文献情報
文献番号
202406026A
報告書区分
総括
研究課題名
日本型パテントリンケージ制度において医薬品特許の専門家の意見を反映させる仕組みの構築に向けた調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24CA2026
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 浩(日本大学(法学部))
研究分担者(所属機関)
- 下川 昌文(山陽小野田市立山口東京理科大学 薬学部薬学科)
- 成川 衛(学校法人北里研究所 北里大学 薬学部臨床医学(医薬開発学))
- 清水 紀子(札幌医科大学 医学部先端医療知財学講座)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,596,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
①後発医薬品の承認審査において考慮される、先発医薬品の「物質特許」及び「用途特許」の定義・範囲、②日本型パテントリンケージ制度を運用する上での特許抵触の有無の確認や後発品の承認可否判断の基準、③同制度において、医薬品特許の専門家の意見を反映させる仕組みの提案について調査・検討を行うことを目的とする。
研究方法
①先発品の物質特許・用途特許に関する実務・論文等の調査、②先発品の物質特許・用途特許の効力範囲や特許侵害の成否に関する国内外の裁判例・学説等の調査、③先発品の用途特許の侵害訴訟における判決主文の分析、論文等の調査、④上記①ないし③を踏まえた後発品承認可否の判断基準の検討、⑤医薬品特許の専門家の意見を反映させる仕組みの検討を行う。
結果と考察
後発医薬品の承認審査において考慮される、先発医薬品の「物質特許」及び「用途特許」の定義・範囲を明確化した。なお、製法特許などは従来どおり対象外とされる。物質特許は、化学式等を発明特定事項とすることで医薬品の有効成分それ自体を特定しようとする特許であり、特許請求の範囲の末尾の記載から物質であることが明らかな特許であると定義できる。ここでは、その「塩」、「結晶」、「水和物」のみを発明特定事項とするクレームやプロダクト・バイ・プロセス・クレームのみで構成される特許は対象としない。用途特許は、医薬用途に特徴があり、これを発明特定事項としてクレームに記載する特許であり、特許請求の範囲の末尾における「治療剤」等の記載から医薬用途であることが明らかな特許と定義できる。「用法及び用量」が特定された特許(用法用量特許)や、対象患者や治療レジメンを細分化して、先発医薬品の効能又は効果や用法及び用量にはない文言を請求項に記載する特許(治療態様特許)についても、用途特許の一態様であるとして対象とする。バイオ医薬品に関しても、同様の基準によって物質特許・用途特許を取り扱い、それら特許について先発医薬品の特許抵触を確認する。
また、パテントリンケージの運用の中で医薬品特許の専門家の意見を反映させる仕組みについても提案する。あらかじめ、高度な法的知識を有する大学教員等の学識経験者又は医薬品特許に関する豊富な実務経験を有する弁護士若しくは弁理士から専門委員候補を選定し、この中から関係当事者と利害関係がない3名(原則)を、個別案件を担当する専門委員として選任する。専門委員は、厚生労働省を介して先発企業及び後発企業の双方から収集した資料等を踏まえて、後発医薬品が先発医薬品の特許に抵触するリスクを評価し、後発医薬品の承認及び製造販売開始後に特許抵触を理由としてその製造販売行為が差止めになる可能性の多寡について分析及び検討した上で、特許抵触の有無に関する意見書を作成する。この意見書は、専門委員が厚生労働省に対して、中立的な立場からの鑑定的な判断を示すものであり、何らの法的拘束力も有さない。厚生労働省は、当該意見書の内容を参考に特許抵触の有無の確認を行い、後発医薬品の承認可否の最終的な判断を行う。
さらに、パテントリンケージにおける特許抵触リスクに関する評価基準についても提案する。承認申請がされた後発医薬品の承認・製造販売開始後に特許侵害訴訟が発生した場合に、裁判所がその製造販売行為の差止めを認める可能性がどれほど高いかという観点から、自己の専門的知見を活かしつつ、過去の裁判例等に基づき、後発医薬品が特許に抵触するリスクを的確に評価する。
