文献情報
文献番号
202426005A
報告書区分
総括
研究課題名
令和時代の自然災害と健康危機管理:WHOの研究手法ガイダンスを見据えた研究推進
研究課題名(英字)
-
課題番号
24LA2001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
原田 奈穂子(国立大学法人岡山大学 学術研究院ヘルスシステム統合科学学域)
研究分担者(所属機関)
- 小坂 健(東北大学 大学院歯学研究科)
- 香田 将英(国立大学法人岡山大学 学術研究院医歯薬学域)
- 野村 周平(慶應義塾大学 グローバルリサーチインスティテュート)
- 大塚 理加(国立研究開発法人防災科学技術研究所 災害過程研究部門)
- 西岡 大輔(京都大学大学院医学研究科 社会的インパクト評価学講座)
- 笠岡 宜代(坪山 宜代)(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
- 坪井 基浩(さいたま赤十字病院 高度救命救急センター)
- 市川 学(芝浦工業大学 システム理工学部)
- 冨尾 淳(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
3年間研究の1年目である本年の研究では、第1に、Health-EDRMガイダンスに従い、東日本大震災後の日本における災害・健康危機管理研究の包括的なスコーピングレビューを実施し、研究動向、対象疾患、研究デザイン、災害フェーズ、保護因子等の観点から現状と課題を明確化する。第2に、災害関連死の疫学的定義について、各専門分野(一般人口、高齢者、生活困窮者、精神疾患患者、栄養、交通アクセス等)における予備調査を実施し、現行制度の課題と国際基準との相違を明らかにすることを目的とする。
研究方法
1. スコーピングレビュー
5つのデータベース検索により27,428件の文献が抽出され、重複論文削除後、10,970件についてタイトルおよび抄録に基づくスクリーニングを行った。除外基準として、1)対象者が災害地域外からの対応者や支援者である文献、2)質的研究のみを用いている文献、3)自然災害の影響を受けた個人の災害関連死、疾病、または健康関連症状を扱っていない文献等を設定した。最終的に1,287件を分析対象とした。
2. 災害関連死の疫学的定義に関する予備調査
予備調査項目は、1)災害関連死定義の国際比較、2)
能登半島地震における超過死亡推定3)心筋梗塞・脳卒中データ分析4)高齢者の要介護認定データ分析5)生活困窮者の文献レビュー6)災害時の食・栄養における分析、7)東日本大震災における災害関連死認定者分析8)道路インフラ被害との関係性分析
5つのデータベース検索により27,428件の文献が抽出され、重複論文削除後、10,970件についてタイトルおよび抄録に基づくスクリーニングを行った。除外基準として、1)対象者が災害地域外からの対応者や支援者である文献、2)質的研究のみを用いている文献、3)自然災害の影響を受けた個人の災害関連死、疾病、または健康関連症状を扱っていない文献等を設定した。最終的に1,287件を分析対象とした。
2. 災害関連死の疫学的定義に関する予備調査
予備調査項目は、1)災害関連死定義の国際比較、2)
能登半島地震における超過死亡推定3)心筋梗塞・脳卒中データ分析4)高齢者の要介護認定データ分析5)生活困窮者の文献レビュー6)災害時の食・栄養における分析、7)東日本大震災における災害関連死認定者分析8)道路インフラ被害との関係性分析
結果と考察
1. スコーピングレビューの結果
対象文献は東日本大震災とCOVID-19に約8割が偏在し、多様なハザードを俯瞰する情報ギャップが顕著であった。研究デザインは横断研究が48.3%を占め、縦断・介入研究は限定的。対象疾患では精神疾患が38%と最多で、PTSD・うつが主流だった。慢性非感染性疾患のうち悪性腫瘍や周産期合併症等の重要領域は極めて限定的。保護因子研究は14.1%にとどまり、WHO関連文献引用は4.2%に過ぎず、国際的ガイダンスとの接続が不十分であった。
2. 災害関連死の疫学的定義に関する結果
他国は医学的制度に基づく災害関連死集計を行っているが、日本は行政手続きに強く関連している。能登半島地震では統計的に有意な超過死亡導出が困難。宮城県分析では大規模災害が数か月にわたりAMI・脳卒中発症を押し上げ、高齢者が最も影響を受けた。熊本地震では震源近くの益城町・西原村で要介護認定率上昇が顕著。生活困窮者の災害関連死に関する実証的データは乏しく、69件の文献レビューでも明確な記述はわずかであった。
