性行動異常を呈する者の精神医学的考察と認知行動療法を含めた介入方法の検討及び性被害者の心理的ストレス対処に資する実態調査

文献情報

文献番号
202406036A
報告書区分
総括
研究課題名
性行動異常を呈する者の精神医学的考察と認知行動療法を含めた介入方法の検討及び性被害者の心理的ストレス対処に資する実態調査
研究課題名(英字)
-
課題番号
24CA2036
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
張 賢徳(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 禎人(千葉大学 社会精神保健教育研究センター)
  • 金 吉晴(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 菊池 安希子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 吉田 和史(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター、認知行動療法診療部、臨床技術開発室)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
6,172,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
令和6年6月に成立した「学校設置者及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(いわゆる日本版DBS法)の附帯決議にて、性加害者の更生プログラムの充実と治療的支援の強化とともに、加害者や性嗜好障害の疑いがある者が適切な治療や支援を受けられる環境の整備に取り組むことが掲げられた。本研究では小児性愛等も含めて性嗜好障害等の性行動異常を呈する者に関する国内外の知見を集積し、有効かつ適切なケアや介入方法を検討する。同時に、本邦での性嗜好障害等の治療実態の調査も行う。また、日本版DBSの対象にならない性加害者についても、その実態を調査する。さらに本研究は、性被害者のケアにも目を向け、受療行動の促進要因と阻害要因を調査し、被害者支援に資する知見を抽出することも目的とする。
研究方法
性行動異常を呈する人に対する治療・支援の実態を明らかにするため、文献レビュー、カナダとイギリスの性加害者の処遇・治療・支援について文献調査と聞き取り調査、全国の精神科医療機関を対象とした性嗜好障害等の治療体制のアンケート調査を行った。性加害者に対して刑事施設や保護観察所で実施している処遇プログラムや、医療機関や地方公共団体で実施している治療プログラムや連携状況について有識者に聞き取りを行い、医療機関での認知行動療法に基づくケア支援プログラムの提案に向けて、専門家によるコンセンサス会議を実施した。医療観察法通院処遇者の既存データを用いて、日本版DBSの対象にならない性加害者の実態を調査した。未治療の性犯罪被害者が適切な医療や支援を受けるための障壁を解明するためWebアンケー調査を実施した。
結果と考察
小児性愛症に対する認知行動療法の文献レビューの結果、継続的なフォローアップが再発防止に有効であることが判明し、海外の調査からは、リスク評価に基づく継続的治療制度と、司法・医療・福祉の連携による個別支援体制の構築が重要であると示された。アンケート調査結果から、性嗜好障害に対する専門的治療を提供できる人材及び施設が希少であり、性嗜好障害に対する治療方針もコンセンサスが確立されていないことが分かった。有識者やエキスパートへのインタビュー調査の結果からは、刑事施設や保護観察所において以前から実施されている性犯罪者に対する認知行動療法の考え方に基づいたプログラムは一定の効果が確認されているものの、現状では対応可能な医療機関が乏しいことや、地域ガイドラインの具体的な運用体制が十分に整っておらず、未だ地域ガイドラインの利活用には至っていないことがわかった。司法における処遇と医療における治療とのシームレスな連携のためには垣根を越えた連携体制の整備が求められる。日本版DBS法に該当しない性加害者についても検討しておく必要があると考え、性加害行為を行いつつも医療観察法の対象となった者に関する調査も行った。本研究では、医療観察法通院処遇者の既存データを用いて、性加害者の特徴を調べた。対象者は男性143名であり、そのうち性加害者は10名(7.0%)であった。診断はF2(統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害)が最も多く、8名(80%)であった。性加害者の精神医学的考察を個別に丁寧に進めていかねばならないことを示す大事な所見である。一般市民を対象としたアンケート調査からは性被害の相談先としては身近な人より警察に相談しやすいと考える人が多かったことから、警察が事件性を認知した段階から被害者支援にも配慮する姿勢と具体的な支援システムの必要性が示唆された。
結論
本邦では性嗜好障害の専門の医師及び治療施設は数えるほどしかなく、一部では先進的な取組みを行っているが治療方針のコンセンサスは確立されていない。法務省が「性犯罪の再犯防止に向けた地域ガイドライン」を公表し、保護観察所を経て地方公共団体にその取り組みが降りていく体制を想定しているが対応可能な医療機関は限られており、性的問題行動に関連した治療ガイドラインも存在しない。地域ガイドラインでは精神保健福祉センターを連携先としているが、同センターに浸透しているとは言い難い。性嗜好障害の治療のガイドラインの作成、治療実施機関の養成等の受け皿作りが必要であり、司法と医療の垣根を越えた連携体制の整備が求められる。このような体制作りは性加害者の再犯防止に役立つだけではなく触法に無関係だが治療を求める性嗜好障害の人たちにも有益であろう。ここで性嗜好障害の人たちがみな性犯罪を犯すわけではないことを強調しておく。さらに被害者が早期に相談できるシステムの必要性が示唆され、このような社会実装をさらに推進する取り組みも必要である。

公開日・更新日

公開日
2025-11-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-11-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202406036C

成果

専門的・学術的観点からの成果
性行動異常を呈する者に対する国内の治療・ケアの実態を調査し、専門的治療を提供する人材及び施設が希少であること、そして性嗜好障害に対する治療方針が未確立であることが確認された。医療観察法対象者に限れば、性加害者には統合失調症圏が多いことが見出された。性犯罪被害者支援に関する調査では、相談先として警察の役割の重要性が示された。これらはいずれも国内で初めて明らかにされた知見であり、今後この領域の研究の基盤になる成果が得られた。
臨床的観点からの成果
国内の実態調査ならびに海外の先行研究レビューと実地視察調査から、性行動異常を呈する者に対する治療・ケアを拡充させるために必要な要件として、①リスク評価に基づく治療・ケアの法的枠組みの整備、②その受皿となる地域の機関や専門職の育成・配置、③司法・医療・福祉の連携体制の確立、④これらを持続的に支える治療側への財政的支援の必要性が浮き彫りになった。
ガイドライン等の開発
本研究は未開拓の領域に分け入った基盤的研究であり、まだガイドラインの開発には至っていない。現在、性行動異常を呈する者や性嗜好障害に関する治療ガイドラインで国内で広くコンセンサスが得られているものはないため、今後、その開発が必要である。他方、法務省は性犯罪の再犯防止に向けた地域ガイドラインをすでに公表しており、精神保健福祉センターを連絡先として記載しているが、現場の実情は地域ガイドラインがほとんど浸透していないことが判明し、既存のものの有効活用の必要性も明らかになった。
その他行政的観点からの成果
性犯罪者に対する司法と医療の垣根を越えた連携体制の整備の必要性が明らかになった。具体的には、全国の精神保健福祉センターを中心に、法務省作成の地域ガイドラインの利活用を推進し、同時に地域での医療の受け皿作りも進めていくことが必要である。
性被害者支援に関しては、相談先として警察の役割の重要が浮き彫りになった。事件性を認知した段階から被害者支援にも配慮する姿勢と具体的な支援システムの拡充が求められる。
その他のインパクト
性行動異常を呈する者に対する国内の治療・ケアの実態を初めて広く調査したこと、医療観察法の性加害者には統合失調症圏が多いと見出したことなど、今後この領域の研究の基盤になる成果が得られたインパクトは大きい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-11-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
202406036Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,000,000円
(2)補助金確定額
6,615,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,385,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,936,195円
人件費・謝金 958,610円
旅費 465,909円
その他 1,427,168円
間接経費 1,828,000円
合計 6,615,882円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2026-03-24
更新日
-