肝硬変・肝がん治療への応用を目的としたβ-catenin依存性シグナルによる肝代謝機能制御機構の基礎的研究

文献情報

文献番号
201009024A
報告書区分
総括
研究課題名
肝硬変・肝がん治療への応用を目的としたβ-catenin依存性シグナルによる肝代謝機能制御機構の基礎的研究
課題番号
H22-政策創薬・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
関根 茂樹(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子病理分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
2,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
β-cateninは肝小葉内での領域特異的な遺伝子発現制御に重要な働きを果たしており、この制御を通じて種々の代謝機能の調節に関わっている事が明らかにされつつある。さらに、30-40%の肝細胞がんではβ-cateninの変異の存在が知られている。本研究では肝細胞の代謝機能調節に関わるβ-catenin の役割に注目し、その肝硬変、肝細胞がんにおけるβ-cateninシグナル異常の病態への関わりを明らかにし、このシグナル制御を通じた、肝硬変における肝代謝能の改善や肝細胞がんの診断・個別化治療への応用のための基礎を築く事を目標とする。
研究方法
本研究では、マウスモデルの解析によりβ-catenin の生体肝における生理的機能を明らかにし、これを基盤として、肝硬変および肝細胞がん臨床検体の解析によるヒト疾患でのβ-catenin シグナル異常の病態への関わりを検索する。
結果と考察
β-cateninの肝臓における胆汁酸代謝制御への役割を明らかにする目的で、肝細胞特異的β-cateninノックアウトマウスにおいて、胆汁酸およびビリルビンの動態の変化を検索した。この結果、ノックアウトマウスにおける胆汁酸産生の低下と、胆汁酸の排泄能低下を見いだした。また、複数の胆汁産合成酵素および胆汁酸トランスポーターの発現低下が認められた。以上の所見から、β-cateninは肝臓において胆汁酸産生と排泄を促進的に制御していることが示唆された。
 この結果に基づいて、ヒト肝細胞がんおよび非腫瘍肝組織の検索を行った。肝細胞がんにおいて、CTNNB1遺伝子変異の存在と多くの胆汁産生に関わる分子の発現や胆汁酸シグナルとの相関は認められなかった。しかし、CTNNB1遺伝子変異の存在とAMACR・SLCO1B3の発現が強く相関していた。
 AMACRは前立腺がんの大半で高発現しており、腫瘍の悪性度に寄与している事が示されている。今後、AMACRの肝細胞がん発生での役割に関して検討を行う。SLCO1B3は肝細胞特異的MRI造影剤であるGd-EOB-DTPAの主要なトランスポーターでもあることから、MRI造影画像をβ-catenin依存性シグナルの変化として理解できる可能性が示唆される。
結論
β-cateninシグナルは肝臓において胆汁酸の産生と肝細胞への取り込みに促進的に働いている。この制御の一部は肝細胞がんでも認められ、CTNNB1遺伝子変異陽性肝細胞がんはAMACR, SLCO1B3の高発現を示す。CTNNB1遺伝子変異はこれらの分子の誘導を通じて肝細胞がんの代謝特性に影響を与えていると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-01-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201009024Z