国内でのCOVID-19ワクチン臨床試験実施状況等調査

文献情報

文献番号
202406029A
報告書区分
総括
研究課題名
国内でのCOVID-19ワクチン臨床試験実施状況等調査
研究課題名(英字)
-
課題番号
24CA2029
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
廣田 良夫(医療法人相生会 臨床疫学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 福島 若葉(大阪公立大学 大学院医学研究科公衆衛生学)
  • 大藤 さとこ(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学)
  • 原 めぐみ(佐賀大学 医学部社会医学講座予防医学分野)
  • 原中 美環(医療法人相生会ピーエスクリニック)
  • 石橋 元規(株式会社UNICS)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,880,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
次のパンデミックに備えた治験実施体制の整備に資するため、我が国で行われたCOVID-19ワクチンの国内第Ⅲ相試験に関し、関係機関における実施状況や課題を調査するとともに、国外の事例についても文献調査を行う。
研究方法
COVID-19ワクチンの第Ⅲ相試験において、①開発企業や医薬品開発業務受託機関(CRO、Contract Research Organization)、②治験施設支援機関(SMO、Site Management Organization)、および③被験者募集機関(PRO、Patient Recruitment Organization)が経験した困難性や、④一般市民の試験への参加・不参加の意識などについて、聞き取りやアンケートにより調査した。併せて、米国の事例について文献調査を実施し、それを参考に国内調査結果の考察を行った。
結果と考察
 開発企業(3社)の調査では、治験実施に係る公的資金の確保、政府によるワクチンや治験に関する啓発、大規模治験に対応した実施医療機関や人員の確保、などが課題として挙げられた。
 CRO(18社)の調査では、政府に対し、手続きの簡略化や資材の確保に向けた支援、平時から正確な情報を国民に提供すること、などの要望があった。また、関係組織間での連携と情報共有、政府・民間の協力によるパンデミック時に対応可能な治験計画の事前策定、などの課題が挙げられた。
SMO(10社)の調査では、多数の被験者を迅速かつ効率的に確保すること、治験スタッフの確保とスキル向上を図ること、電子日誌の入力プロセスを簡素化する仕組みや資材搬入の遅延リスクを最小化する方法を事前に検討すること、などの課題が挙げられた。また、パンデミック時には感染管理を徹底しながら治験を進めなければならないという困難性が指摘された。
 PRO(2社)の調査では、COVID-19に対する社会不安のもと、情報開示に制限がある状況下で、感染管理を徹底しつつ、多数の治験参加者を短期間で集めることは極めて困難であったことが報告された。次回のパンデミックに備えるためには、平時から政府が主体となって、ワクチンや治験に対する啓発を行うことが必要との要望があった。
 一般市民については、試験に参加した者(312人)と参加しなかった者(828人)から調査への回答を得た。新型コロナワクチン(国産)治験に参加しなかった理由(複数回答)は、「情報が不十分」44%、「安全性が心配」38%。今後パンデミワクチン(国産)治験が実施される場合、「参加したくない・あまり参加したくない」61%、「どちらともいえない」22%、「やや参加したい・参加したい」11%。「参加したくない・あまり参加したくない・どちらともいえない」者の理由(複数回答)は,「安全性が心配」67%、「情報が不十分」45%。「やや参加したい・参加したい」者の理由(複数回答)は、「報酬が得られる」53%。
 米国の事例に関する文献調査の結果は以下のとおりである。
米国では、政府・学術機関・民間企業間の官民パートナーシップのもと、国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が5つのCOVID-19ワクチン候補品の第III相試験を調整・支援した(COVID-19予防試験ネットワーク、CoVPN)。実施医療機関は、NIAIDが資金提供してきた4つの臨床試験ネットワークを中心に組織された。試験実施計画書、臨床評価項目、統計解析計画、被験者の募集・登録などについてはモデル化やハーモナイゼーションを図るとともに、単一のデータ安全性モニタリング委員会が全5試験についてモニタリングを実施した。ワクチンの緊急使用許可に伴う盲検解除、その後のクロスオーバーデザインの採用と解析などについてもCoVPN統計チームが適宜関与した。これらの戦略を通じて、合計136,382人の参加者からなる5つの第III相試験が行われ、SARS-CoV-2発見から1年以内に複数のワクチンが一般に提供された。
結論
開発企業、CRO、SMO、およびPROの総てが表現に差はあるものの同様にあげた課題は、「政府が主体となった治験やワクチンに関する啓発」、「多数の治験参加者の迅速な確保」、「実施医療機関や専門スタッフの確保」、である。また、CROからは、「標準プロトコールが作成されていると良い」、「試験デザインや評価項目、収集データ、必要帳票などは国である程度指定いただければ各依頼者が悩まず、決定に要する期間が短縮される」、といった意見が寄せられた。これらは、規制や競合から脱却し、パートナーシップやハーモナイゼーションへと思考の転換が必要であることを示している。

