2009)
原著論文6
Eisuke Kobayashi, Miki Nakajima and Tsuyoshi Yokoi et al.
Halothane-induced liver injury is mediated by interleukin-17 in mice.
Toxicological Sciences , 111 (2) , 302-310  (2009)
原著論文7
Sayaka Komagata, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
Human CYP24 catalyzing the inactivation of calcitriol is post-transcriptionally regulated by miR-125b.
Molecular Pharmacology , 76 (4) , 702-709  (2009)
原著論文8
Yukitaka Yoshikawa, Miki Nakajima and Tsuyoshi Yokoi et al.
Establishment of knockdown of superoxide dismutase 2 and expression of CYP3A4 cell system to evaluate drug-induced cytotoxcity.
Toxicology in Vitro , 23 (6) , 1179-1187  (2009)
原著論文9
Mayu Morita, Miki Nakajima and Tsuyoshi Yokoi et al.
Drug-induced hepatotoxicity test using γ-glutamylcysteine synthetase knockdown rat.
Toxicology Letters , 189 (2) , 159-165  (2009)
原著論文10
Hiroko Hosomi, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
An in vitro drug-induced hepatotoxicity screening system using CYP3A4-expressing and gamma-glutamylcysteine synthetase knockdown cells.
Drug Metababolism and Disposition , 24 (3) , 1032-1038  (2010)
原著論文11
Takuya Mohri, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
Human CYP2E1 is regulated by miR-378.
Biochemical Pharmacology , 79 (7) , 1045-1052  (2010)
原著論文12
Masanori Kobayashi, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al.
Interleukin-17 is involved in α- naphthylisothiocyanate-induced liver injury in mice.
Toxicology , 275 (1) , 50-57  (2010)
原著論文13
Katsuhiko Mizuno, Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
Terbinafine stimulates the pro-nflammatory responses in human monocytic THP-1 cells through an ERK signaling pathwey.
Life Sciences , 87 (17) , 537-544  (2010)
原著論文14
Katsuhiko Mizuno, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
Stimulation of pro-inflammatory responses by mebendazole in human monocytic THP-1 cells through an ERK signaling pathwey.
Archives of Toxicology , 85 (3) , 199-207  (2010)
原著論文15
Shingo Takagi, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
MicroRNAs regulate human hepatocytes nuclear factor 4α modulating the expression of metabolic enzymes and cell cycle.
Journal of Biological Chemistry , 285 (7) , 4415-4422  (2010)
原著論文16
Toshihisa Koga, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al.
Toxicological evaluation of acyl glucuronides of NSAIDs using HEK293 cells stably expressing human UGT and human hepatocytes.
Drug Metababolism and Disposition , 39 (1) , 54-60  (2011)
原著論文17
Satonori Higuchi, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al.
IL-4 mediated dicloxacillin-induced liver injury in mice.
Toxicological Letters , 200 (1) , 139-145  (2011)
原著論文18
Atsushi Iwamura, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al.
CYP2C9-mediated metabolic activation of losartan detected by a high sensitive cell-based screening assay.
Drug Metababolism and Disposition , 39 (5) , 838-846  (2011)
原著論文19
Yasuyuki Toyoda, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi, et al.
Estradiol and progesterone modulate halothane-induced liver injury in mice.
Toxicological Letters , 204 (1) , 17-24  (2011)
原著論文20
Hiroko Hosomi, Miki Nakajima, Tsuyoshi Yokoi et al.
Development of a highly sensitive cytotoxicity assay system for CYP3A4-mediated metabolic activation.
Drug Metababolism and Disposition , 39 (8) , 1388-1395  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201010001Z