東日本大震災認定者755人の分析では、死亡診断書への災害関連性記載は9.8%のみで、71.0%は遺族の自己申告が根拠。死因は循環器系32.7%、呼吸器系27.7%が多く、平均年齢79.7歳、死亡期間中央値は21日。専門家ワークショップでは、現行制度が「弔慰金制度」に依存し、公衆衛生観点からの定義・記録・分析が不十分という構造的問題が指摘された。道路インフラ被害分析では、県庁からの到達時間増加率と災害関連死率に相関関係が確認された。
3. 米国西海岸火災対応
大学共同疫学研究が発災後1か月以内に開始。大気汚染に加え消火活動による化学物質の水源混入等、広範囲な影響が発生。州・郡行政は多言語で検索しやすいウェブサイトを早期立ち上げ、住民の健康推進活動や救済制度へのアクセシビリティ向上を図った。
対象文献は東日本大震災とCOVID-19に約8割が偏在し、多様なハザードを俯瞰する情報ギャップが顕著であった。研究デザインは横断研究が48.3%を占め、縦断・介入研究は限定的。対象疾患では精神疾患が38%と最多で、PTSD・うつが主流だった。慢性非感染性疾患のうち悪性腫瘍や周産期合併症等の重要領域は極めて限定的。保護因子研究は14.1%にとどまり、WHO関連文献引用は4.2%に過ぎず、国際的ガイダンスとの接続が不十分であった。
2. 災害関連死の疫学的定義に関する結果
他国は医学的制度に基づく災害関連死集計を行っているが、日本は行政手続きに強く関連している。能登半島地震では統計的に有意な超過死亡導出が困難。宮城県分析では大規模災害が数か月にわたりAMI・脳卒中発症を押し上げ、高齢者が最も影響を受けた。熊本地震では震源近くの益城町・西原村で要介護認定率上昇が顕著。生活困窮者の災害関連死に関する実証的データは乏しく、69件の文献レビューでも明確な記述はわずかであった。
東日本大震災認定者755人の分析では、死亡診断書への災害関連性記載は9.8%のみで、71.0%は遺族の自己申告が根拠。死因は循環器系32.7%、呼吸器系27.7%が多く、平均年齢79.7歳、死亡期間中央値は21日。専門家ワークショップでは、現行制度が「弔慰金制度」に依存し、公衆衛生観点からの定義・記録・分析が不十分という構造的問題が指摘された。道路インフラ被害分析では、県庁からの到達時間増加率と災害関連死率に相関関係が確認された。
3. 米国西海岸火災対応
大学共同疫学研究が発災後1か月以内に開始。大気汚染に加え消火活動による化学物質の水源混入等、広範囲な影響が発生。州・郡行政は多言語で検索しやすいウェブサイトを早期立ち上げ、住民の健康推進活動や救済制度へのアクセシビリティ向上を図った。
結論
本邦の自然災害後の健康被害に関する研究は、地震災害および縦断研究に偏重し、健康事象としては精神疾患が突出していることが明らかになった。また、HealthEDRMの示す研究報告に含まれるべき内容である、研究デザイン、データ収集地域、解析方法が明記されていない論文も複数確認された。大規模災害時、単一都道府県に限局せず広域での長期的影響が評価できる縦断研究を可能にする研究体制や、国主導での保健、医療、福祉を跨いだデータ収集システムの構築の検討、研究者の研究方法の点での能力強化、研究成果の政策への反映の迅速化に取り組む必要がある。
災害関連死の定義の国による多様性が示唆され、本邦では保健医療福祉従事者がこの用語を正しく理解した上で用いることでの、一般市民への啓発の必要性が示唆された。
それぞれの予備分析に向けたプロセスから、市町村レベルの小地域単位における超過死亡推定モデルの設計と、適用における現実的な課題が明確となった。人口規模の小ささや自然な死亡数のばらつきが大きい地域では、統計モデルによる推定結果に広範な不確実性が伴い、超過死亡を災害影響の指標として用いる際の限界が示され、モデルの高度化を踏まえた災害事象に特化したデータサイエンティストの能力強化、将来的にはリアルタイム登録システム整備が望まれる。
災害関連死の定義の国による多様性が示唆され、本邦では保健医療福祉従事者がこの用語を正しく理解した上で用いることでの、一般市民への啓発の必要性が示唆された。
それぞれの予備分析に向けたプロセスから、市町村レベルの小地域単位における超過死亡推定モデルの設計と、適用における現実的な課題が明確となった。人口規模の小ささや自然な死亡数のばらつきが大きい地域では、統計モデルによる推定結果に広範な不確実性が伴い、超過死亡を災害影響の指標として用いる際の限界が示され、モデルの高度化を踏まえた災害事象に特化したデータサイエンティストの能力強化、将来的にはリアルタイム登録システム整備が望まれる。
公開日・更新日
公開日
2025-08-14
更新日
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