上記の3点を踏まえて、本研究の一端として、業界団体、有識者(実務家・学識経験者)にヒアリング調査を行ったところ、専門委員の選定や意見書の開示・公開等を含め課題が指摘されたが、パテントリンケージ制度に専門委員制度を導入することについては概ね賛同が得られた。
また、パテントリンケージの運用の中で医薬品特許の専門家の意見を反映させる仕組みについても提案する。あらかじめ、高度な法的知識を有する大学教員等の学識経験者又は医薬品特許に関する豊富な実務経験を有する弁護士若しくは弁理士から専門委員候補を選定し、この中から関係当事者と利害関係がない3名(原則)を、個別案件を担当する専門委員として選任する。専門委員は、厚生労働省を介して先発企業及び後発企業の双方から収集した資料等を踏まえて、後発医薬品が先発医薬品の特許に抵触するリスクを評価し、後発医薬品の承認及び製造販売開始後に特許抵触を理由としてその製造販売行為が差止めになる可能性の多寡について分析及び検討した上で、特許抵触の有無に関する意見書を作成する。この意見書は、専門委員が厚生労働省に対して、中立的な立場からの鑑定的な判断を示すものであり、何らの法的拘束力も有さない。厚生労働省は、当該意見書の内容を参考に特許抵触の有無の確認を行い、後発医薬品の承認可否の最終的な判断を行う。
さらに、パテントリンケージにおける特許抵触リスクに関する評価基準についても提案する。承認申請がされた後発医薬品の承認・製造販売開始後に特許侵害訴訟が発生した場合に、裁判所がその製造販売行為の差止めを認める可能性がどれほど高いかという観点から、自己の専門的知見を活かしつつ、過去の裁判例等に基づき、後発医薬品が特許に抵触するリスクを的確に評価する。
上記の3点を踏まえて、本研究の一端として、業界団体、有識者(実務家・学識経験者)にヒアリング調査を行ったところ、専門委員の選定や意見書の開示・公開等を含め課題が指摘されたが、パテントリンケージ制度に専門委員制度を導入することについては概ね賛同が得られた。
結論
本研究において、下記①~③の資料を取りまとめることができた。これらの資料は、今後、パテントリンケージ制度に専門委員制度を導入する際に参考にすることができる。
①後発医薬品の承認審査において考慮される先発医薬品の「物質特許」及び「用途特許」の定義・範囲
②専門委員における特許抵触リスクに関する評価基準
③パテントリンケージにおける専門委員制度の運用指針(案)の考え方
上述のとおり、多様な関係者へのヒアリング調査の結果、パテントリンケージ制度に専門委員制度を導入することについては概ね賛同が得られた一方で、業界団体においては団体ごとの意見の隔たりが大きいように感じられた。また、医薬品特許実務に精通した専門家は、事実上、先発企業又は後発企業のいずれかに偏った評価を行うのではないかとの懸念や、運用方法が未だ不明確との指摘もあった。こうした意見も踏まえた引き続きの検討が必要と考えられる。
本調査研究の成果が、パテントリンケージの運用改善に資することに期待したい。
①後発医薬品の承認審査において考慮される先発医薬品の「物質特許」及び「用途特許」の定義・範囲
②専門委員における特許抵触リスクに関する評価基準
③パテントリンケージにおける専門委員制度の運用指針(案)の考え方
上述のとおり、多様な関係者へのヒアリング調査の結果、パテントリンケージ制度に専門委員制度を導入することについては概ね賛同が得られた一方で、業界団体においては団体ごとの意見の隔たりが大きいように感じられた。また、医薬品特許実務に精通した専門家は、事実上、先発企業又は後発企業のいずれかに偏った評価を行うのではないかとの懸念や、運用方法が未だ不明確との指摘もあった。こうした意見も踏まえた引き続きの検討が必要と考えられる。
本調査研究の成果が、パテントリンケージの運用改善に資することに期待したい。
公開日・更新日
公開日
2025-06-30
更新日
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