ヒトゲノムにおけるDNA不安定領域の構造と機能に関する研究

文献情報

文献番号
199700748A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトゲノムにおけるDNA不安定領域の構造と機能に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
葛西 正孝(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトゲノムDNAの不安定性に起因する疾病は、 がんを始めとして神経疾患などの難病にも及んでいるが、 それらの発症機構はゲノム構造との関連の上でほとんど解明されていない。 本研究は、 ゲノム DNA不安定領域で作用する蛋白群とそれらの遺伝子発現の調節機構を疾病との関連に絞って研究をおこなう。 第一に、 ゲノムの特定部位が、 なぜ遺伝子組み換えの頻発する領域となるのか。 また、 他のゲノム領域と比較して構造上の違いがあるのか。
第二に、ヒトゲノムDNA不安定領域に共通する塩基配列を特異的に認識して結合するTranslin蛋白は、リンパ球系細胞と脳神経細胞でどのような制御を受けてTRAX蛋白との複合体形成にかかわっているのかを明らかにする。
更に、Translin蛋白と特異的に結合する蛋白因子、RP58とTRAXの機能と遺伝子発現はどのように制御されているのか。また、 ヒトゲノムDNA不安定領域で作用する蛋白群の機能異常が疾病とどのように関連しているのかを解明する。
研究方法
ヒトゲノム上のDNA不安定領域の共通する塩基配列を特異的に認識して結合するDNA結合蛋白とその遺伝子構造を明らかにする。 本研究では、Translin蛋白に特異的に結合する蛋白群を酵母two-hybrid法で探索し、 それらの機能解析と遺伝子構造を明らかにすることによってヒトゲノム上のDNA不安定領域の構造と機能を解明する。 特に、 細胞分裂期における染色体の動態との関連の上で研究を進め、 ゲノムの高次構造解析と遺伝子治療の基盤的研究を実施する。
結果と考察
ヒトゲノム上のDNA不安定領域を認識するTranslin蛋白に特異的な結合を示す蛋白群の機能解析をおこなった。 その結果、Translinの機能が以下の様な細胞の基本的機能と密接に関連することを明らかにした。
Translin蛋白の機能の1つが DNA修復機構に関連していることを示唆するデータが得られた。
Translinの染色体遺伝子がヒト第2染色体2q 21.1にマップされた。 この領域はDNA修復機構に欠損のある疾病、XP(Xeroderma pigmentosum)に関与するERCC3蛋白の遺伝子座と一致する。
Translin白と特異的に結合する RP58 蛋白が、 塩基配列特異的に転写を抑制する機能を有し、 核内でヘテロクロマチンに結合していることを明らかにした。また、RP58の染色体遺伝子がヒト第1染色体q44 にマップされた。
Translin蛋白に特異的に結合するもう1つの蛋白、TRAXがTranslin蛋白と複合体を形成する際に組織特異的な制御を受けていることが判明した。 すなわち、Translinはリンパ球系細胞でホモポリマーを形成するが、 脳神経細胞では大部分がTRAXとヘテロポリマーを形成していた。TRAXの染色体遺伝子はRP58と同じ第1染色体のq41にマップされた。
ゲノムDNA不安定領域の研究は、 その長い歴史にもかかわらず、 研究は遅れており、 分子生物学的手法を駆使した研究の必要性が高まっている。 本研究は、 遺伝子組み換えの異常に起因する疾患の解析を端緒として発展したものである。 今後、 明らかにされた蛋白因子、Translin, RP58およびTRAX蛋白の機能解析と遺伝子構造を解明することによって、 疾患の分子レベルの理解と将来の遺伝子治療をめざした基盤的研究が展開されるものと期待される。
結論
Translinの機能を明らかにする目的で、invivoで蛋白質ー蛋白質のinteractionを解析する酵母 two-hybrid法を駆使して研究をおこなった結果、Translinとinteractする蛋白、TRAXと RP58を同定することができた。また、Translin, TRAX, RP58の染色体遺伝子がそれぞれ、 ヒト染色体、2q21, 1q41, 1q44と決定され、 疾病との関連を探る上で大きな進歩が得られた。更に、 それぞれの蛋白質の機能を解析することによって、これらの蛋白の相互作用が転写、DNA修復、染色体の動態と密接に関連していることを示唆する成果が得られた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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