エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型生殖発生毒性評価法の開発に資する研究

文献情報

文献番号
202425017A
報告書区分
総括
研究課題名
エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型生殖発生毒性評価法の開発に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KD1004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
小野 竜一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 第五室)
研究分担者(所属機関)
  • 桑形 麻樹子(帝京平成大学 健康医療スポーツ学部医療スポーツ学科)
  • 成瀬 美衣(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 伊川 正人(大阪大学 微生物病研究所)
  • 落谷 孝広(東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門)
  • 平林 容子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の有害性評価、特に化審法に基づくヒト健康影響の評価において、生殖発生への影響を迅速かつ正確に評価することは重要な課題である。現在広く用いられている発生毒性試験では、母動物への毒性とあわせて胎児の形態(外表、内臓、骨格)を観察し催奇形性を評価するが、この方法は観察者の熟練度に依存し、評価基準も必ずしも一定ではない上、膨大な労力と時間を要する。こうした背景のもと、より客観的かつ高精度な評価手法の開発が求められている。
近年、細胞から分泌され体液中を循環する小胞「エクソソーム」が注目を集めている。エクソソームは細胞特異的なマイクロRNAを内包し、疾患由来の分子情報を反映していることから、バイオマーカーとしての利用が期待されている。実際に研究分担者である東京医科大学の落谷らは、腫瘍由来のマイクロRNAを指標とした13種類の早期がん診断法(精度95%以上)を開発した実績を持つ。

こうした背景のもと、本研究では、体液中を循環するエクソソームに含まれるRNAを用いて、生殖発生毒性の客観的かつ高感度な評価法を確立することを目的としている。特に、母体血および羊水中のエクソソームを指標とする新規手法に、特定の臓器由来エクソソームを可視化・単離可能な“エクソソーム可視化マウス”を組み合わせることで、毒性機序に基づいた次世代型生殖発生毒性評価法の開発を目指している。
研究方法
本研究においては、毒性発現メカニズムを考慮した次世代型の生殖発生毒性評価法を確立することを目的に、以下の概要を行う。

● 妊娠中の服用により神経管閉鎖不全や指形成不全などの催奇形性や生後の自閉症などを発現することが知られるバルプロ酸と同様のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤作用を持つトリコスタチンAの妊娠マウスへの投与実験を行い、詳細な外表面観察、および、母動物血清および羊水よりエクソソームの抽出を行なう。次年度に次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析を行うことで、生殖発生毒性作用のバイオマーカー候補となるエクソソームRNAの単離を行う。

● in vivoの特性を高度に保存したin vitroモデルとされるオルガノイド3D培養法の培養上清中に細胞より分泌されるエクソソームを毒性指標として利用可能かを検討し、動物実験によらない次世代型代替法の評価を行う。
結果と考察
本研究では、バルプロ酸(VPA)の投与により、マウス胎児に催奇形性を誘発し、羊水中エクソソームRNAを用いた新たなバイオマーカーの探索を行なった。その結果、VPA投与によりHbb-y遺伝子の発現が、催奇形性胎児で特異的に誘導されることを明らかにした。さらに、神経管閉鎖不全や指形成不全などの催奇形性作用を持つバルプロ酸(VPA)と同様にヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を持つトリコスタチンA(TSA)の投与により、マウス胎児に催奇形性を誘発し、羊水中エクソソームRNAの遺伝子発現解析により、VPAと同様にHbb-y遺伝子の発現が、催奇形性胎児で特異的に誘導されるのかを検証することを計画した。実際に、TSA投与でも神経管閉鎖不全や指形成不全などの外表奇形や胎児・胎盤の体重減少が観察され、エピジェネティック異常が催奇形性の要因である可能性を示した。また、エクソソーム可視化マウスを用いて、母子間のエクソソーム交換やその起源の解析が可能となり、精度の高いバイオマーカー評価の技術基盤を確立した。さらに、肝臓特異的EGFP発現マウスからオルガノイドを樹立し、in vitro代替毒性評価系の確立にも成功した。
結論
本研究を通じて、催奇形性発現におけるエピジェネティック異常の重要性を示すとともに、羊水中のエクソソームRNAを用いた新規バイオマーカー候補を提示した。

また、胎児由来および母体由来エクソソームを分離・解析するための新たな技術基盤を確立した。加えて、肝臓オルガノイドからのエクソソーム分泌を指標とすることで、動物実験代替法のさらなる発展に向けた一歩を踏み出した。

今後は、Hbb-y遺伝子の活性化が他のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤による催奇形性にも共通して見られるかを検証し、エクソソームRNAバイオマーカーとしての有用性をさらに明確にする予定である。

また、肝臓オルガノイドを用いた評価系の精度向上を図ることで、非臨床試験における信頼性の高い代替法の確立を目指す。これらの成果は、新しい毒性評価指標や動物実験代替法の開発に寄与するものであり、今後の毒性研究において重要な知見を提供する。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202425017Z