オールジャパンでの脳死移植における恒温機械灌流の臨床実装

文献情報

文献番号
202406038A
報告書区分
総括
研究課題名
オールジャパンでの脳死移植における恒温機械灌流の臨床実装
研究課題名(英字)
-
課題番号
24CA2038
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
吉住 朋晴(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 日比 泰造(熊本大学大学院生命科学研究部 小児外科学・移植外科学講座)
  • 波多野 悦朗(一般社団法人日本外科学会)
  • 笠原 群生(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 病院)
  • 長谷川 潔(東京大学 医学部附属病院 肝胆膵外科、人工臓器・移植外科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
3,291,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者の途中交替なし

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、恒温機械灌流(Normothermic Machine Perfusion:NMP)技術を本邦に臨床導入し、肝移植医療における臓器の有効活用、安全性の向上、ならびに移植医療従事者の働き方改革を推進することである。従来、脳死肝移植においては氷冷保存が標準であったが、NMPを導入することで移植前にリアルタイムで肝機能を評価し、長時間の保存が可能となることから、従来の夜間・休日の緊急手術体制を日中の定時手術へ移行させることができる。また、NMPは脂肪肝ドナー、高齢ドナー、心停止後ドナーといったマージナルドナーに対する移植成績の向上が期待され、欧米では既に広く普及している技術である。これまで国内では制度的・技術的な課題もあり臨床導入が進んでこなかったが、本研究では国内主要5施設(東京大学、成育医療研究センター、京都大学、九州大学、熊本大学)が共同して臨床導入の体制を整備し、医療機器承認・保険収載に向けた検証を行うことを目指している。
研究方法
本研究は、多施設共同、前向き、シングルアーム臨床試験として計画されている。対象は、前述の主要5施設における脳死肝移植待機患者とし、2025年から2027年までに計100症例を登録予定である。移植に際しては、ドナーから摘出された肝臓を一旦冷保存しレシピエント施設へ搬送後、Back-to-Base方式により恒温機械灌流を開始する。灌流開始から4時間経過後に血流動態、胆汁分泌、血液・胆汁生化学検査、Flavin Mononucleotide(FMN)測定などの肝機能評価を行い、適応基準を満たすグラフトのみ移植を実施する。主要評価項目はNMP施行後の移植実施率、副次評価項目として手術キャンセル率、手術開始時刻、灌流中の機能データ、移植後の肝不全発症(PNF、EAD)、再灌流後症候群、合併症発生率、生存率、免疫学的解析、医療経済指標等を設定する。さらに、医療統計専門家の指導の下、過去3年間の脳死肝移植症例との1:3のPropensity Score Matchingによる成績比較を実施する。研究開始に先立ち、研究分担医師らは2025年3月に米国OrganOx社およびCleveland Clinicにおいてハンズオン研修を受講し、機器操作、灌流手技、臨床評価手法について実地研修を行った。
結果と考察
現時点では、臨床試験本体は開始前であるが、米国での実地研修により多くの有益な知見が得られている。Cleveland Clinicにおいては、2024年時点で年間260症例の脳死および心停止後肝移植のうち9割以上がNMPを使用しており、全例が日中の定時手術で行われている現状が確認された。灌流中の肝機能評価には、既存の血流動態や胆汁分泌に加え、迅速に測定可能なFMN値を用いることで、より精度の高い移植適応判定が行われている。さらに、NMP導入により待機期間の短縮、術後合併症の低下が実現し、灌流機器の費用を加味しても医療経済的には費用対効果の高い運用がなされていることが明らかとなった。日本国内での導入に際しては、動脈カニュレーション部位の選定、胆嚢摘出の要否、灌流室の設置方法、臨床工学技士の役割分担など、日本の制度・臓器提供体制に即した技術的・運営的課題が整理されつつあり、今後のプロトコール作成に活用されることが期待される。
結論
本研究は、本邦移植医療におけるNMP導入の実現に向け、実用化のための臨床プロトコール整備、安全性・有効性の検証、医療機器承認・保険収載への道筋を構築する重要なステップである。欧米での実績に学びつつ、日本の医療制度・臓器提供事情に即した独自の運用体制を確立し、安全かつ公平な臓器配分、質の高い移植医療の実現、移植医療従事者の勤務環境改善に貢献することが期待される。また、本研究の成果は肝移植領域のみならず、心・肺・腎移植分野への恒温機械灌流の応用拡大にも寄与し得る、移植医療全体の革新に資する取り組みとなる。

公開日・更新日

公開日
2025-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
202406038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究を通じて、本邦における恒温機械灌流の多施設共同臨床研究体制が構築され、欧米の標準とは異なる国内適応基準・プロトコールが検討される意義は大きい。灌流中の機能評価指標としてFMNを含む新たなバイオマーカーの有用性検討が進み、肝グラフト評価法の標準化が期待される。また、学会アドホック委員会での議論と併せ、国際標準と整合性を保ちつつ日本型の安全基準を確立する基盤が整備されつつある。
臨床的観点からの成果
NMP導入により、従来の夜間・休日集中の手術体制から日中の定時手術への移行が可能となり、移植外科医をはじめとする医療従事者の勤務環境が大幅に改善される。また、適応拡大によりマージナルドナーの活用が促進され、待機リスト上の公平な臓器配分が実現しうる。さらに、灌流中の機能評価に基づく移植実施の可否判断が可能となることで、移植後のグラフト不全や合併症の低減につながることが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究を通じて、恒温機械灌流(NMP)を国内に導入する際に必要となる標準的な手技や管理方法の整理が進められている。欧米での運用実績を参考にしつつ、日本独自の臓器摘出法や手術体制に適合したプロトコールの整備が必要であり、今回の臨床研究ではその基礎となる具体的な技術手順が蓄積されつつある。特に、灌流中の人員配置や灌流操作に関連する実務的指針が整理されてきている。今後は、日本移植学会などの学会組織とも連携し、国内におけるNMPの導入ガイドラインや診療指針として発展させていくことが期待される。
その他行政的観点からの成果
本研究は、外科医の働き方改革に即応する移植医療制度の改善に直結する成果を有している。さらに、国内における新規医療機器導入プロセスのモデルケースとなり得るとともに、保険制度における新規技術の評価基準策定に資するエビデンスが得られる可能性が高い。将来的には、移植医療全体の医療提供体制や国家的移植戦略の立案に対する基盤情報としても活用されることが期待される。
その他のインパクト
本研究は、移植医療における恒温機械灌流(NMP)の導入という技術的意義にとどまらず、我が国の医療提供体制全体にも幅広い波及効果をもたらす可能性がある。NMPの導入により移植手術の計画性が向上し、手術室や集中治療室の効率的な運用が可能となることで、病院全体の医療資源の最適化にも寄与する。また、臓器搬送体制や移植コーディネーション業務の柔軟化が進むことで、移植医療の実施体制全般の合理化が期待できる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-07-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
202406038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,701,000円
(2)補助金確定額
4,683,000円
差引額 [(1)-(2)]
18,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 497,170円
人件費・謝金 0円
旅費 3,102,043円
その他 0円
間接経費 1,084,000円
合計 4,683,213円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-07-01
更新日
-