公開日・更新日

公開日
2025-10-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202406029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 COVID-19ワクチン国内第Ⅲ相試験の実施状況について、開発企業、医薬品開発業務受託機関(CRO)などを対象に調査し、米国の事例(文献調査)をもとに考察した。
国内調査では「標準プロトコールの事前作成」が課題として挙げられた。一方、米国では、「COVID-19予防試験ネットワーク(CoVPN)」を組織し、モデル化した試験実施計画書を用いて5つの第III相試験を並行して行い、速やかに複数ワクチンの承認に至った。
 パンデミックワクチン開発における官民パートナーシップ構築の参考となる。
臨床的観点からの成果
国内調査では、「臨床評価項目などは国である程度指定いただければ決定に要する期間が短縮される」との意見が寄せられた。
 CoVPNではCDCが定義した重症度基準が全5試験の有効性評価に活用された。また安全性評価においては、国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のデータ安全性モニタリング委員会(DSMB)が単独で全5試験の安全性モニタリングを担当した。
 パンデミックワクチン第Ⅲ相試験の臨床評価において、国立中核機関の役割を踏まえたハーモナイゼーション確立の参考事例である。
ガイドライン等の開発
開発企業、CRO、治験施設支援機関(SMO)、被験者募集機関(PRO)の総てがあげた課題が、「政府が主体となった治験やワクチンに関する啓発」である。
 CoVPNは、NIAIDが資金提供しているAIDS Clinical Trials Group(1987年設立)など4つの臨床試験ネットワーク(NW)を中心に組織された。これらのNWの所属医療機関は、長年臨床試験を実施しながら治験やワクチンについての理解を育んできた。国が主導したこれらNWの設立趣旨や活動内容そのものが啓発活動のガイドラインとなる。
その他行政的観点からの成果
被験者確保の困難性等から、「予め国が治験実施可能な医療機関を選定していると円滑に進行する」、「各社の治験が集中すると治験参加者の確保を巡る競合が起こる」との意見があった。
 CoVPNが組織する4つの臨床試験NWで参加者登録したCROと医療機関の数は、1試験当たり計86~130にのぼった。また、CoVPN自体と所属医療機関が行うWebによる広報・登録を通じ、5試験で計136,382人の参加者を確保した。
 CoVPNの組織と広報・登録システムの事例の応用は、被験者確保の効果的な推進に貢献する。
その他のインパクト
早期に第III相試験を開始した米国では、変異株出現によるワクチン効果の低下を確認後、一部で試験にブースター接種が組み込まれた。また、途中結果に基づきワクチンが緊急使用許可(EUA)になると、プラセボ群にEUAワクチンを受ける機会を提供し、その後クロスオーバーデザインに組み替えるなどして試験が継続された。
開発が滞った我が国の第III相試験では、これらの課題は全く想定されていない。次のパンデミック時にワクチン試験に関与する関係機関は、このような予期せぬ事態に留意しておく必要がある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-10-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202406029Z